ヴィアネイ・ハルター ディープ・スペース・トゥールビヨン
By : CC Fanあけましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
新年の初ブログというとで何を書こうか迷いましたが、独立系ピースの紹介が途中で、ちょうど去年見た中でもっとも惹かれたピースを紹介するタイミングだったのでそれを紹介したいと思います。
(本当は去年内に書き終わらせたかったですが…)
そのピースとは、"奇才"ヴィアネイ・ハルター(Vianney Halter)のディープ・スペース・トゥールビヨン(DEEP SPACE Tourbillon)です。
ディープ・スペース・トゥールビヨン(トレイの代わりのノートPCバックの上)
このピース自体は2013年に発表されたもので、今となっては3次元(3軸)トゥールビヨンは各ブランドが出しており以前より珍しくなくなってしまっていますが、その3軸トゥールビヨンに最適化した設計は今でも注目に値すると思います。
このピースはSF映画、スタートレック:ディープ・スペース・ナインの宇宙ステーションからイメージを受けた独特のフォルムに注目しがちですが、3軸トゥールビヨンに最適化した機構的にも極めて理に叶っていると感じます。
三軸トゥールビヨン部分のアップ
ハルター氏が"付け足し"と評する、他の2軸/3軸トゥールビヨンは既存の時計輪列があり、4番車またはそれに準ずる歯車から先の脱進機部分をトゥールビヨン機構に置き換えたものでした。
この構造の場合、トルクが弱くなっている4番車で通常の脱進機/トゥールビヨンより重たい3軸分のトゥールビヨンケージを回さなくてはいけないため、香箱のトルクを大きくするなど、大がかりになってしまうデメリットがあります。
ディープ・スペース・トゥールビヨンの場合、3軸トゥールビヨンに合わせて輪列/運針機構を1から作り直すことで"最適化"した3軸トゥールビヨンを実現しています。
実現方法としては1軸トゥールビヨンの基本原理、"回転する歯車を固定し、その代わり脱進機構を載せたケージを回転させる"を素直に3軸に展開した構造になっています。
では、1軸ずつ見ていきましょう。
まずは30分で1回転する第1軸で、氏はクレードル(揺りかご)と呼んでいました。
2つの香箱から供給されたトルクは連結用の中間車を経て、この軸をダイレクトに回転させます。
他の軸と異なり、この軸だけは片持ちのフライングトゥールビヨンになっており、軸受け部には強固なセラミックボールベアリングが使われているそうです。
クレードル(着色前)
クレードルの外周部に沿うように同心円状の固定歯車が切られており、これに噛み合った歯車がクレードルの回転に沿って回転することで第2軸を回転させます。
クレードルに沿った固定歯車と噛み合った歯車(写真の真上)
第2軸はクレードルの直径方向を結んだ軸で、6分(360秒)で一周します。
この軸はクレードルの円周上の2点で支えることができるため、通常のルビー軸受けが使われています。
第2軸と同軸のクレードル上にクラウンギアが固定されており、これに噛み合った歯車が第2軸の回転に沿って回転することで第3軸を回転させます。
クレードル(着色後)、銀色の部分がクラウンギア、ルビーはまだ取り付けられていない
第3軸は第2軸に直交した軸で、第2軸の固定クラウンギアから中間車を経て駆動され、40秒で一周します。
回転数が少し早い以外は一般的なトゥールビヨンに準じており、固定された歯車の周りをガンギ車が回る構造です。
これも上下2点で支えることができるため、通常のルビー軸受けが使われています。
第3軸のトゥールビヨンユニット部分
全ての軸は歯車で滑りなく噛み合っているため、第3軸の速度が脱進機によって制限されることで、第1・第2軸も既定の速度で動くという仕組みです。
このように、加速輪列をそれぞれトゥールビヨンの各軸に置き換えた構造と言える仕組みで、既存の輪列に対する"付け足し"ではない最適化されたトゥールビヨンと言えます。
ちなみに軸の番号付けは公式の説明とは逆かもしれません…
組み込んだ状態では脱進機部分が回転してしまい緩急調整ができないため、別途ユニタス(ETA6497)を改造した専用の冶具にて緩急調整をしてから組み込むそうです。
専用冶具、トルクが等しくなるようになっているそうです
調整について語るハルター氏
さて、これで加速輪列はできましたが、時刻を示すための針はどうなっているのでしょうか。
真ん中にトゥールビヨンを配したため、通常の時分針は使えず、宇宙ステーションのアンテナのような針がベゼル側から飛び出している構造になっています。
30分で一周するクレードルの文字盤で隠れる外周部には時分針を動かすための"爪"が仕込まれており、ここから1/2に減速することで60分で一周する分針にしているそうです。
再掲:クレードル 外周部に飛び出ているのが"爪"
この"爪"と減速機構は常に噛み合っているわけではなく、30秒ぐらいかけて噛み合ってから分針を進ませるという動作になるため、分針は止まっては進む"セミ"ジャンピングという特徴的な動きで動きます。
時針は分針を1/12に減速するという通常の時計と同じ方法で動かしています。
時合わせの際にはクレードルの"爪"と減速機構の噛み合わせが外れるようになっており、自由に時間をセットでき、その間もクレードルは動き続けます。
