グルーベル フォルセイ、フィリップ・デュフォーによる、限定11本のプロジェクトピースプレゼンテーションイベントがカミネにて行われる

 By : KIH

本プロジェクトについて聞かれたことがあるかもしれません。この特別な時計をどこかで写真で見たことがあるかもしれません。そして、この時計の最初の1本(しかし、「学校バージョン」と呼ばれています)が先日のクリスティーズのオークションで、定価の3倍、約1億5千万円の値がついたこともご存知かもしれません。クリスティーズは、本プロジェクトのパートナーの1社として、創業来初めて公式に、売り手から一切の手数料を取りませんでした。

 

その「特別さ」とはなんでしょうか。

一見、「またよくある、有名なブランドの限定版だろう」と思われた方も多いかもしれません。しかし、この記事を読み終わられたら、印象はまったく変わり、時計業界を現在ゆっくりと、しかし確実に襲っている「危機」について、読者の方も危惧を抱かれることとおもいます。


9月某日、神戸のホテルオークラにおいて、本プロジェクトの日本を代表するパートナーに選ばれたカミネ主催により、本プロジェクトの主体であるTime Aeon Foundation(タイム イーオン ファンデーション: 永遠の時財団)とそこを代表して、グル―ベル フォルセイのフォルセイ氏を招いて、この特別な時計のプレゼンテーションイベントが行われました。




イベント前のスティーブン フォルセイ氏と、グル―ベル フォルセイ社のセールスディレクター シルヴァン ムイルデ氏。

 

 

「腕時計の誕生 - 時の守り人(ガルド タン)」プロジェクトとは?

グル―ベル フォルセイのグル―ベル氏とフォルセイ氏は、永い間ずっと時計業界の将来を憂えてきました。彼らはどちらも、外国(グル―ベル氏はもともとフランス人、フォルセイ氏はもともとイギリス人)の時計師学校を卒業し、期待に胸を膨らませてスイスの時計業界に入ってきました。もっと、素晴らしことを学べるだろう、自分が習ってきたことで何かスイスにはないものを作れるのではないか、と。しかし、現実はちょっと違っていました。スイスでは、時計師学校を出た若き時計師たちが輝けるチャンスがどんどん減ってきていたのです。ビジネスとして成功するために、多くのブランドはより効率な経営を目指していました。それ自体は悪いことではない、とフォルセイ氏は言います。ハイテクな機械を買いそろえ、非常に精密な部品を作り、それを時計師が組み立てる。耐久性、信頼性、そして精度の面から言って、消費者の為になる部分もあります。しかし、それと同時に、その機械たちによって、若き野心ある時計師たちの仕事の重要性は横に追いやられていったのです。

ついに、グル―ベル フォルセイは立ち上がりました。「永遠の時」財団を設立し、失われつつある伝統的時計技術の保存・継承を自分たちの資金で始めたのです。そして、最初のプロジェクトに際し、フィリップ・デュフォー氏に協力を仰ぎ、同じような危機感を持っていたデュフォー氏は快く引き受けたのでした。彼自身、目の前に50年、100年前の複雑時計があり、それを修理するとしたら、どこから手をつけるか、時として迷う時がある、と。であれば、今後これら博物館クラスのアンティークの名作を今後誰が面倒を見ていくのか、非常に心配していたのでした。

 

本プロジェクト(2008年の財団設立、プロジェクト開始から本年のSIHHにて完成品をお披露目するまで)のドキュメンタリーフィルムがありますので(フランス語で作られ、フランス語のサブタイトルを出すことができるだけです。日本語に自動翻訳という機能もありますので、そちらである程度おわかりいただければ・・・。申し訳ないです。)どうぞ:


 

今回のプレゼンテーションイベント

このプロジェクトには様々なパートナーがいます。各国の著名な時計ディーラーや、クリスティーズ等です。しかし、このプロジェクトにとって、日本のパートナーを得ることは必須でした。日本は、スイスと並んで、あるいはそれ以上にモノづくりに対して造詣が深く、伝統技術が失われていくことの恐怖はフォルセイ氏ら以上に身近に感じることができるからです。そして、誰をパートナーに選ぶか。これは、難しくはなかった、とフォルセイ氏は言います。カミネは今年110周年を迎えています。ということは、その間、ずっと伝統的に作られた時計を愛する人たちのニーズに応え続けてきたわけで、その歴史がカミネのすべてを物語っている、と。

本イベントは、日本の時計をこよなく愛するコレクターに、時計業界の危機を知っていただき、永遠の時財団の活動内容、本プロジェクトの概要、そして最後に日本にも割り当てがある本プロジェクトの時計の紹介を目的に行われました。

パネルディスカッションは、ライターの篠田氏がモデレーターを務め、上根社長、フォルセイ氏、そして通訳を僭越ながら小生が務めました。

 

