オーディマピゲ スーパーソヌリ クローディオ・カヴァリエール氏 ジュリオ・パピ氏 テクニカルインタビュー

 By : CC Fan


オーデマ ピゲ(Audemars Piguet)が2015年にコンセプトRD#1として発表し、大きな注目を集めたスーパーソヌリ機構は、腕時計サイズのミニッツ・リピーターの音響的な最適化を図るため、音響盤を用いるという構造的な革新に挑み、"手本"とする懐中リピーターに匹敵する響きと音量を得た機構です。

発表の翌年、2016年にはロイヤルオークコンセプト・スーパーソヌリとして発売が開始され、そして今年のSIHHではジュール オーデマ・ミニッツリピーター・スーパーソヌリとして古典的なフェイスを持つジュールオーデマに搭載、ついにドレスウォッチとしても実用化されたスーパーソヌリの秘孔について、グローバル ブランド アンバサダーのクローディオ・カヴァリエール氏、オーデマ ピゲ・ルノー エ パピのジュリオ・パピ氏から直接解説していただく機会を得られました。

●グローバル ブランド アンバサダーのクローディオ・カヴァリエール氏(左)、オーデマ ピゲ・ルノー エ パピのジュリオ・パピ氏(右)


まずは、通常のミニッツ・リピーターと比較して、まったく比類のない豊かで大きな音量を聴かせてくれるスーパーソヌリにおいて、最も重要な役割を果たす音響盤について語っていただきました。

●音響盤を持つジュリオ氏

音響盤はギターなどの楽器のボディーと同じく、音を響かせるための空間を創出するためのものですが、驚くべきことに今までのミニッツ・リピーターには存在しなかったのです。スーパーソヌリはここに着目し、史上初めて腕時計に音響盤をとりつけました。最初期の試作では、楽器などでも使われるブロンズ(青銅)で共鳴盤を作り、効果を確認したそうです。

これについてジュリオ氏は、
『設計時に厳密な音響計算を行ったことにより、試作を繰り返すことなく、一回の試作で目標とする音色と音量が得られ、設計理論の正しさを証明することができた』
と、この機構が理論的・数値的に統制されたものであることを語り、さらに、
『音響的にはブロンズが最良だったが、酸化しやすい銅を主成分とするブロンズは錆びやすく、人の汗にも弱いため、実用を考え製品版は素材をグレード5チタンと銅の合金に変更した上で最適化を行い、ほぼブロンズと同じ性能を実現することができた』
と、実用性を重視したうえで、耐久性への考慮についても語ってくれました。 

ただこの音響盤は、リピーターのゴングだけではなく、ムーブメントの脱進音やガバナーの動作音など、あらゆる音を増幅する可能性がありました。特にハンマーを調速するガバナーの音については、せっかくのゴングの音の素晴らしい鳴響をスポイルしてしまいかねないため、新たなサイレント・ガバナーも開発されました。

ミニッツ・リピーターのガバナーは回転の遠心力で広がるブレーキが壁面をこすることで速度を制御するものや、慣性モーメントを変化させる慣性ガバナーなどがありますが、オーデマ ピゲはアンクル脱進機に似たアンクルによって速度を制限するアンクルレギュレーターを用いています。


●古来のアンクルレギュレーターの模型

これは昔からミニッツ・リピーターに使用されているもので、リピーターを作動させたときに"ジー"という機械音を出しているのがこれです。しかし、ジュリオ曰く、
『回転の遠心力を使ったものは、長時間使わなかったりすることで油が偏って、動かなくなってしまうことがある。しかしアンクルレギュレーターではそのようなことは起きないので、機能としては最も適したものだ』
とのことでした。