これだけの複雑性を備えているにもかかわらず、ムーブメントVH113は部品数317個・41石と"たった"と言ってもいいような構成部品数でできています。
多軸トゥールビヨンは回転するためのスペースを確保しなくてはいけないため、ケースが分厚くなりがちです。
ディープ・スペース・トゥールビヨンもこの制約からは逃れられませんが、トゥールビヨンをセンターに配置し、ドーム状の風防を使うことで厚いのは風防のみで、金属製ケース自体は薄いという独特の構造になっています。
ケースと風防の関係
腕につけさせてもらいましたが、多少出っ張っている感じはするもののケースが軽量なチタンなのも相まって充分、ドレスシーン以外では日常的に使える軽さだと感じました。
私物のチャペック(Czapek)のケ・デ・ベルグ(QUAI DES BERGUES)と
見ての通り、ケース部分の厚みはあまり差がありません。
また、注目してもらいたいのはどちらも時間が合っていること!このピースは通常ピースでは青色のクレードルと針が黒色の特注ピースで訪問時に氏が自ら装着して最終チェック中というものを拝見させていただきました。
ケースバックはソリッドバック、これは機械を見せるより、"深宇宙(ディープスペース)"がケースの中に広がっているというイメージを伝えたいからとのこと。
ケースバックはソリッドバック
地板が薄く、文字盤側から見たときの"何もないところにクレードルが浮かんでいる"というイメージとの対比が面白いです。
氏の机の片隅に置かれた地板
本体はチタン製で軽く、公式スペックで90gしかありません。
チタン好きの私としてはとても惹かれます。
バックルはVHのロゴ入りのDバックル。
VHロゴ入りのバックル
サイドから
こちらも当然チタン製です。
動いている実物でないとなかなか魅力は伝わらないかもしれませんが、角度によって変わる表情を何枚か…
今思い返しても素晴らしいピースで、カンタロスと同じぐらい惹かれたのはこれが初めてです。
氏によると日本にも購入したオーナーがいらっしゃるとのことで、機会があればぜひ一度お会いしてみたいものです。
最後に公式(?)の動画を。
"The Four Dimension Watch for the Deep Space Voyager"というキャッチコピーが格好良いです。
ハルターさん、ありがとうございました!
氏にはSIHHのタイミングでお会いできそうなので、続報がありましたらまたお伝えいたします。
関連 Web Site
Vianney Halter
http://www.vianney-halter.com/index.php
コンタクト
contact@vianney-halter.com
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
新年の初ブログというとで何を書こうか迷いましたが、独立系ピースの紹介が途中で、ちょうど去年見た中でもっとも惹かれたピースを紹介するタイミングだったのでそれを紹介したいと思います。
(本当は去年内に書き終わらせたかったですが…)
そのピースとは、"奇才"ヴィアネイ・ハルター(Vianney Halter)のディープ・スペース・トゥールビヨン(DEEP SPACE Tourbillon)です。
ディープ・スペース・トゥールビヨン(トレイの代わりのノートPCバックの上)
このピース自体は2013年に発表されたもので、今となっては3次元(3軸)トゥールビヨンは各ブランドが出しており以前より珍しくなくなってしまっていますが、その3軸トゥールビヨンに最適化した設計は今でも注目に値すると思います。
このピースはSF映画、スタートレック:ディープ・スペース・ナインの宇宙ステーションからイメージを受けた独特のフォルムに注目しがちですが、3軸トゥールビヨンに最適化した機構的にも極めて理に叶っていると感じます。
三軸トゥールビヨン部分のアップ
ハルター氏が"付け足し"と評する、他の2軸/3軸トゥールビヨンは既存の時計輪列があり、4番車またはそれに準ずる歯車から先の脱進機部分をトゥールビヨン機構に置き換えたものでした。
この構造の場合、トルクが弱くなっている4番車で通常の脱進機/トゥールビヨンより重たい3軸分のトゥールビヨンケージを回さなくてはいけないため、香箱のトルクを大きくするなど、大がかりになってしまうデメリットがあります。
ディープ・スペース・トゥールビヨンの場合、3軸トゥールビヨンに合わせて輪列/運針機構を1から作り直すことで"最適化"した3軸トゥールビヨンを実現しています。
実現方法としては1軸トゥールビヨンの基本原理、"回転する歯車を固定し、その代わり脱進機構を載せたケージを回転させる"を素直に3軸に展開した構造になっています。
では、1軸ずつ見ていきましょう。
まずは30分で1回転する第1軸で、氏はクレードル(揺りかご)と呼んでいました。
2つの香箱から供給されたトルクは連結用の中間車を経て、この軸をダイレクトに回転させます。
他の軸と異なり、この軸だけは片持ちのフライングトゥールビヨンになっており、軸受け部には強固なセラミックボールベアリングが使われているそうです。
クレードル(着色前)
クレードルの外周部に沿うように同心円状の固定歯車が切られており、これに噛み合った歯車がクレードルの回転に沿って回転することで第2軸を回転させます。
