フィリップ・デュフォー 「シンプリシティ」 世代を超えて引き継がれる名作の物語

 By : KITAMURA(a-ls)


発表された瞬間から、その時計と時計師の日本での知名度は異様に高かった。
2002年にNHKで放送された「独立時計師の小宇宙」という番組で紹介されたフィリップ・デュフォーの作品、「シンプリシティ」。

時計の構造およびそれを構築する時計師の作業を、接写レンズを取り付けたハイビジョン・カメラを駆使して撮影し、その美しく微細なミクロの世界を"小宇宙"という概念になぞらえたこの番組の秀逸なコンセプトは、以後の日本における機械式時計のイメージを大きく左右したと思うし、その小宇宙の"造物主"として描かれたフィリップ・デュフォーのイメージは、ある種のカリスマとして、今もなお多くのファンと影響力を持っている。

●フィリップ・デュフォー氏(工房にて2018年)


長きに渡り使用できるという意図のため、整備・修理しやすく簡明に設計されたこの腕時計の名作「シンプリシティ」が次の世代に引き継がれる理想的なケースを紹介する。


この「シンプリシティ」の製作テーマは、2000年代初頭に流行っていた時計の大型化・複雑化に逆らい、1950~60年代に作られた時計から得たインスピレーションを活かし、シンプルなデザインと壊れにくい堅牢性を追求、そして最も大事な点として、一定の力量を持つ時計師であれば誰でもいつの時代でも整備・修理できる設計を最優先とし、その想いを作品名「シンプリシティ(simplicity=簡明の意)」にも込めたのである。



最近、「シンプリシティ」がオークション市場で高値を付けたこともあって、投資目的だか顕示欲だかよくわからない輩が参入して恐ろしい値段がつくケースもあるようだが、作者本来の意図からすれば、このシンプルな三針時計が数千万円にもなるのは本末転倒だろう。

とはいえ、心あるオーナーの中には、年齢的にもそろそろ時計の次の行き先を思案しなければならない方がいらっしゃるのも事実である。

「シンプリシティ」が発表された年のバーゼルで直談判し、デュフォー氏から日本における販売を任され、それ以来お互いの信頼関係を築いてきたシェルマン(Shellman)では、今そうしたオーナーから時計を預かり、完全に整備したうえで、しかるべき継承者へ渡るための斡旋の手伝いもしていただけるという。


●Shellman店内に飾られていた写真集

何世代にも渡り使用できるようにと、整備しやすく設計されたこの名作の、それこそ本来的な引き継がれ方ともいえる。
この日も、新しいオーナーのもとへ渡ることが決まった「シンプリシティ」を見せていただいた。



15年以上にもわたる長い制作期間の中には、デュフォー氏の製作環境によって、仕上げの出来にバラつきがあるとも言われる「シンプリシティ」だが、この個体は非常に良く作られていた。


●Shellmanの店頭在庫の、こちらも名品の"トロピカル"とのツーショット

時計師の理想、販売者の情熱、オーナーの想い、それらをまとめて次代へ語り継ぐ、腕時計という物語り。
もちろん理想ばっかりで語り切れるものではないが、しかしながらWATCH MEDIA ONLINEとしては、経済活動だけのものとはまた違ったパッションで動いている側に立っていたいと、そう願っている。。。。



●時計師の所有時計

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