磁気検出君テスラメーターで地磁気を測定、手持ち時計の磁気帯び確認

 By : CC Fan


「知の闇を照らす灯」として作ってみた磁気検出君テスラメーター、(高精度テスタに責任をおっかぶせることで)思いのほかちゃんとした精度が出て、大満足でした。
前回同様、Twitterでテキトーにやっていましたが、140文字だと説明が書き切れない部分などもあったので、WMOのブログシステムでまとめよう、という記事になります。

私は磁石の脅威に対しての対策として「避ければいい」を提唱していますが、じゃあお前は本当に避けられているのか?という事を「普通に使っている」手持ちの時計を測定して磁気帯びしていないか確認してみようと思い立ちました。

さて、Twitter上の時系列とは入れ替わる形になりますが、まずは磁束密度の感度を上げたことと地磁気測定から。

前回の記事ではホール素子に流す電流を5mAにして、磁束密度から出力電圧への変換ゲインとして2mV/mTを得て、電磁石を使った簡易校正機で確認しました。
ホール素子の特性として、入力電流を流すほど感度が上がります、しかし、流しすぎると自己損失(入力電圧×入力電流)で発生する熱を逃がしきることができず素子の温度が上昇し、最終的には燃えてしまうので無限に電流を流すわけにもいきません。

最大定格上は電圧12V、損失150mWとされていますが、これは「絶対に超えてはいけない」ので、常時かけるのは不安になります。
データシートの安全動作範囲から探ります。



工業用ではないので周辺温度85℃以下で使うと考え、その場合に許される許容損失は約80mWと読み取れます、この損失付近で「キリ」の良い値は7.5mA、損失が最大84mW、感度が3mV/mTです。
より低い温度前提ならもっと感度が上げられますが、ACアダプタの電圧が12Vで次に「キリ」が良くなる10mAは厳しかったので、7.5mAで行くことにして、3mV/mTにし、再び校正しました。

テスターも前回は「念のため」に最小分解能0.001mVで有効精度5桁表示のキーサイト(アジレントからの社名変更時にアジレント名義のタイプが安売りされていた)U1251Bを使いましたが、そこまでの桁数はいらないだろうという事で、最小分解能0.01mVで有効桁数4桁表示のサンワのPC700に切り替えました。

気になったのは、はたして日常生活ではおそらく最小の微小磁力である地磁気を測れるのでは?という事です。
地球自体には北極をS極、南極をN極とする地磁気が存在し、これが方位磁石で方位が測れる原理です。
この磁力は鉄で囲まれた磁気シールドで遮断しない限り地球上に普遍的に存在し、特に微小磁気の測定の際の誤差要因になります。

日本における地磁気の測量情報は国土地理院が公開している地磁気測量ホームページから入手することができ、これをリファレンスに確認していきます。
リアルタイム情報もありますが、2015年の磁気図を主に参照しました。

何もない空間上でセンサを回転させることで、検出される磁束密度が変化している様子が分かります。
これは地磁気による変化と考えられ、磁気図から全磁力(磁束密度ベクトルの大きさ)を引用します。


東京付近は約47000nTの磁束密度で、これは47μT、または0.047mTです。
これを3mV/mTの感度で検出すると0.14mV、磁力線の方向によってホール電圧が逆になる特性で2倍の電圧差と考えるとセンサーを180度回転させると約0.3mVの差が出ることが分かり、実験結果と整合します。
センサーが傾いているのは地磁気が水平ではない伏角の影響を考慮して「それっぽい」角度にしたためですが、国土地理院のデータを見ていると水平成分のみを取り出した水平分力の図もあったのでそれを使えばよかった…とは思いました。

