HYT Event

 By : CC Fan
液体を時計内に持ち込み、液体を使った表示・機構を実現する…そんな大きな野望を持ったブランドがHYT(Hydro Mechanical Horologist)です。
既存の複雑機構の"再解釈"ではなく、まったく新しい複雑機構として個人的に注目しているブランドです。
幸運にも機会を頂き、去年に工房を訪れています

この度、国内代理店の変更に伴う、"お披露目"イベントにご招待いただいたので会場の様子とピースをレポートしたいと思います。



イベントは表参道のWALL & WALL VENTで行われました。

HYTの組織変更に伴い、B2Bの液体モジュール開発会社Preciflex社CEOだったGrégory Dourde氏がB2Cの時計製造・販売会社のHYT社のCEOも兼任することになり、今回HYT社マーケティングディレクター、販売子会社のHYT Asiaのマネージャーの2人を伴って来日しました。



Grégory氏の挨拶の様子です。
既に、布で隠されたピースがスタンバイしていましたが、まずはHYTとは何ぞや?と言う事を説明するためのプレゼンテーションが行われました。
一部、去年のラボ訪問の記事と被る部分がありますが、今回はスライド写真の掲載についてOKをいただけたので、よりわかりやすいかと思います。



1600年ごろの水時計を例に、液体を使った表示というのは"古くて新しい"と言う事の説明です。
機械式になって忘れられていた時計における液体の活用ですが、2012年にHYTが液体表示を発表し、再び注目を集めます。



コア技術はLiquids(液体)とMechanics(機械)と言う事を示しています。
液体の方はアニメーションになっており、色付きの液体が表面に残留せず滑らかに流れる様子(=はっ水コーティング技術)が示されています。



ふたつの会社(HYT&Preciflex)では50人のスペシャリストが働いているそうです。
過去のイベントやラボ訪問でお会いした顔がチラホラ…



HYTは全世界で展開していますが、特に重要と考えているアジアとアメリカには販売子会社(Subsidiaries)を設けているそうです。



3年間で700本弱の時計を販売し、存在感を示しています。
しかし、数万本作るようなブランドになるわけではなく、あくまで希少性を保つ量を地道に作っていくという方針とのことでした。



SIHHへの参加を行い、より注目を集めているとのこと。



FHH(Foundation de la Houte Horlogerie:高級時計財団)のメンバーとして認められ、自他ともに認める高級時計ブランドとしての地位を確立しています。



ここからはコア技術の液体モジュールについての説明です。



原理説明のための分解図。
ベロー(ふいご)・キャピラリー(流路)などが分解されて示されています。



構成要素の中でも、きわめて高価な"パーツ"である特殊な液体と片側のみに色を付ける染料(Dye)です。
脳ニューロンの活動観測に使用する医療用の染料の技術をバックグラウンドに持ち、ノウハウ流出防止のために公開リスクのある特許をあえて取得しない"秘中の秘"の技術です。



同じく、きわめて高価な"パーツ"で、レトログラード時に色が残らないようにする特殊なはっ水コートです。
こちらも特許はあえて取得していないそうです。



防水時計の10,000倍の気密性がある、宇宙用の技術をベースに開発した最適な厚みを持った多層構造の金属製のベローです。
蒸着技術によって作成されます。



時計表示を行うためのメニスカス(境界面)は液体が速く動きすぎて乱流が発生すると破壊されてしまいます。
それを防ぐための速度制限を行うのがキャピラリーの根元に設けられたフルード・リストリクターです。
これは極めて小さい穴をあけた部品で、穴の抵抗で液体の速度を制限します。



表示機構は構造的にはアルコール体温計と同じようなものなので、温度によってズレると言う事は容易に想像できます。
温度補償機(サーマルコンペンセイター)という部品がベロー(ふいご)内に設けられ、温度変化による液体の体積変化を打ち消すことで表示を一定に保っています。
本体の液体とはまた別の温度特性を持った液体が封入されており、温度変化によって容積を変化させることで打消しを行います。



液体モジュールを作っているクリーンルーム環境です。
まさに見学したところで、一部しか写せなかった液体を注入するための専用冶具も掲載されています。
形から見るとH1用です。



簡略化した動作原理です。
基本はレトログラードウォッチと同じスネイルカムが片方のベローを押すことで液体が押し出され、メニスカスが移動し、表示を行います。



液体モジュールは内製(Preciflex製)で、機械式ムーブメントはAPRP(H2,H3)またはクロノード(H1,H4)が作成しています。



HYTの全コレクションです。
その中でもキャピラリーを特徴的なドクロ状にしたSKULLは販売本数の30%を占める人気だそうです。



バーゼル作をチラ見せ、H4 NEOです。
これはゼンマイで発電機(オルタネータ)を回してLEDを光らせる機械式ダイナモを搭載し、暗所での視野性を向上させたH4の最新作です。
一見すると透明なレジン製の文字盤を持つスケルトンウォッチですが、文字盤にはナノ粒子が混ぜられてており、UV LEDによって紫外線が照射されると文字盤全体が燐光によって淡く光るというという仕組みです。
実機はGrégory氏が装着していたのですが、写真を撮り忘れました…



SIHHでも発表していたユニークピースとビスポークの情報もいくつか。



ホワイトセラミックを使ったH3 ICEBERGです。
こちらは実機をSIHHで拝見したので再掲します。





龍をかたどったH4 DARAGONです。
パワーリザーブとスモールセコンドがサファイヤとエメラルドを使った宝珠になっています。
こちらも実機をSIHHで拝見したので再掲します。





H2(おそらくTradition)をベースにしたビスポークモデルです。
ケースそのものの形状も若干変更されているようです。



プレゼンテーションは以上、SIHHでも表示されていた2017年のキービジュアルと"CHALLENGE EVERYTHING"というスローガンで〆られました。
そしてお待ちかねのアンベールです。



新作什器?によってピースが展示されています。
ブラックライトのような光が当てられ、液体の色によっては淡く光るような演出がなされていました。



ノーマルのH3(チタン・プラチナケース)、液体の色は緑です。
過去に何度が見たバーゼルの発表から各国を回った"お疲れ"の個体ではないようです。



H3 ICEBERG、液体の色は青です。
ノーマルのH3ではプラチナが使われていたサイド部分がホワイトセラミックに変更されています。
時間のインデックス部分もセラミックです。



H1 GHOST、液体は最新の黒色です。
他の液体と違い、完全に光を通さない不透明な液体になっています。
キャピラリーの下に仕込まれたスーパールミノバの光を遮ることで暗所でも表示を行う逆転の発想です。



クラシカルな意匠のH2 Tradition、液体の色は青です。
文字盤はグランフーエナメルで、他のH2とは輪列が変更され、H1のような位置にあります。



ヨットレースに協賛したH1 RC44です。
ブルーの液体に合わせるように、文字盤もブルーのグランフーエナメルです。



ダマスカス鋼を使ったSKULL BAD BOYです。
液体は最新の黒色で、ダマスカスとSKULLの世界観にあっていると感じました。



H2の記念ピース、H2 COLORBLOCKです。
色をテーマにしたモデルでこれはオレンジ色です。



分かり辛いですが、カーキー色です。



ブルーです。
3部作のようです。



SIHHで発表されたSKULL POCKET WATCHです。
ブラックライトによって液体が淡く光っていました。

個人的にはより複雑な"液体コンプリケーション"を早く!とは思い、今回も伺ってみましたが、まだ開発中とのことで具体的な情報はありませんでした。
時間以外の表示や液体による巻き上げなど興味深いキーワードは何度か聞いてはいるのですが…







http://www.hytwatches.com/
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