パテック フィリップ 5330Gのタイムゾーン連動補正デイト機構をクイックに「理解」する

 By : CC Fan

2023年6月28日追記:日付変更線の位置について追記しました

好評のうちに閉幕したパテック フィリップの「ウォッチアート・グランド・エキシビション」。

編集長による内覧会のレポートでもいくつかの日本限定モデルが紹介されていましたが、その中でデイト表示付きのワールドタイム、5330Gについて、特許を取得した自動的にタイムゾーンに合わせて日付を調整(進める/戻す)する”特許取得”の技術に興味を持ちました。




この機構がどうなっているのか、修正をしていたら日付がどんどん戻ってしまうのでは?とつらつらと考えていたのですが、実際に会場で解説を聞いた広田氏と話していて「なるほど」と理解できたのでレポートしたいと思います。
ただ、ある意味答えを見てるようなものなので、「推測」ではなく「理解」として見ていきたいと思います。



ご存じパテックのワールドタイムは、使い勝手をを追求し、10時位置のプッシャーを押すたびにタイムゾーンを1時間分進めるために必要な調整をすべて連動で行うことが出来ます。
これにより、一度合わせてしまえば、「今いる場所」を12時位置に持ってくるだけで時刻の同期など、細かいことを考えなくても使うことが出来ます。

今回、更にポインターデイト表示が追加され、タイムゾーン変更に合わせて日付の修正も自動で行うことが発表されました。
ここで疑問なのは、プッシャーは一つで進み方向しかないため、「素直」に実装してしまうと日付はどんどん進むのでは?とうことです。

過去にもタイムゾーンと日付表示に取り組んだ実装はいくつかあり、その方向性か?と思って推測していましたがイマイチピンとくるものではありませんでした。



と言うわけで、Twitterで色々考えた結論から。
時刻情報だけ見ていると一定方向にだけ回転しているのでどんどんプラス方向に進んでしまいますが、同時に地名リングのタイムゾーン情報の条件(日付変更線)でマイナスすることでシンプルに問題を解決しています。

Twitterだと流れてしまうので、クソパワポを作ってまとめておこう、と思い立ったわけです。


動作としてはタイムゾーンの考え方そのもの、すなわち「ローカルタイム(現地時刻)が24時を回ったらローカルタイムの日付が進む」と「日付変更線を西から東に跨ぐと日付が戻る」を素直に実装したもの、と読み解くことが出来ます。

独立して進み/戻しが出来る二つの31日歯車があり、それらの差を差動歯車機構で求めることで最終的な日付を作っています。
なぜこのような機構になっているのでしょうか?

まず、通常の時間経過による日付の進みの方から見ていきましょう。
24時間リングは計時輪列からのタイミングでゆっくりと回転し、24時間で1周します。
このリングの24時が12時位置を通過するという事はローカルタイムで24時を通過したという事なので日付が1日進みます。
これがタイムゾーン変更(移動)を伴わず、時間経過によって日付が1日進む場合です。
この場合、地名リング側は全く変化しないため、31日歯車の1日の進みがそのまま最終日付表示に現れます。

次にプッシャーによるタイムゾーン変更の時の時の動作を見ていきましょう。
24時間リングと地名リングはレバーの動作により、1プッシュごとに15°(1時間分)反時計回りに回転します。
これはメイン12時間表示のタイムゾーンを1時間ずつ切り替えている動作になります。

24時間リング側を見ると時間経過と同様に24時が12時位置をを跨ぐと日付が1日進み、31日歯車2が1日進められることで最終日付表示も1日進みます。

次に地名リング側を見てみましょう、タイムゾーンを変更し、地名表示でヌメアとアンカレッジの間にあるオークランドとミッドウェーの間に設定された(地名ディスク上の赤い点)日付変更線を跨ぐと1日戻ることになり、31日歯車1が1日戻されます。
これにより最終日付表示も1日戻ります。

これにより、ある時刻を基準にタイムゾーンを変更した場合、24時を回った時点で日付が進む、日付変更線を跨ぐと1日戻る、という計算を機械的に実行していることになります。
タイムゾーンを1回転させ手元の位置に戻ってきても進みと戻りが打ち消すため日付は1回転させる前と同じであり、何回転させても日付が進むことはなく、あくまでタイムゾーン変更では±1日だけ動くだけという事が分かります。

さて、この機構であれば、1つの31日歯車を2つの爪で動かせばいい、と考えるかもしれませんがそれはリスクがあります。
時刻リングと地名リングは全く関係ない情報を扱っているため、偶然同じタイミングで進みと戻りが起きてしまう可能性があります。
この状態では互いに逆方向に回転させようとしてロックしてしまったり、最悪の場合は破損に繋がります。
差動歯車であればそれぞれの31日歯車を独立に動かした後差動歯車で合流させるため、完全に同じタイミングでも動かすことができ、リスクを避けることが出来ます。

日付の修正機構はどちらかの31日歯車を送る機構を用意すればよく、個人的にはタイムゾーン変更時以外は使わない31日歯車1側かな?と推測しています。
地名も表示する(地名リングがある)ワールドタイムと言う特性を活かしてシンプルに日付の自動補正を実現した5330G。差動歯車でタイムリーだったこともあり、このようなレポートを作ってみました。