突発的スイス取材紀行 カーステン フレスドルフ ラ・ショー=ド=フォン ワークショップ

 By : CC Fan
KIHさんのバーゼルレポートで紹介されたカーステン フレスドルフ(Karsten Fräßdorf)のスピログラフ スポーツ(Spirograph Sport)という高慣性モーメント温度補正テンワを搭載したトゥールビヨン超高精度機。
天文台クロノメーターを思わせる”全部やった感”は個人的にも大変興味深く、バーゼルでいろいろと話を伺ったものの、まだ書けていない…という状態になってしまっていました。

KIHさんの記事で、”自己資金”でやっていると伺ったので、そのバックグラウンドを知りたいと思い、突発的スイス取材紀行の直前に思い立って連絡、ワークショップを見学させていただくことになりました。
スピログラフも興味深いですが、長くなりそうなので別にし、今回はその制作を支えるワークショップをレポートします。



朝早くのラ・ショー=ド=フォン、あわよくば取り扱いしてくれないかな?ということで、前日合流したノーブルスタイリング葛西氏も一緒です。



マップアプリに場所だけ入れてあり、歩いていけるだろうと駅から歩いたのですが…



途中でなんかまずいぞと気が付いてバスに切り替え、あとから見ると4kmぐらいありました。
郊外の工業団地的な設備で、バスは通勤用に朝と夕方だけは知っている路線が多いようです。



ALLEE DU QUARTZという通りに。



向かい側にはタグホイヤーが…



工業団地的な建物です(看板は同じ建物に入っている別の企業)。



到着、WCP(Watch Connaisseur Project)というのはカーステンの会社らしい。



バーゼルぶりの再会。
最初に滞在時間を聞き、スケジュールをきっちりと作って説明するから!というドイツ気質。

まず疑問だったのは自己資金でやるにしても、あれだけの高精度なテンワや各種パーツをどうやって調達しているのか?ということ。

これについては、彼自身が超一流ブランド(いわゆる”マニュファクチュール”なブランド)にパーツを供給するサプライヤー(パートナーが経営)にかかわっており、その設備で部品を製造しているとのこと。
残念ながら工場の写真は掲載不可ですが、多額の設備投資がなされている最先端の工作機械を備えた数を作るための工場でした。
この最先端の設備を使うことで高品質の部品を手に入れることができる…ということでした。

彼自身は15歳から時計師として働いており、もともとは修復の仕事からキャリアをスタートさせたとのこと、200年前の時計が今でも修復すれば動くように、自分の時計も200年後に別の時計師が直せて動き続けるような作りにしたいと考えており、将来性が心配な新素材ではなく伝統的な金属素材を使って作っているそうです。

個人的な”修復キャリア最強伝説”にまた一つ裏付けが…



工場内で撮影がOKだったものはこのスピログラフの地板と…



スピログラフスポーツのハニカム(ハチの巣)状の文字盤のみ。

ハチ(養蜂)はラ・ショー=ド=フォンの象徴ですが、彼の時計作りにも比喩的に関わってきます…がそちらは別に。
一言でいえば、ひげゼンマイこそが女王バチであり、時計というのは女王バチに奉仕するハチの群れである…という哲学です。
…これだけだと意味不ですね。



工場からワークショップへの廊下には特徴的なパーツ群が。
トゥールビヨン用に変形したアンクル脱進機、土手ピンが調整しやすいように張り出しています。



特徴的なテンワとブリッジ。
これはスピログラフ クラシック用のもの。
スピログラフ スポーツ用はさらに追加の錘で慣性モーメントが増しています。



そして、”女王(Queen)または歌姫(Diva)”たるひげゼンマイ。
巻き上げなのは”当たり前”ですが、むしろ重要なのは内側のカーブだ…ということを説明しています。
彼の過激な言い方を借りれば、”内側をケアしていない巻き上げひげはただのマーケティングに過ぎない”とのこと。



今年の新作、スピログラフ スポーツの文字盤構造。
ベースプレート・ハニカム模様・インデックスがプリントされたサファイアクリスタルが重なることで立体的な文字盤を作り出しています。



スピログラフ スポーツ。
ムーブメントの半分に迫るトゥールビヨンがビュンビュン振っています。
この状態でもすごいのですが…



ルミノバが光る!
この写真の違和感に気が付きますでしょうか?

そう、テンワが光っている…テンワ自体にルミノバが載せられています。
彼曰く、調整機構で補償する部分と単純に慣性モーメントを稼ぐ部分に分かれており、ルミノバは慣性モーメントを稼ぐ部分なので問題ないとのこと。



同じ理論で錘にジェムセッティングを施したものも。



これは日光の下で見てこそだ!ということで屋外で鑑賞。
写真ではうまく撮れなかったんですが、ダイヤモンドが煌めき、なんとも言えない表情を生んでいます。



5000Gの衝撃に耐えるテストを行うための治具。
”クロノフィアブルなどの外部機関のテストは?”と伺ったところ、”ムーブメント10個単位なので厳しい”とのこと。



調整作業は難しいものの、各要素がモジュール構造になっており、トラブルの時は時計全体を送らなくても部品だけ送るから、現地で技術力のある時計師が取り換えればよい…という説明をしています。
トゥールビヨンはケージ単位で簡単に交換できる!と…

色々苦い経験がある葛西氏も、この配慮にはいいね!と。

マリンクロノメーター的な平らな地板にピラー(柱)が立っている構造で横から覗いて調整できる構造になっています。



トゥールビヨンはネジ2本、地板はネジ3本外すだけで外れるからやってみよう、と実演するカーステン。

このほか、巻き上げ機構もモジュール化されており、地板に直接固定されるのは香箱と2番車と3番車のみ。
トゥールビヨンも簡単に外れるようになっているなど、メンテナンス性に最大限配慮した作りです。

機構については別途取り上げますが、あくまで”日常使いするもの”という考えで作られています。



こちらはクラシカルなスピログラフ クラシック。
あくまで日常使いする時計であるという信念からか、ケース素材はステンレススティールのみ。



潔いソリッドバック。
見てわかる通り結構大きめ(45mm)ですが、個人的には好きなサイズ。



リュウズは使いやすさを最優先にした大型タイプ。
巻き上げの感覚はまさにクロノメーターと言った手ごたえを感じます。



ひげゼンマイの個性を殺してはいけない、最大限活かすような構成にするべきだ…や、現代の恒弾性素材による温度補正はまだ改善の余地がある…など自身の理論を熱く語るカーステン。
ひげゼンマイ関係だけで滞在時間の半分ぐらい語り続けるほどの情熱です。

葛西氏も彼の情熱に感化され、ぜひ日本に紹介したいし、来てほしい、まずはイベントをやりたい!ということで現在企画中…
何とか具体化したいところ。
もちろん、購入の相談も可能だそうです。



名残惜しいですが、そろそろ時間…ということで日本からのお土産や、彼が載った雑誌を渡してお暇します。



駅まで送っていただくだけのつもりでしたが、次の予定は?と聞かれ、”ワインダーのベルナール・ファーブル”と伝えたところ、”彼は知り合いだ、彼のところまで送るし、いい風景を見ていこう”ということになりました。
そういえば、バーゼルで彼も使っていたなあ…と。



山を越え良い風景…







ベルナール・ファーブルに到着。



ベルナール・ファーブルと。

冗談抜きで、次は日本で会いたい!
そして、彼の哲学はなかなかまとまりませんがなるはやで書きます…

関連 Web Site

Montres KF
https://montres-kf.com/

WCP(Watch Connaisseur Project)
https://www.wcp.swiss/

Noble Styling
http://noblestyling.com/