アーミン・シュトローム 「オービット」のデイト・オンデマンド機構を探る

 By : CC Fan


アーミン・シュトロームのベゼルに日付を表示する機構を備えたオービット


機構をを詳細に見てみたい!と思いつつも機会がなくズルズルと伸びてしまいましたが、今回リージョナル・マーケット・ディレクターのエマヌエル・ビトン氏がおよそ3年ぶりに来日、という事で実機を拝見する機会が得られ、おおよそ理解できたのでレポートします。



ブランドの好調な状況を報告するエマニュエル。



勢揃いしたコレクション群。



今回の主役、オービット。

デイト・オンデマンド機構とはどのようなものでしょうか?



針で日付を表示するポインターデイト機構に、オフセンターダイヤルと「モード」という概念を持ち込み、より読み取り易くした機構と理解しました。

「定常」モードでは日付を指し示す針は12時位置に固定され、オフセンターの時分ダイヤルにを遮らなくなります、この停止位置は1日から31日のどのメモリとも違う位置のため、この位置に針が居る時は常に定常モードであり、モードを見間違える心配はありません。

10時位置のプッシャーでコラムホイール制御の機構を動かし、「稼働」モードに切り替えると針は反時計回りに回転し、現在の日付まで進みます。
24時を通過すると日付は1日時計回りに進み、31日でレトログラードし、1日まで一気に戻ります。
表示が「定常」モードであっても機構内のメモリー(日付車)は進むため、モードに関係なく常に正しい日付が記憶されています。

この機構はどのように実現されているか?と言うのをプレスリリースの時点で予想は出来ましたが今回実機を触って確証が持てました。



オービットのキャリバーASS20はグラヴィティ・イークォル・フォースのマイクロローター巻き止め付き自動巻きムーブメントASB19をベースにデイト・オンデマンド機構を追加したムーブメントと読めます。
デイト・オンデマンド機構は主に時分文字盤の直下に納められ、通常時はレバーの一部しか見えません。


差異はほとんど文字盤側に集中しているため、ムーブメント側からは区別がつきません。



基本の構造は31歯で1日1歯ずつ送られる、日付歯車にスネイルカムを取り付け、日付情報を高さ情報に変換、それをレバーで読み取ることで1日ずつ正方向に送り、逆方向はスネイルカムの落ち込みによって一気に退行させるレトログラード機構です。

ただし、読み取りレバーは単純にスネイルカムを読み取るだけではなく、同時にブロッキングコラムホイールによっても制御されています。
ブロッキングコラムホイールの柱にレバーが当たる(ブロックされる)とスネイルカムの最大高さ(31日)よりも高くレバーを持ち上げ、スネイルカムがどの位置であっても関係なくレバーを一定の位置、すなわち「待機」モード位置にセットするようになります。
コラムホイールが回転し、ブロックが解除されるとレバーは再びスネイルカムの高さ情報を読み取って高さに応じた日付を表示するようになります。

このようにスネイルカム式のレトログラードは歯車がかみ合うわけではなく一旦高さ情報に変換して読み取る、と言う特性を活かし、より高い位置で「上書き」してやれば表示を切り替えることができる、と言うことです。
スネイルカムの高さ範囲とブロッキングコラムホイールの高さ範囲を重ねないことで、「待機」モードの定位置と「稼働」モードの稼働範囲も被らないようにすることができます。



ほぼ1回転(360度)のレトログラードを実現するため、櫛歯の稼働範囲はかなり広くとられています。
櫛歯が可動範囲一杯動くと日付軸は反時計回りに一周し、1日~31日に加え、「待機」モードの位置それぞれに動くことができます。

時分表示がオフセンターのサブダイヤルなため、20日から28日あたりは特に日付針がダイヤルを覆うことが懸念されますが、オンデマンドなら必要な時だけ表示させるため問題にならないと言えます。



最後にASB19からのアグレッシブな変更ポイントとして、リュウズから繋がる時合わせ用の歯車が日付軸を通すためか通常のスポークを使った歯車から内周を支持構造で支えるリング歯車になっている、という点が目に付きました。

ASB19の巻き止め付きモーターバレル香箱と言い、なかなかの「俺のやり方」全開で個人的にはかなり好きです。


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