この地磁気をキャンセルする方法を考えると、簡易的にはセンサを固定してその状態でテスタの機能でゼロ点(ヌル)を設定すればよく、一般的な時計用検磁器はこの方法です。
磁気検出君のようなセンサー側が動く構造だと地磁気自体は一定でもセンサと角度が変わってしまうため単純なゼロ点補正ではキャンセルしきることができず、理想的には3軸の磁界を個別に測定してベクトル演算で取り除く必要があります。
一応の解決策は思いつきましたが、未だ検証していないので、これは今後の課題とします。

というわけで、いよいよ時計の測定、最近は常に使っているライネのカメレオンカスタム。
これだけ、感度が2mV/mTの時に測定して、小数点以下1桁です。
この測定で、ちょっとは振れるな…?と考えて、ああ地磁気か!と思って先のツイートの地磁気測定を行ったという経緯です。

2mV/mTの時に地磁気で0.2mV(±0.1mV)ほどばらつくと考えると、実質この時計が磁気帯びしていても地磁気程度という事になり、これは磁気帯びしていないと言っても良いと考えられます。

逆に、これで気が付いたのは地磁気はシールドケースに入れない限り「避けらんねぇ」ので、置いておくだけや身に着けて動くことで地磁気で磁気帯びする…という事でこればかりは「避ければいい」とはいきません、が永久磁石に引っ付けてしまう事故に比べれば誤差レベルです。

鉄系素材のゼンマイが入っている香箱付近が一番磁束密度は高いようでした。
香箱芯や角穴車も鉄っぽいのでそれも影響しているかも?


感度を3mV/mTに上げてから、一番の古株、グランウールGMTを測定。

最近のジャケ・ドロー(というかスウォッチグループ全体)が推進しているシリコンのコンポーネントを採用する前のFP1150ベースだけど、特に磁気帯びは確認できず。

2番目に古株のカンタロス君はちょっとスイスにバカンスに行ってるので、カンタロスの代打として大活躍してくれて、カンタロスのアレコレは「私の使い方が悪いわけではない」という事も証明してくれたチャペック(Czapek)のケ・デ・ベルグ(QUAI DES BERGUES)。

これも地磁気レベル、ただし測定時にヌル補正をしていないので、地磁気の分を拾って大きく見えてしまっています。
分かればいいだろう、で適当にやってますが、測定手順はちゃんと定めた方が良いかも。

とりあえず、感覚的に使用頻度が高い3つを測って普通に磁気帯びしていないので、「避ければいい」で避けた結果、磁気帯びはしなかったとして良いと思います。
「磁石は予想もしないところにあるので避けられない」という説もありますが、「何らかの機能のために意図をもって埋めてある」わけで、「時計を磁気帯びさせるために意味のない所に悪意を持って埋めてる」わけではないと考えると予想可能と考えています。
世間が機械式時計の都合に合わせてくれるわけもないので、自衛するしかない、とも言えるかもしれません。

「悪役」側も測定してみます。
iPhone12で動画撮影しているので、iPhone自体の磁気を測定できない(同僚に13を借りようと思って忘れた)ので、取り急ぎ純正のMagSafeバッテリーを測ってみました。

レンジが切り替わりますが、おおむね30mT‐40mTで、極性が細かく入れ替わっています。
極性が入れ替わるのは位置合わせと、回転止めを兼ねているためだと考えられます。
本体の磁束密度はこれよりも低く、バッテリー側から吸い付いていることが分かります。

ケースに張り付けると磁気回路が閉じ、大部分の磁束が固定に使われるためバッテリーの裏からは磁束が漏れなくなります。
ただ、その状態でも数mTは漏れていますが、これはJIS規格の非耐磁時計の定義1600A/m(空気中で約2mT)の磁界程度なので、少し離せば問題はないでしょう。

磁気検出君は電源がACアダプタ、それなりの精度のテスターが必要…と携帯には向かないので「磁石があるかないか」だけ検出する磁気検出君D(デジタル)を作ろうかと思っていましたが、普通に1万円以下で買える機械で使えそうなものがあったので注文してみました。
こちらも届いたらレポートします。