ミシェル・パルミジャーニ氏来日、「トリック」創作の源を語る

 By : KITAMURA(a-ls)
※6/14付で一部加筆しました。


6月のさわやかな日差しが射す青山の庭園レストランを訪ねる。
フレンチの巨匠「シェ・イノ」の井上 旭シェフが開いた、レストラン・ウェディングの草分け的存在としても名高い「マノワール・ディノ」に、ミシェル・パルミジャーニ氏がやってきたのだ。


ブランドからの案内状によれば、
ファーストモデルを発表した当時から、今日の新作発表に至るまでの「トリック」への思い、その創作の源、さらにはパルミジャーニ・フルリエが継承する時計づくりの美学について、本人より存分にお話をさせて頂く』ため、ミシェル・パルミジャーニ氏御本人が来日し、プレスやジャーナリストを招いてプレゼンテーションを開催するのだという。

その特別な舞台に選ばれた「マノワール・ディノ」は、東京の真ん中にあることを忘れてしまうくらい自然を感じられる見事な庭園を備えているのだが、こうした自然の中の密やかなルールこそが、実はミシェル・パルミジャーニ氏の時計製作にとって重要な規範となっていることや、パルミジャーニが創立21年、「マノワール・ディノ」は22年、片や時計製作に、片や伝統的フレンチにと、共に昔ながらの”良き伝統”を今に伝え守ろうと努める姿勢・哲学を想うと、まさに”巨匠は巨匠を知る”というロケーションであり、その得難い機会にお招きいただけた幸福に、いそいそと出掛けてきたわけである。


短いビデオがエンドレスで流れる会場。日本法人CEOの短い挨拶の後、"時計の巨匠”は定刻に現れた。

今年のパルミジャーニのコンセプトは「原点回帰」と言われる。その回帰の象徴とされるのが今年のSIHH で発表された「トリック・クロノメーター」だ。これはパルミジャーニ氏がフルリエのブランドで初めて設計・デザインした記念碑的名作「トリック」をルーツとする3 針モデルで、しかもそこには同社の自動巻きムーブメント第1号として知られるPF331が搭載されるという、1996年のブランド創業当時の精神とルーツに立ち返る明確な意思表示がなされている。

「トリック」 at 1996年(左)と、 at 2017年(右)


まずは「トリック・クロノメーター」というモデル名ゆえ誤解されがちな、クロノメーターとクロノグラフの用語の説明で、
「クロノメーターは独立検定機関COSC(スイス公式クロノメーター検定協会)の、ありとあらゆる面で考え得る限り最も厳しい検査と高水準な試験をクリアし、認証されたモデル」を指すことを説明した後、本題である「トリック」の解説にはいる。

●Toric(=円柱)の説明に使われた図版


もはや言うまでもないことだと思うが、モデル名の「トリック」は、"策略”とか"奇術”のトリックとは関係なく、英語で"円環の・円環状の”という意味を持つ「Toric」を語源としており、古代ギリシャ建築のコリント様式の柱基にそのルーツがある。これは若き日のパルミジャーニ氏が学んだ建築学からの造詣であり、「トリック」のケース・デザインにはさらに、縦に彫りこまれるゴドロン装飾や、均等に彫り分けるローレット模様、モルタージュ模様などアーキテクトのモチーフが反映されていることが、モニターの画像や図版を使って簡潔に説明されていく。

また、彼の作品にとってのもうひとつの大きなインスピレーション源となっている、自然界の法則についても語られた。


●自然界の造形とフィボナッチ数列の説明に使われた図版


●開演前に流されていたビデオ画像より、ケース寸法に現れる数字は偶然ではなく、すべてフィボナッチの黄金螺旋に関係しており、そうしたデザイン要素は、ブランドの様々なコレクションを横断して繰り返し見られると説明されている。



さらに、彫金のモチーフにも自然界のものを多く用いている例として、大麦の穂をモチーフとしたローターを解説。



最後にこの日のスペシャルとして、今秋発売予定の「トリック」の新作モデルが、世界に先駆けて初お披露目されたのだが、残念ながらこれは写真撮影がNGだったので、文章でヒント的な表現をするに留めるが、デイ&ナイト付きで二つの時間帯を表示し、指針式のデイト表示がレトログラードで動作する・・・というデザイン的にもパルミジャーニらしい素敵なモデルだった。

この日のプレゼンテーションの印象を簡単にまとめるならば、ミシェル・パルミジャーニ氏の時計製作の哲学的なバックボーンとなっている建築学的なエレメントや、自然の黄金律を表すフィボナッチ数列に基づく構造デザインなど、御本人にとっては語るまでもないくらい当たり前のことが、実はあまり伝わっていないことを感じたため、メディア向けに行われたレクチャーというイメージで、時計の新作プレゼンと言うよりも、学問的発表に近い印象とともに、時計製作を中心とするスイスの物づくりを愛し、その美点を保持・継承する必要性を憂うマイスターの純粋な訴えでもあったように感じた。

実はこのWATCH MEDIA ONLINEという当ニュースサイトの誕生には、2年前にミシェル・パルミジャーニ氏と語らう機会を得たことが大いに関係している。時計に対する氏の純粋さに導かれるように、個人ブログの行く末に悩んでいた自分の内面の、いろいろな複雑が解けていき、結果、ニュースサイトの発足へ向かうことが出来たことに対して、今も感謝の念を忘れてはいない。( http://alszanmai.exblog.jp/24605765/





2017年初夏の東京、”神の手を持つ時計師”として揺るぎのない名声を得た天才でありながら、「原点回帰」という清廉さ故の、ある種の清々しさを漂わせる巨匠が、そこにはいた。





●パルミジャーニ・フルリエ「トリック クロノメーター」/184万円(税別)。Red Gold/WG 同価格。



【問い合わせ】
パルミジャーニ・フルリエ・ジャパン㈱

https://www.parmigiani.com/en/