パネライのハイテク素材 BMG Tech・カーボテック・Ecoチタン

 By : CC Fan

アイコニックなデザインをかたくなに守りながら、様々なハイテク新素材を提案するパネライ。
一見すると矛盾したようにも見えますが、伝統を守りながら挑戦するというブランドに相応しい姿勢ではないでしょうか。

昨年のSIHHでは金属3Dプリンティングテクノロジーにより、金属素材であるチタンを使いながら、中空構造により非常に軽量なケースを実現したロ シェンツィアート ルミノール1950 トゥールビヨン GMTチタニオを発表しましたが、今年の新作にもハイテク素材が使われています。

ハイテク素材のBMG Tech・カーボテック・Ecoチタンについてお話を伺えたのでレポートします。



まずはBMG Tech、BMCとはバルク金属ガラス(Bulk Metallic Glass)の略で、リキッド・メタルとも呼ばれる物質です。
最大の特徴は規則正しい結晶性の元素構造を持つ通常の金属と違い、結晶がランダムな非結晶性(ガラス転移)を持つガラス金属であり、ある程度体積のあるバルク(Bulk)を鋳造によって一気に製造することができるという点です。
いわゆる、アモルファス金属と呼ばれるもののなかで、より特殊な一部だそうです。



最大のメリットは元になった金属、ジルコニウム・アルミニウム・チタニウム・ニッケルを単純に混ぜ合わせた合金に比べ、強度(剛性・耐衝撃性)が高く、耐蝕性や耐磁性にも優れるという夢のような性質を持っています。

強度が強い理由はいくつかあるようですが、すごく雑な理解だと規則正しい結晶では規則正しいが故に、結合が弱くなる方向が一致してしまい、弱い"目"(すべり面)ができてしまいますが、結晶がランダムであれば弱くなる方向が打ち消しあい、弱い"目"は生まれない…と理解しました。

また、耐蝕性に関しては結晶が不均一であるということは結合が金属元素が露出していて化学的活性が高く、空気中の酸素とすぐに結合して酸化膜(不動態被膜)を生成するため、錆びにくいといういうことのようです。
これは、ステンレスや純チタンの化学的活性が高いことで、あっという間に酸化する(いい性質の錆が発生する)ことで、錆びない(悪い性質とされている錆が発生できない)のと同じメカニズムです。

耐磁性に関しては結晶構造的に耐磁性がある…というようなことでしたが、完全には理解できておりません。

このように優れた性質を持つ金属ですが、"非結晶性"を実現するために特殊な製法が必要となります、これについては今年から新設された研究開発についてのブースであるSIHH Lab(VC&Aの跡地に設置)にて研究者の方から伺うことができました。



素材としては銅・アルミ・ニッケル・チタン・ジルコニウムをベースにしており、それらを混ぜ合わせたものをいったんペレット状にします。



その後、高温で融解させた状態で、高圧をかけて熱した鋳型に流し込んだのち、0度以下の冷媒を使って急冷(数秒単位)して一気に凝固させることで結晶が揃う前の液体のランダムな状態のまま固めて成形します。
この方法は鋳型により最終形状に近い形を作ることができるため、固まりの金属から打ち抜いたり削るよりも"エコ"であるという点もアピールされていました。



ブースではケースとリューズプロテクター(4つを一気に整形)の例が展示されており、鋳造後に切削と磨きを経て最終形になるようです。



BMG Techは今までの作品にも使われていましたが、今年のサブマーシブル BMG-TECHでもう一つのハイテク素材であるカーボテックのベゼルと初めて組み合わされました。



カーボテックはパネライが開発した強度に優れた炭素素材です。

強度の秘密を探ってみましょう。
炭素素材はベースとなる炭素繊維で編んだシート状の素材を"つなぎ"となる樹脂素材で固めた構造で、"つなぎ"の樹脂素材は一般的に炭素繊維に比べて強度が低いため、なるべく最少の量で固めるようにした方が強度が上がります。
カーボテックでは"つなぎ"の樹脂素材に通常のエポキシ樹脂ではなく強度に優れたPEEK(ピーク:ポリエーテルエーテルケトン)というスーパーエンジニアリングプラスティックを使用し、更に製造時に管理された高温・高圧により極限まで樹脂を追い出すことで強度を高くしています。
PEEKは単体でも耐熱性・耐疲労性・耐薬品性・難燃性に優れた優秀な樹脂で、カーボンと組み合わせることで理想的な強度と軽量さを実現しています。



また、カーボンは織物と同じで織り目の方向に対する力の方向によって強度が異なるという問題がありますが、これに対しては薄いシートの方向を入れ替えながらランダムに重ねることで互いに弱い方向が打ち消しあって全方向に強くなるというBMG Techと同じ原理で強化されています。
この重ね合わせのランダムさによりシートの重なり方に"ゆらぎ"が発生することで削った時に木目を思わせる独特の模様が現れ、個体ごとに異なる個性を持つ天然素材のような性質もあります。



この性質により、オーナーごとにユニークな"自分だけ"のカーボテックと思えるようなそれぞれがユニークピースと言える作品となります。
さらに、セラミックとは違い表面を研磨することも可能で、傷ついてしまっても再度研磨することで仕上げることもできるそうです。

これら二つとは別の方向にユニークなのがEcoチタンです。



"Eco"というのはこの素材が天然鉱石からの精錬ではなく、金属製品からのリサイクルで作られたことを表しています。
これは持続可能な社会に対するパネライの姿勢を表すもので、この素材を使用したサブマーシブル マイク・ホーン エディションはストラップもPETボトルをリサイクルしたPET素材を使うなど環境保護に対するソリューションを提案しています。



もとになっているチタン部品は主に航空機に使用されていたもので、航空機の安全基準上、充分なマージンを持って交換されるもので、航空機には使えなくても充分な品質を保っているものです。
これを一旦溶解させて、精錬し素材まで戻したのちに改めてグレード5の切削加工用チタンとします。



充分な品質を持つチタン合金から製造することで天然の鉱石から精錬するのに比べて省エネルギーで済み、廃棄物も減らすことができます。
Ecoチタンはこのリサイクル運動に取り組むサプライヤーの登録商標で、時計業界にはパネライが初めて導入した素材です。



ユニークなだけではなく、社会に対する問題提起まで行った素材を提案するパネライ、ますますユニークな素材に期待します!

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