オメガ 「スピードマスター クロノチャイム」~ クロノグラフとリピーターを融合させたクロノチャイム機構を「推測」する

 By : CC Fan

2022年11月3日追記:キャリバー1932の構造が間違っていた箇所を修正し、オメガからの情報を追記しました。

先日、オメガより発表された、クロノグラフとリピーター(鳴り物)を融合させた世界初の超ド級コンプリケーション、クロノチャイム機構を搭載したスピードマスター クロノチャイムとオリンピック1932クロノチャイム。
「音が鳴るクロノ」と言うのは個人的にもとても興味深い対象なので、注目していました。



ニュースと言う形での掲載もまだではありますが、ムーブメントを「推測」していたところある程度の理解が得られたのでレポートしたいと思います。
推測して、あとから答え合わせというやり方に味を占めて再びです。

まずは「クロノチャイム」と名付けられたこのコンプリケーションがどのようなものか、自分の言葉として説明を試みます。
動画を見るのが分かりやすいでしょう。

最初はスピードマスタークロノチャイム。



理解を助けそうな図が出ていてありがたいです。
次にオリンピック 1932 クロノチャイム。



オリンピックで使用された競技用クロノグラフをイメージしたデザインで、ムーブメントを90度回転させ12時リュウズにしています。
基本的な構造は一緒なので、以降はスピードマスターの3時位置リュウズ、2時位置と7時位置のプッシャーをベースに見ていきます。

まず、鳴り物がない状態でのクロノグラフとしては1つのボタンを押すたびにスタート・ストップ・リセットを順に行うモノプッシャークロノグラフ(リュウズ同軸のプッシャーで作動)と、計測中に割剣(スプリット)によって計測を停止することなくラップタイムを測定することのできるスプリットセコンドクロノグラフ(2時位置のプッシャーで作動)を組み合わせたものです。

モノプッシャークロノグラフはボタンが1つで済むメリットはありますが、一度計測を停止してしまうと次はリセットしかできず、複数回ラップタイムを測定するような用途には向きません。
そこでスプリットセコンドを組み合わせ、ラップタイムの測定はスプリットで行うようにすればモノプッシャーの欠点をスプリットが補い、プッシャーの数は通常のクロノグラフと同じ2つで済むというメリットが得られます。



これに加え目玉の「クロノチャイム」機構と言うのは、測定後に7時位置の音符が描かれたプッシャーを押すことで、結果を2つのハンマーとゴングによる音として知らせる機構になります。
読み出し対象は通常のクロノ針(スプリットではない方)で、分単位を低音、10分単位を和音、1分単位を高音で鳴らし分けるデシマル(10進数)方式リピーターです。
クロノ動作時にリピーターを作動させることができるか?と言うのは公式情報だけでは判断できなかったので考えてみましたが、どうも無理そうです、おそらくクロノグラフ動作中はリピーターが起動できないようにブロックしているものと考えられます。

クロノ+鳴り物と言う機能の組み合わせに、新たなる提案した機構と理解しました。

コンプリケーションではありますが、マスターコーアクシャル規格に準拠、すなわち優れた精度と耐磁性も有し、「日常使いできる」コンプリケーションとして提案されています。
耐磁性に関しては通常のコーアクシャルムーブメントのシリコン素材の活用のほか、鉄素材が使われるゴングをムーブメント同様のセドナゴールドに変更したり、ハンマーやレバーも非磁性素材で作ることで実現していると見ました。



それでは、このクロノチャイム機構がどのように実現されているか見ていきましょう。


初出時、ケースバック側の分積算の軸と永久秒針の軸が逆向きだったのを修正しました。

オメガのクロノグラフがオリンピックの計時に初めて使われた年である1932のキャリバー番号はこのムーブメントがオメガにとって特別なものである、と主張しています。

2つのサブダイヤルの軸を基準に、文字盤側・ケースバック側が対比できるように回転し各部の名称をつけました。
目につくのは、リピーター機構のハンマーや調速用のガバナの他、通常であればケースバック側に配置されるテンプが文字盤側に配置されていることです。
これは各機能の配置を「最適化」した結果ここに納めるのが良いと判断したと理解しました。

