グランドセイコー ・セイコー 2020新作 実機レポート その4~ 新型脱進機によるキャリバー 9SA5を搭載した「メカニカルハイビート36000 80 Hours」

 By : CC Fan

連続でお伝えしているグランドセイコー・セイコー2020年 新作レポート、私は新型脱進機を搭載したキャリバー9SA5がもちろん最注目作。
3月9日(月)に拝見できるので、その前に”推測”しようという事で、夜なべして3月7日(土)に新型脱進機の推測記事を掲載しました、関係者からお話を伺った後だと書けないこと(先行実装例との比較など)もあるかもと思い、純粋に資料から読み取った内容で書いた記事でしたが、特に問題はないとのことで、修正依頼もありませんでした、ご安心してお読みください。



ダイレクトインパルス脱進機とレバー脱進機の特異な差としてわかり易いのは音…という事で聞いてみたかったのですが、残念ながら針止めで脱進動作が確認できず、次回にお預け。

低重心化の為にクリアランスが詰められたローターには60周年記念 1950-2020 リミテッドエディションの文字が、この文字はかなり立体的に成形され、このモデルにかける特別さが伝わってくるように感じます。

デュアルインパルス脱進機は構造上厚みがありますが、ムーブメント全体では薄くなるように作られているため、中央に機構が集まる自動巻き・センターセコンドにしては薄いと感じました。



ラグとケースサイドが連続するグランドセイコーらしいデザイン。
グランドセイコーのデザインコードを守りながら、可能な限り低重心化し、装着感を良くしようとしています。



ダイヤルには視認性を最優先したような太い針と立体的なインデックス。
6時位置にはAUTOMATIC(自動巻き)、HI-BEAT 36000(高振動 36000振動/時)、80 HOURS(80時間パワーリザーブ)、貴金属のインデックスを採用したダイヤルであることを示すSD(Special Dial)マークが記されています。
貴金属のインデックスというのはインデックスにケースと同様の18kイエローゴールドを使っていることを示しています。
今までのGSとはまた違ったデザインで、好き嫌いは出るかもしれませんが、今回の60周年記念という事と新ムーブメントという中身にふさわしい個性を確立させたいという考えだと理解しました。
写真で見たときは違和感があった時針も実際のモデルではこれぐらいあった方が良いと感じました、写真よりも実機で判断していただきたいです。

時計としての視認性は犠牲になっておらず、そこは譲れないのだと思います。



構成される面ごとに仕上げをかえてコントラストを出す方法で仕上げられています。
この仕上げは流石のグランドセイコー。



リュウズがケースのちょうど真ん中になるようにムーブメント・ケースともに設計されています。
斜めから見ても読み取りやすいのは流石かと。



大きい時計が好きなので、外形40mmというサイズ感は良いと感じました。
貴金属ではありますが、低重心設計のおかげか、身構えるほどは重くなく、普通に毎日使える時計なのは最高の実用時計を目指しているグランドセイコーの面目躍如かなと。



標準でワンプッシュワンプッシュ三つ折れ方式のバックルなのも日常的使いにはうれしいポイント。



ムーブメントの構造などはまだ謎が多いので追って報告とさせてください…

さて、最後に前回の推測記事で振れることのできなかった独自形状の巻き上げひげとフリースプラングについて。
最も興味深いと思ったのは数学理論(数式)をベースにして数式で形状を決めていた巻き上げひげに対し、コンピュータシミュレーションによる形状決定を行ったという事です。
おそらく、多いというニュアンスで使われている、”8万通り”という数字は個人的には意外と少ないなと感じましたが、下手に数字を隠したり、大げさ(数えきれないほどとか…)に言うことなく実際の数字を正直に申告するのはセイコーらしさなのかなと感じました。

数学上は完璧でも実際にその形状が実現できるかは実装依存、ゼンマイ自体のバラつきもある…と考えると、”理想からズレたときの劣化が少ない”とか”曲げで作りやすい”など条件を力技で探すことができるコンピュータシミュレーションは有効なのではないでしょうか。
実際にどういう評価関数を使っているのかは、ぜひ伺ってみたいところです。

計算自体はコンピュータが行いますが、導き出された形状に合わせてゼンマイを曲げてカーブ付けをするのは人の手で行われ、過度に自動化するのではなく人が介在してこその時計作りという考え方のようです。
脱進機を構成する部品もMEMS(を使うのに作るUV-LIGAを部品製造に使うプロセスをMEMS技術と呼称)で製造されているので部品精度は高いですが、組み立てにやはり人と手が必要と考えているそうです。

これらの構成要素の精度が上がった結果、グランドセイコーとしては初めて緩急針を無くし、可変慣性モーメントテンワで緩急調整を行うフリースプラングを実現しました。
フリースプラングがすごいというより、フリースプラングで問題なく調整できる範囲で部品を量産できる技術がすごいと捉えています。

まだまだ知りたいことが多いキャリバーではありますが、まずはここまで…


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