CZAPEK アンタークティック ラトラパント 実機拝見&文字盤側スプリットセコンドクロノ機構を「推測」する

 By : CC Fan

Only Watch2021でもテーマカラーのオレンジのCVD加工を施した”サンライズ
”が話題となった、チャペック(CZAPEK)のアンタークティック ラトラパンテ
Only Watchでも「チラ見」はしましたが、今回レギュラーピースの「限りなく実製品に近い」サンプルが届いたという事で、改めて拝見してきましたのでレポートします。

また、ふんわり理解だった文字盤側スプリットセコンドクロノグラフと「トライポッド・ブリッジ」の構造も理解が進みましたので「いつもの」で追っていきたいと思います。



アンタークティックのレトロなケースに収まったスプリットセコンドクロノグラフ。
7時位置の永久秒針と4時位置の30分積算計が初作ケ・デ・ベルクとそのモチーフになった初代チャペックのNo.3430との連続性を思い起こさせます。
スプリットセコンドクロノグラフ機構を文字盤側に配置し、地板をダイレクトに見せて文字盤の代わりにすることでメカニズムが動く様を余すところなく観察することができます。

スプリットクロノグラフメカニズムは一つのプッシャーでスタート→ストップ→リセットを繰り返すモノプッシャークロノグラフ(2時位置のプッシャー)と、プッシャーを押した瞬間にスプリット針が停止しラップタイムを測定することができるスプリットセコンド機能(10時位置のプッシャー)を組み合わせています。
モノプッシャーの一度停止すると再度計測がスタートできない、という性質をスプリットでメインの測定は停止させずに任意の瞬間のラップタイムを測定することができる、という性質で補う事で二つのプッシャーで利便性を最大化しています。
個人的にはスプリットであればこの組み合わせが最も使いやすいと思います。

スプリット針は白に先端レッドという視認性最優先のカラーリングですが、通常時は時分針と同色のブルーの秒積算針の下に隠されるため主張しないデザインです。



未動作時、スプリット針は秒積算針に覆い隠されているため見えなくなっています。
計測時も同様で、必要に応じてラップタイムを測定するときだけ現れ、スプリットを解除すると再び秒積算計に追いついて消えます。



ボックス状のサファイア風防で針を横から眺めることができます。
秒積算針とスプリット針が重なっている様子が伝わるでしょうか?
更にもう一つ特徴的な点として、短針(時針)の方が長針(分針)よりも上にあります、これは後述するトライポッド・ブリッジメカニズムの都合と思われます。



先端が曲げられ、外周のカウンターに沿うようにして視差を減らすスプリット針と秒積算針。



スプリット動作時の様子。



薄いケースからボックス状のサファイア風防が突き出ている構造のため、ケースそのものは薄く見えます。



ラグなしでケースから角度をつけて直接ブレスレットが伸びるような構造、適切な遊びのブレスレットのおかげで装着感は良好。



アンタークティックの象徴となったC型のリンクでケースから直接ブレスレットが伸びています。
ブレスレットのほか、ラバーベルトに交換することも可能です。



ケースバックを撮り忘れたのでこれはオフィシャルフォトで。
クロノグラフの機構が文字盤側にあるため、ケースバックから見ると通常の自動巻き三針ムーブに見えます。

歯車にNo.3430からの意匠が見えます。

さて、文字盤側にクロノグラフやスプリットセコンドの機構を配置する、その鍵は「トライポッド・ブリッジ」という事はリリースでわかりましたが、いまいち完全には理解できていませんでした。
今回実機を眺めて大体理解できたので見ていきましょう。


通常のスプリットセコンドクロノグラフでは、ムーブメント側に地板に近い側から計時輪列・スプリット機構・クロノ機構の順で重なり、その出力も同軸で重なって出力される…というのを示したのが左の図です。
一番下にあるクロノグラフ機構からの出力(秒積算針)が中心、次がスプリット機構の出力(秒スプリット針)、そして計時輪列の出力(分針)で分針に筒カナが被さって分針、そして日の裏車で減速して筒車の時針になります。

この左の図のうち、緑のスプリット機構と青のクロノ機構を文字盤側に移動させるにはどうすればいいか?というのを示したのが右の図です。
そのままでは同軸の重なる順番が変わってしまいます、そのためにまず、スプリット機構とクロノ機構の出力を支える地板相当のブリッジを用意し、秒積算針と秒スプリット針の軸はここで支えます。
これがトライポッド・ブリッジの一つ目の機能です。
時分針はセンターからオフセットさせた伝え車でトライポッド・ブリッジの高さまで上げ、筒カナ相当の歯車に横から噛み合わせます、これがトライポッド・ブリッジの二つ目の機能です。
これにより時分針は秒積算針と秒スプリット針よりも外周になるため、通常のスプリットセコンド同様に秒積算針と秒スプリット針が最上位になる配置が実現できました。

またこの構造であればスプリット針の中空軸と秒積算針の細い軸が地板を貫通するために比較的長くなって傾きやすく、調整が難しいという問題も同時に解決することができます。
特に、中空軸でトラブルの原因になりやすいスプリット針の軸を短くできるのはメリットでしょう。


クロノ周辺の部品配置はこうなっています。
機構の美観を優先した水平クラッチにより、9時位置の4番伝え車からセンターの秒積算計の歯車に力が伝わります。
永久秒針(スモールセコンド)も同様の伝え車に噛みあって動作するインダイレクト表示になっています。
分積算計も同様、積算とリセットを行うハートカム付きの歯車と、表示を行う歯車が別になっていて、これはNo.3430の意匠の再現のためと考えられます。

二つのスモールセコンドの間にはスプリットを制御するコラムホイールがあり、1歯進むごとにスプリットペンチが開閉を繰り返します。



12時位置のコラムホイールはモノプッシャーのスタート→ストップ→リセットの3状態を制御し、それぞれのレバーに指令を送ります。
二つのコラムホイール、トライポッド・ブリッジは中央に揃えて配置、レバーも対称と非対称をうまく組み合わせた配置でメカニズムの面白さを表現しようとしたデザインと理解しました。

#wecollectrarepeople でコレクターからのフィードバックを集めて色々なチャレンジを行うチャペックらしく、今回のボックスは気合が入っていました。



ワインダーが埋め込まれ、交換ベルト、工具・マニュアル類を全て収納できる特製ボックス。



クッションの脇には取り外したコマを格納するスペースとピン取り外し工具が。
これはメーカー用ではなく全個体に付属とのこと。



ベルトのパターンに合わせたピン取り外し工具。



ワインダーはWOLF製、全世界対応のユニバーサルACアダプタか、単1電池二本で動作するとのこと。

今回改めてふんわり理解だった文字盤側スプリットセコンドクロノグラフの理解が進んだのは良かったです。



【関連 Web Site】

CZAPEK Geneve
https://czapek.com/

Noble Styling
http://noblestyling.com/