新しいサイレント・ガバナーも動作原理としてはアンクル脱進機に準じていて、アンクルの二つの爪が交互に歯車の歯に引っかかり停止させることで速度を制限します。
速度は遅いうちは抵抗が少ないですが、加速するとアンクルの抵抗が増え、結果としてトルク対速度の関係が一定になるように制御します。
ただ、歯車とアンクルがぶつかり合う衝撃によってエネルギーを就てる構造であることは同じため、このままでは衝撃音がガバナーのノイズとして発生してしまいます。 動作原理上、ぶつかりをなくすことはできないため、アンクルの爪をバネ要素にして当たり方をソフトにすることで音の発生を抑えるという考え方により、新しいアンクル部品が作られました。


●新たに考案されたバネ状の新アンクルの模型

歯車から見て当たる面の位置は同じですが、それぞれが細いバネ要素になり当たった時の衝撃を緩和します。

複雑な形状の部品ですが、ジュリオ氏曰く、
『伝統的な時計製造の技法とスチールによって作られ、後年メンテナンスが不安になる新素材は一切使っていない』
そうです。

また、部品が細くなったりバネ状になったことによる耐久性の低下の懸念に対しては、
『2500万回アンクルと歯車が当たるテストを行っても摩耗は見られなかった。これは、1日1回リピーターを鳴らすことを75年毎日続けるか、もしくは、1日25回リピーターをならすことを3年間毎日続けるのに等しい。ここまでやって問題がなかったので、これ以上は続けるのは無意味と判断しました』
とのことでした。
このバネ要素により衝撃音は抑えられ、ガバナー音はほとんど聴き取れないほどに低減されました。

また、大きな改良点として、通常のリピーターで、「時」→「クオーター」→「分」と鳴らす場合、クオーターがない際に時と分との間隔があきすぎてしまう問題が解決されています。

これについては、
『どういう説明が一番わかりやすいか、ずっと考えているのだけれど、まだ思いつかない…』
という前置きがありましたが、
『…リピーターは、鳴り方にかかわらずリピーターの時刻の読み取りが、"同じ距離を走る"ような機構で、つまり、クオーターが鳴らない場合もラックは無音分の距離を動く時間が必要なので、それが無音の間になってしまいます。しかしスーパーソヌリでは、余分な部品を増やすことなく、基本的な構造も変えてはいませんが、"クオーターの音が鳴らない区間"を分の後にまとめることに成功したのです』
と説明していただきました。

また、誤操作によるリピーター破損の防止機能として、スライダが引かれリピーターが動作を開始するとリュウズが引き戻されてロックがかかり、時刻合わせができなくなる機構が備えられています。逆にリピーター稼働中はリューズを引くことができません。
このような安全機構と、スーパーソヌリ構造により音響盤とケース間に防水パッキンを入れることが可能となり、防水性を確保したため日常的に使える実用的なリピーターが産まれたわけです。

スーパーソヌリを含めた開発について、とオーデマ ピゲ・ルノー エ パピの役割分担を訊ねたところ、二人は笑いながら、『オーデマ ピゲとオーデマ ピゲ・ルノー エ パピは同じ会社ですから、対等にアイディアを出し合って開発しており、自由な発想で新しい機構を考えていくことができます』
と語ってくれました。

 

この素晴らしいスーパーソヌリのムーブメントを可視化できような設計は可能ですか、という問いに対して、
『それは確かに問題で、音響盤を透明にするのはとても難しいのです。透明で音響特性を満たす素材がまだ見つかっていないからです。例えば一般的なサファイヤ・クリスタルは硬すぎるため、それを紙の薄さぐらいにしないとグレード5チタンと銅の合金同等の音響特性は得られません。木で作られたギターに張られた弦を、そのままコンクリートの構造に張っても音は出ないでしょう…』
という回答でした。ただ、これからも開発は続けるそうなので将来に期待したいと思います。

インタヴューをした銀座ブティックには1889年の懐中リピーターや1920年・1990年代の腕時計リピーターなど歴史的なピースも持ち込まれ、スーパーソヌリと比較することもできました。確かに懐中時計にもまったく劣らない音色・音量を実現しているのが実感できました。