パネルディスカッション

まず、過去10年、ブランド間の相違というかユニークさがだんだん減ってきたような気がする、というところから話が始まり、上根社長も同様のことを感じてきたと発言されました。すなわち、どこのブランドも、コンピューターでデザイン・設計し、高級機械を使って高精度の部品を作り、時計師が組み立てて仕上げるという過程でモノが出荷され、ブランドとの会話もどことなく似たような話ばかりだな、という傾向です。

 

 

フォルセイ氏は、その傾向はまさにその通りで、スイスの時計学校のカリキュラムでさえ、現代では使われないようなテクニックは教えなくなってきている事実を指摘しました。「若い時計師が、輝きを見せることができる機会はどんどん失われつつある」と。そして、それが永遠の時財団設立の理由であり、伝統的な技術をよみがえらせ、基本に立ち返り、その技術をまた広めていくことが目的です。

 


ここで、今回は残念ながら来日できなかったデュフォー氏から、本イベント参加者に向けたビデオレターが上映されました。日本語の字幕つきですので、この財団、プロジェクトの意味についてデュフォー氏が語るのをお聞きください。

 

デュフォー氏からのビデオレター




そして、「なぜこのプロジェクトの時計師、すなわち伝統的時計師の技術を詰め込む頭脳として、ミシェル・ブーランジェ氏を選んだのか」という質問がフォルセイ氏に投げられました。

「何人も面接をしたが、彼と面接した後、3人(デュフォー氏、グル―ベル氏、フォルセイ氏)は満場一致だった。何がポイントだったかと言うと、彼がすでに時計学校の先生であったことだ。理論は知っていて、実践がないというだけのことで、プロジェクトが終わればそこで身に付けた、実践に裏打ちされたさらに深い知識を、若い時計師見習いたちに広めることができる。彼は、このプロジェクトの為に何年にもわたり、時計学校から休暇を取ることにして、学校側もそれを認めてくれた。1つだけ難点があったのは、彼はパリに住んでいたので、家族のこともあり、月に一度我々のところに『通勤』してきて、いろいろな『教師』に習わなければならなかったことだ。教師とは、もちろんグル―ベル フォルセイ内や、外部にいる各分野の専門家たち、いわゆる、マスターと呼べる人物たちであり、彼らから実務を叩き込まれた。最初は、まず道具をそろえて自分のアトリエを作ることから始まり、実践に入ってからは、おそらくハッピーではない日々が続いたと思う。やはり、理論で分かっていても、実際に上手くいかないことは最初は多いものだ。」

 

上根社長は、このプロジェクトのことを聞いて、パートナーになるよう依頼された時のことを振り返ってこのように語りました。

「このようなプロジェクトが進行していたこと、デュフォー氏から直々に頼まれたこと、そしてそのプロジェクトのパートナーになったこと。すべて、誇らしく思っています。カミネは今年110周年を迎えました。この長きにわたり、時計を愛する人たちのニーズに応えるべく、各ブランドや社員と共にがんばってきました。モノづくりに対する愛情は誰にも負けないと思います。そして、日本の愛好家たちも、世界で一番モノづくりの大切さがわかっていると思います。日本にも菊野さんという本当に手作りにこだわったAHCI会員の若き独立時計師がいます。彼のようにこのスタイルを確立させているような時計師とのコラボなどもあっていいと思います。ですから、誇りに思うと同時に、日本のパートナーが必要と言うのは、極めて自然に思えました。私自身も、ここしばらくの時計産業のトレンドについては若干の懸念を抱いておりました。同じことを思っていた人が、スイスの時計業界にいたということは大変うれしく、大海の一滴かもしれませんが、それにほんの少しでも貢献できることをとても誇りに思います。」

 

 

フォルセイ氏は最後に、「最初のプロジェクトはこれで終わったが、永遠の時財団の活動は終わらない。ミシェルは今、方々から依頼を受けて、授業の傍ら、世界中でワークショップをやっている。それも活動の延長線上にある。また時計を作るかと問われると、同じテクニックを使った時計は作る意味がない。何かまったく別のテクニックを駆使した時計であれば可能性はある。次に何をすべきか、それは皆さんにも考えてほしい。このプロジェクトは我々でなくても良かったはずだが、我々はたまたまそこにいて、伝統が消えていくことを見過ごせなかっただけである。」

 

 

ショーの後


 

プロトタイプではありますが、もう二度と見られないかもしれない作品です。












 
  -------------------------------------------------------------------------------------------------

Special Thanks to:

カミネ

www.kamine.co.jp

グルーベル フォルセイ

www.greubelforsey.com

日本代理店 ヴィタエルーキス(グルーベル フォルセイ 銀座ブティック)

www.vitaelucis.com

 

上根社長をはじめ皆さま、どうもありがとうございました。