クレードルに沿った固定歯車と噛み合った歯車(写真の真上)
第2軸はクレードルの直径方向を結んだ軸で、6分(360秒)で一周します。
この軸はクレードルの円周上の2点で支えることができるため、通常のルビー軸受けが使われています。
第2軸と同軸のクレードル上にクラウンギアが固定されており、これに噛み合った歯車が第2軸の回転に沿って回転することで第3軸を回転させます。
クレードル(着色後)、銀色の部分がクラウンギア、ルビーはまだ取り付けられていない
第3軸は第2軸に直交した軸で、第2軸の固定クラウンギアから中間車を経て駆動され、40秒で一周します。
回転数が少し早い以外は一般的なトゥールビヨンに準じており、固定された歯車の周りをガンギ車が回る構造です。
これも上下2点で支えることができるため、通常のルビー軸受けが使われています。
第3軸のトゥールビヨンユニット部分
全ての軸は歯車で滑りなく噛み合っているため、第3軸の速度が脱進機によって制限されることで、第1・第2軸も既定の速度で動くという仕組みです。
このように、加速輪列をそれぞれトゥールビヨンの各軸に置き換えた構造と言える仕組みで、既存の輪列に対する"付け足し"ではない最適化されたトゥールビヨンと言えます。
ちなみに軸の番号付けは公式の説明とは逆かもしれません…
組み込んだ状態では脱進機部分が回転してしまい緩急調整ができないため、別途ユニタス(ETA6497)を改造した専用の冶具にて緩急調整をしてから組み込むそうです。
専用冶具、トルクが等しくなるようになっているそうです
調整について語るハルター氏
さて、これで加速輪列はできましたが、時刻を示すための針はどうなっているのでしょうか。
真ん中にトゥールビヨンを配したため、通常の時分針は使えず、宇宙ステーションのアンテナのような針がベゼル側から飛び出している構造になっています。
30分で一周するクレードルの文字盤で隠れる外周部には時分針を動かすための"爪"が仕込まれており、ここから1/2に減速することで60分で一周する分針にしているそうです。
再掲:クレードル 外周部に飛び出ているのが"爪"
この"爪"と減速機構は常に噛み合っているわけではなく、30秒ぐらいかけて噛み合ってから分針を進ませるという動作になるため、分針は止まっては進む"セミ"ジャンピングという特徴的な動きで動きます。
時針は分針を1/12に減速するという通常の時計と同じ方法で動かしています。
時合わせの際にはクレードルの"爪"と減速機構の噛み合わせが外れるようになっており、自由に時間をセットでき、その間もクレードルは動き続けます。
これだけの複雑性を備えているにもかかわらず、ムーブメントVH113は部品数317個・41石と"たった"と言ってもいいような構成部品数でできています。
多軸トゥールビヨンは回転するためのスペースを確保しなくてはいけないため、ケースが分厚くなりがちです。
ディープ・スペース・トゥールビヨンもこの制約からは逃れられませんが、トゥールビヨンをセンターに配置し、ドーム状の風防を使うことで厚いのは風防のみで、金属製ケース自体は薄いという独特の構造になっています。
ケースと風防の関係
腕につけさせてもらいましたが、多少出っ張っている感じはするもののケースが軽量なチタンなのも相まって充分、ドレスシーン以外では日常的に使える軽さだと感じました。
私物のチャペック(Czapek)のケ・デ・ベルグ(QUAI DES BERGUES)と
見ての通り、ケース部分の厚みはあまり差がありません。
また、注目してもらいたいのはどちらも時間が合っていること!このピースは通常ピースでは青色のクレードルと針が黒色の特注ピースで訪問時に氏が自ら装着して最終チェック中というものを拝見させていただきました。
ケースバックはソリッドバック、これは機械を見せるより、"深宇宙(ディープスペース)"がケースの中に広がっているというイメージを伝えたいからとのこと。
ケースバックはソリッドバック
地板が薄く、文字盤側から見たときの"何もないところにクレードルが浮かんでいる"というイメージとの対比が面白いです。
氏の机の片隅に置かれた地板
本体はチタン製で軽く、公式スペックで90gしかありません。
チタン好きの私としてはとても惹かれます。
バックルはVHのロゴ入りのDバックル。
VHロゴ入りのバックル
サイドから
こちらも当然チタン製です。
動いている実物でないとなかなか魅力は伝わらないかもしれませんが、角度によって変わる表情を何枚か…
今思い返しても素晴らしいピースで、カンタロスと同じぐらい惹かれたのはこれが初めてです。
氏によると日本にも購入したオーナーがいらっしゃるとのことで、機会があればぜひ一度お会いしてみたいものです。
最後に公式(?)の動画を。
"The Four Dimension Watch for the Deep Space Voyager"というキャッチコピーが格好良いです。
ハルターさん、ありがとうございました!
氏にはSIHHのタイミングでお会いできそうなので、続報がありましたらまたお伝えいたします。
関連 Web Site
Vianney Halter
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