 ●リピーター機能を搭載したヒストリカル・ピース

リピーターの最終的な音決めについては絶対音感を持つ時計師が担当する伝統に従った作り方を守っていますが、スイス連邦工科大学ローザンヌ校と共同開発した音響ソフトウェアによるサポートなども取り入れ、絶対音感を持たない時計師も製造にかかわってしているそうです。

これらの品質管理により、『同一モデルでは、音に個体差はありません』と自信を持って語ってくださいました。


開発者から直接話を伺える機会は大変貴重で、あまり理解できていなかったガバナーなども理解することができ、非常に興味深い内容でした。ありがとうございました!


ジュリオ・パピ(オーデマ ピゲ・ルノー エ パピ ディレクター・写真・右)
ジュリオ・パピは1965年5月22日に、スイス時計製作の神聖なる揺り籠であるラ・ショード・フォンで生まれました。子供の頃から機械学に魅せられていた彼が、時計づくりの道へと進んだのはごく自然な成り行きでした。1984年に時計師/修復師の課程を修了した後、工学の研究をさらに続けることも考えましたが、「4年間を学校で過ごした私は、小さな金属の部品に生命を吹き込んでみたいという思いを抑えられなくなっており、また理論と実践の両方の分野において充分な準備ができているとも感じていました」。そして、ジュリオ・パピはオーデマ ピゲに入社します。「当時から、そして今でも、オーデマ ピゲは私の一番好きなブランドです。広告にはいつも時計の複雑機構が掲載されていて、自分でそれを手がけることが私の夢でした」と彼は語りました。オーデマ ピゲに1986年まで在籍したジュリオ・パピは、同期入社のドミニク・ルノーとともに自らの工房を創設します。 2人はル・ブラッシュからル・ロックルへと拠点を移し、複雑機構を搭載した時計の製作を数年感続けた後に、工房の拡大を目指しました。1992年にオーデマ ピゲが支援を開始したことで始まった財務面、生産面、そして商業面での多岐にわたるパートナーシップは、その後ますます強固なものとなっています。
起業家、職人、そしてアーティストでもあるジュリオ・パピは今日、時計づくりの天才と称されています。2008年に、ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリの最優秀時計師賞を受賞し、その3年後に職人技に対する認知向上を目的とした「Horological finishing and decoration(時計の仕上げと装飾)」という本を上梓しています。
「趣味で身を立てることができるというのは幸せなことです。仕事ではなく、情熱なのです」と、ジュリオ・パピは語りました。「これまでに私が手がけた時計の全てに誇りを持っています。全てが完璧でありながら、ひとつひとつの時計に語るべきストーリーがあるからです。独立精神と高い要求水準を常に維持してこられたことを嬉しく思っています」。驚くべきことに、彼はこれまでに自分自身のために時計を購入したり、製作したことはないのです!「時間がないんです」と彼は微笑みました。「でも、妻のために時計をつくったことはありますよ。小型の、パーペチュアルカレンダーを搭載したオーデマ ピゲの時計です。妻のことを思いながらつくりました。私の結婚指輪のサイズと厚さに揃えたメカニズムに、380もの部品を収めました!」。


クローディオ・カヴァリエール(グローバル ブランド アンバサダー:写真・左)
1972年、ジュネーヴ生まれ。機械工学と経営学を専攻した後、1997年モヴァド・グループの製品開発製造プロジェクトマネジャー職を皮切りに、数々の時計ブランドのプロダクトマネージャーを経て、2007年にオーデマ ピゲに入社。プロダクト開発製造のトップ、続いてマーケティングのトップを歴任した後、2014年より“グローバル・アンバサダー”としてオーデマ ピゲの魅力を顧客に伝える活動を行っている。

参考記事
https://watch-media-online.com/blogs/417/
https://watch-media-online.com/sihh/364/






オフィシャルHP
www.audemarspiguet.com


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