グルーベル フォルセイ ハンド メイド 1 の衝撃

 By : CC Fan
1分前に情報解禁となり、ニュースが掲載されているであろうグルーベル フォルセイ(Greubel Forsey)のハンド メイド 1(HAND MADE 1)、久しぶりに実機が見たいと心から思える作品でした。
特にその名に違わぬ95%を手動工具のみで作りだした構造と、”手作り”というイメージを全く感じさせない完成度の高さはにわかには信じられません。



雑に言ってしまえば”Time Æon財団の時計師育成プロジェクトNaissance d’une Montre 1のグルーベル フォルセイ版”といった作品ですが、手探り感があったNaissance d’une Montre 1の経験をフィードバックしたグルーベル フォルセイの名前にふさわしい作品として自ら売り出すという姿勢と認識しました。

特に一人の伝統的な技能を持った時計師を育てることを重視し、作品はその成果物であったNaissance d’une Montre 1と違い、作品が最終目標であり、チームとしての作品作り、それぞれの専門技能を持ち寄り、”餅は餅屋”という作り方になっていることが大きな違いと感じました。

今から考えてみると、工房訪問の際、手動旋盤や手動ジグボーラーが揃えられていたのは、ユニークピースのためだけではなくこのプロジェクトのためだったのか!と納得します。



ジグボーラー・旋盤と確認用の実体顕微鏡のデスクが並べられた大型手動工具セクション。



自然光により、明るく照らされています。



地板を削り出すジグボーラー(治具中ぐり盤)、その名前の通り、治具(組み立て・加工時の位置決め・固定用の器具)を作るための工作機械で、CNCマシニングセンターよりも高精度を実現できるそう。
基本的に量産には向かず、加工品よりも高精度が求められる治具を作るための工作機械として使われていますが、少数の超高精度部品を作るのには向いています。
地板やブリッジなど軸物ではない部品はこちらで製造されているようです。

機械は古いもののようですが、デジタルカウンターが取り付けられています。
しかし、オペレーションは全て人手で行います。



別のタイプのジグボーラー。
マクロ撮影のデジカメをモニター代わりに使うというアイディアが。
ひょっとしてこの削っている部品は…!?



より小型のフライス盤。



検査セクションで検査しているのも今見ると…!?



焼き入れ・焼きなましを行う炉。

さて、Naissance d’une Montre 1と比べた場合のHAND MADE 1の印象について、誤解を恐れずに言えば”作りやすくしたな”と感じました。

グルーベル フォルセイのダブルトゥールビヨン30°にしてもトゥールビヨン24セコンドにしても、手作業で仕上げを行っているとはいえ、根底にあるのはCNC工作機械の進化による加工技術の進歩によって自由な形状が作れること・部品点数を増やしても作りやすいことだったと思います。
特に、傾斜トゥールビヨンの複雑な形状は工作機械の進歩があってはじめて作りえた形状でしょう。

Naissance d’une Montre 1は傾斜トゥールビヨンこそないものの、CNCを前提としたグルーベル フォルセイの設計の”簡易版”といった作りで、グルーベル フォルセイらしい計時を行う輪列と表示を行う輪列が別になっており、表示側には直接トルクがかからないインダイレクト(間接)輪列になっていました。
インダイレクトと位置合わせのための中間車が入った結果、ピニオンと歯車の数が増えてしまい、製造が大変だった…という”噂”は聞こえてきました。

その視点でHAND MADE 1を見ると、竜頭近くに配置されたシングル香箱に噛み合う2番車がセンターにあり、それに噛み合う3番車がムーブメント裏面に、そしてトゥールビヨンの駆動ピニオンという極めて”素直”な設計になっています。


ほぼ一直線に配置された駆動兼表示輪列。



ケースバック側からもシンプルさが伺えます。

ユニークな点としては同じ3番車にトゥールビヨンの駆動ピニオンと同じ歯数のスモールセコンドピニオンが噛んでおりトゥールビヨンとは独立したスモールセコンドを持ちます。
これはトゥールビヨンは”動く彫刻”として、時間表示の機能は持たせず、遮るものをなくして動きを堪能し、正確な時刻は別途スモールセコンドで確認するという姿勢と認識しました。
ダブルトゥールビヨン30°やトゥールビヨン24セコンドのインダイレクトスモールセコンドに比べればシンプルで同じ効果が得られる方法だと思います。

”すべてがゼロから創作”というのは大げさではなく、グルーベル フォルセイが求める基準を、”手作りだから”というエクスキューズなしで、手作業で作ろうと思って設計・製造をすべて見直した結果がハンド メイド 1のシンプルな輪列に帰着したものだと捉えました。

さて、基本的にはわかりやすい構造ですが、一つだけ謎のパーツが香箱の上にあります。



それがこれ、先方に確認したところ巻止め(Stopwork)だそうです。
裏面から見ると香箱周辺の地板にルビーが4つほど入っているので、表示こそないですが、パワーリザーブインジケーターのような巻き上げ量と解放量の差を計算する輪列があり、巻きすぎと解けすぎの時にこれをひっかけて止めるようです。
仕組みについてはより詳細な情報をお願いしているので、追加情報が得られ次第フォローします。

グルーベル フォルセイのほかの時計と同じく、ムーブメントは大きめで地板やブリッジも懐中時計並みの頑丈さを誇ります。
これは、腕時計的な消耗するパーツを設定した定期的なパーツ交換ではなく、なるべくパーツを活かして時計の寿命を保つという古典的なやり方をやろうとするとパーツ自体を頑丈にする方法以外ないという姿勢の表れだと思いました。

手作業をウリにするブランドはいくつもありますが、一種のパラノイア(偏執)とまで感じ、狂気すら感じさせるこだわりを持つという点で、比肩するものはなく、間違いなくこの時計は金字塔だと思いますし、あまり書きたくないですが、これこそ見る”べき”と言いたいと思います。

お値段はPOR、具体的な値はネットNGなので書けませんが、この内容なら”安い”とさえ思いました、残念ながら私の経済状況では逆立ちしても買えませんが、買えるような方の琴線に触れることを祈るばかりです。

手前味噌ですが、デテント天文台クロノメーターに”比肩”する魅力を感じました。

関連 Web Site

グルーベル フォルセイ
http://www.greubelforsey.com/en/

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