カーステン フレスドルフ 200年後も”直せる”ことを目指したスプログラフのムーブメント

 By : CC Fan
バーゼルで衝撃を受け、その後7月のスイス取材紀行でも訪れたカーステン フレスドルフ(Karsten Fräßdorf)、ご一緒した葛西氏が彼の哲学に惚れ込んで、なんと言われようと俺がやる!と、いろいろと進行中、今年は来日が実現しそうであります。
スペシャルピース for Japanも実現…!?

さて、去年のうちにまとめたかった彼の時計作り、特に際立った温度補正と慣らしを取り上げましたが、今回は修復のバックグラウンドを持つ彼らしい200年後も”直せる”ことを目指したムーブメントの構造を取り上げたいと思います。



200年前の時計が今日でも修復によって蘇るように、彼の時計も200年後の時計師が見れば意図を理解し、部品が破損していたとしても修復できるような構造にしたそうです。
また、現代的な部品交換を前提にするのではなく、なるべく部品そのものの寿命を延ばすような構造も心掛けています。



たどり着いたのは古典的なマリンクロノメーターやクロックで使われていた2枚のプレートをピラー(柱)で支える構造、この構造であれば横からムーブメントにアクセス可能で調整やメンテナンスも容易です。
2枚のプレートが挟んで支えているのはもっともトルクが大きな香箱と2番車の軸で、3番車と巻き上げの輪列は下側のプレートのブリッジで支えられ、トゥールビヨンは独立したピラーとブリッジで支えられています。

ピラーはネジ穴と共に位置決め用ピンも兼ねており、凸形状がプレートの穴に篏合することで位置を決定します。
平面に対して3点で位置決めを行うのでガタはありません。



上側のプレートも強固。
そもそも頑丈に作ることで”直せる”とともに、壊れにくいを実現しています。



トゥールビヨンケージだけを外した状態。
曰く、トゥールビヨンのメリットとして脱進機をユニットとして外すことができるので修理の時はトゥールビヨンだけ送るというすさまじい構想も。
トゥールビヨンに問題があった場合はこの状態でケージごと交換すればOK…とのこと。

写真を撮り忘れましたが、固定4番車が内歯車でケージが倒れないように支えるので、上側のブリッジがなくてもトゥールビヨンが回るほどの安定度があると。
また、この構造を利用したユニークな機構もあります。



当然慣れているでしょうが、この状態まで分解するのにかかった時間はわずか5分程度、外したネジはトゥールビヨンブリッジの固定で2本、上側プレートの固定で3本、巻き芯ユニットの固定で1本で、わずか6本を外すだけでここまで分解できます。



特に壊れやすい巻き芯周りは独立して取り外せるユニットにし、破損したとしても交換可能にしてあり、更に巻き芯を押し込む方向の力をスプリングで受ける一種のサスペンションを設けることで巻き芯に衝撃が加わってもムーブメントまでダメージが伝わらないようにしてあります。

ピラーのメリットとして必要以上に接地面積が大きくないので、固着してブリッジが取れなくなるリスクも少なく、サイドが開口しているのでひっかけて力もかけやすいです。



歯車も腕時計というより懐中時計を思わせる剛直さ、結局のところ大きさに勝る頑丈さはないのではないかと思えてきます。

近道も魔法もなく、整備性を良くすること、部品自体を頑丈にして長持ちするようにすることが200年後も”直せる”というある意味当たり前のことかもしれません。



過剰なほどの調整機構を持ったテンワも”直せる”要素です。
現在マッチングしているひげゼンマイが破損してしまい、ひげゼンマイごと交換することになっても調整範囲が広いため、時間をかけて追い込むことで元の水準まで追い込むことができるでしょう。
もちろん、調整ができる技能があるという前提ではありますが…



天文台クロノメーターを思わせるストイックな性能優先のデザインと理解しました。

ケースは45mmと大きいのですが、彼の求める”直せる”デザインはこの大きさでないといけなかったのだろうと思います。
天文台クロノメーターが生き残ったように、彼の時計も未来に生き残ってほしいものです。

関連 Web Site

Montres KF
https://montres-kf.com/

WCP(Watch Connaisseur Project)
https://www.wcp.swiss/

Noble Styling
http://noblestyling.com/