ケースバック側は階層状のブリッジでモノプッシャークロノグラフ、スプリットセコンド機構がレイヤで重ねられています。


オリンピッククロノチャイムのケースバック側とも対比させてみましょう。

これを見ることで、前述のケースバック側が逆向きであることに気が付きました。


オメガからの公式情報により磁石を使ったマグネットガバナであることが確定したため「?」を取りました。

クロノチャイム機構が何をやっているか?と言うのは先ほどの動画から見ることができます。

一般的なリピーターは時分針の軸から時・クオータ(15分単位)・分を読み出しますが、クロノチャイムは各積算計の軸から分・10秒・1秒を読み出し、ハンマーを駆動します。
読みだす対象と値の範囲が異なってはいますが、リピーターの基本原理である「軸に取り付けられたスネイルカムで角度情報を戻る距離に変換し、戻る距離に比例した回数ゴングを鳴らす」は同じであることが分かります。

リピーター輪列の速度はガバナで制御されますが、ここにオメガとスウォッチグループが研究開発していたマグネットガバナ機構と思われるものが使われています。るように見えます。
これは粘性の関係で調整が難しい空気抵抗や音が発生する接触式ではなく、永久磁石の磁界で回転速度を制御するものです。
採用した一番の狙いは無音で速度制御が行えることだそうで、同じく無音の可変慣性ガバナよりも対応可能なトルク範囲が広く、調整精度が良いこともメリットであると考えられます。


外周部にSNが交互になるように配置された磁石が14組上下から可変羽根を挟むように配置されています。
遠心力で羽根が広がると磁界内に突入、磁石の吸着力によって羽根に抗力が発生することでブレーキをかけます。
入力回転速度が速いほど羽根が広がり、その分ブレーキが強力にかかるため、一種のフィードバック制御として機能し、入力回転が一定の速度になるように制御します。

別のイメージでは磁力は粘性の高い空気のように振る舞い、適切に設計すれば磁束は磁気回路内に閉じ込めることができ、外部に影響を与えないようにできます。


CGと実際のムーブメントの軸位置を対応させてみると構造が見えてきます。
ムーブメント中央にあるクロノ軸に取り付けられた10秒と1秒スネイルから秒情報を、15分積算計に取り付けられた分スネイルから分情報を読み出し、ハンマーを駆動します。
分スネイルは積算計の軸に直接ついている…とは思うのですが、今回は完全な確証は得られず「ふんわり」です。

この仕組みと最初に見たレイヤ構造から「なぜリピーターが読み取るのが通常のクロノ針の方なのか?」が見えてきます。



重なり合う機能を単純化したレイヤ(階層)構造としてあらわしたものです。

通常クロノグラフとスプリットセコンドクロノグラフの軸は同軸になっており、重なり方からスプリットセコンドの方がより内側になります。
この軸にスネイルを取り付けてリピーターが読みだすのですが、外側にある軸は通常クロノグラフの軸になるため、この重ね方の場合は読みだす対象が通常クロノグラフになる、と理解しました。



動画を見直して気が付きましたが、オリンピッククロノチャイムではゴングの根元はケース側に接続されています。
これにより一般的なリピーターの様にムーブメントに固定した時よりも効率よく振動が伝わり、また同じ素材(セドナゴールド)のゴングとケースは音響特性も似ているため余計な反射や減衰がなく音を放出できる、と考えられます。

まだ、完全に理解しきれていないところもありますが、まずは手掛かりとして分かったことをレポートしました。
実機を見ながら、クロノグラフ・クロノチャイムが動いているときのレバーの動きを見てみたい…
期待です!




【お問合わせ】
オメガお客様センター
TEL:03-5952-4400


【編集部より】
この2つの作品、「スピードマスター クロノチャイム」と「オリンピック1932 クロノチャイム」製作の背景や発表の様子、スペックなどをまとめたニュースを掲載していますので、ぜひそちらもご覧ください。
https://watch-media-online.com/news/6326/