カーステン フレスドルフ 新ワークショップ動画とスピログラフのストップセコンド機能

 By : CC Fan

去年のバーゼルのインキュベータースペースで強烈な印象を受け、スイス取材紀行でワークショップを訪問したひげゼンマイに並々ならぬこだわりを持ち200年後も「直せる」ことを目指した時計作りを行うカーステン フレスドルフ(Karsten Fräßdorf)。

7月にご一緒したノーブルスタイリング葛西氏が日本での展開にとても前向き(むしろ私より入れ込んでいた)で、私も取材後もたびたびメールでのやり取り(日本を象徴する作品を作りたいので、日本を代表する有名な思想家とその著作を教えてくれと言う無茶ブリなど)を経て、「5月」のバーゼルでの再会とそのあと日本への来日も調整中ではありました。

…が、昨今の状況ですべて白紙に、メールにて彼の無事は確認でき、現在は籠って作業をしており、「リスクを避けて、家にいましょう」という事を確認、終息後の再会を約束しました。

さて、この変革の時期にあわせるように公式のYouTubeチャンネルを開設しているというタレコミがあり、ちょうど解説したかったポイント(トゥールビヨンストップセコンドシステム)が映っているので紹介いたします。

去年の工房訪問の時点では、まだ物がない部屋を案内され、「ここを整理し、より整ったワークショップにする」と案内された部屋が完成し、見事なアトリエが完成しました。


KF workshop(英語吹き替え版・カーステンも吹き替え)


KF atelier(フランス語オリジナル版・カーステンは地声)

動画ではワークショップの概要とフィリップスカーブによるひげゼンマイなどの精度のためのこだわりと共に、「秒単位で合わせる」ためのストップセコンド機能についても後半で述べられています。

スピログラフと言う名前の由来(似た構造の幾何学模様を描くための定規)の一つでもある、固定4番車にドーナッツ状の内歯車を使ったトゥールビヨンは上側のブリッジ無しでも安定して回るほどの安定度があります。
そしてもう一つのメリットは固定4番車がなくなったおかげで空いた、中央の駆動ピニオンから外周の内歯車による固定4番車の間のスペースを別の機能に使えるという事です。
カーステンはここにストップセコンド機能を組み込みました。

すでに図案をもらっていましたが、説明が難しいな…と思ってなかなか取り掛かれませんでしたが、今回の動画と合わせてみれば一目瞭然!という事で紹介いたします。



まずこれが上面図です。
巻き芯(1)を引いたときに有効化されるストップセコンドレバー(5)がトゥールビヨン付近まで伸びていることが分かりますが、上面図では上下関係が分かりにくいので斜めから見ましょう。



巻き芯(1)を引いて時合わせポジションにすることで、ストップセコンドレバー(5)が動き、トゥールビヨン下に待機している規制バネ(6)の円錐形部品に当たることで規制バネ(6)を押し上げます。
規制バネの先端はC型に成形されており、トゥールビヨンケージに設けられたストップセコンド用のリング(7.1)を押し上げます。

先程の上面図でA-Aの断面図で見てみましょう。


これは規制バネ(6)が押し上げられる前の状態です、ストップセコンド用のリング(7.1)は、バネ(7.2)によって定位置にいます、そこから伸びたピン(7.3)及び、ケージ内の振りを止める押さえ(7)も定位置に留まっており、テンワの振り座(7.4)はフリーの状態です。

この状態で規制バネ(6)が押し上げられるとどうなるでしょうか?



リング(7.2)が押し上げられることで、ピン(7.3)を通じてケージ内の振りを止める押さえ(7)も押し上げられ、テンワの振り座(7.4)を押さえ込み、振りを停止させます。
この方法は下からリングを押し、貫通したピンで振り座を押さえているため、トゥールビヨンとテンワの角度がどのようであっても確実に停止することができ、特に複雑な形状を持つカーステン方式のテンワに対してはここ以外で停止させることは難しいでしょう。



この形状で外周を押さえて止めるのはかなり難しいでしょう…
かつ、横から止める場合に問題になるトゥールビヨンケージのピラーの問題も同時に解決できます。

細部は違いますがある意味クロノグラフの垂直クラッチと考え方は似ているかもしれません。



私が拝見したスピログラフスポーツ用のCAL440にはこの機構がついていないように見えたのですが、動画内でも述べているようにオーナーごとの好みに合わせて作られるビスポーク機なのでこれにはなかったのかなと思います。

動画内でも写っていますが、スピログラフスポーツで特徴的なルミノバ付きテンワの迫力は写真ではなかなか伝わらないかもしれません。



もちろん面白さだけではなく、暗闇中でも時計が動いている!と充分に確認することができます。



特徴的なハニカム文字盤とのマッチングも素晴らしい。

さて、現在(2020年4月19日)にチャンネルにアップロードされている動画は3本、どうせなので最後の1本も紹介しましょう。



女性向けのスピログラフ レディ!
なんとテンワにジェムセッティングを施しています!



前回の工房訪問の時にもチラ見せが…



こちらは、「日光の下で見てこそ」と言うカーステンの誘いで屋外まで持ち出してみました。
考えてみればかなり怖いことをやってます…
これを持っているのはカーステンなので彼が良いと言えばOKですが。

また彼の作品を紹介できる日を信じて…

関連 Web Site

Montres KF
https://montres-kf.com/

WCP(Watch Connaisseur Project)
https://www.wcp.swiss/

Noble Styling
http://noblestyling.com/