インタヴュー 河村隆一・その②~コレクション・ヒストリー パテック フィリップ

 By : KITAMURA(a-ls)

もしも"あの日"、この方に銀座のアワーグラスに呼び出されていなかったら、今の自分は間違いなくいなかった。それが、ヴォーカリストとして著名な河村隆一(LUNA SEAのRyuichi)氏で、自分にとってはまさに時計に関しての恩人なのだが、その河村氏に時計をテーマとしたインタビューを行う機会を得られた。前回掲載したその①では、ご自身のプロデュース・ウォッチやステージで着用する時計の話を掲載したが、今回はその第2弾として、河村氏と時計との出逢いとそのヒストリーにフォーカスする。





――普通に生活をしていれば、時計の存在とかその機能とかを意識する機会って、そんなにはないと思うのだけど(笑)、いつ頃の、どういう出来事が興味を持つキッカケとなったんですか?
『音楽を始めた頃って、自分がまだ、何がなんだかわからない状態で、無我夢中なんですよね。とにかく、なんか解んないけど、群衆がいたらそこに突進していくみたいな(笑)。そういう時の…無謀さもありながら、でも信じているもの…自分の声だったりメッセージだったり想いだったりを抱えたまま、"ウワァーーッ"って群衆に向かって走っていくみたいな…。"走り続ければ自分の人生が変えられるんだ”ぐらい信じてやってたんです。最初はみんなも、"なんか変なヤツが来たぞっ" だったかもしれないけど、でもそのうちに少しずつ、みんなが注目してくれるようになって、で、やっぱりその後なんですよ、いろんなモノを見るようになってきたんです。たとえば、お花ひとつとってもそうだし、コーヒーでも紅茶でも、車もそうだし、まぁ住む所も、なんでもそうなんですけど、"良いもの、素晴らしいものって何だろう"っていうか、それまではガムシャラにやってきたけれども、まず先に、感じたり、考えるようになってきたんです』

――無我夢中で表現してきた自分のその内面に目が行くようになったというか、感じるもの・求めるものを探し始めた感じ?
『そうそう。美しいもの...もしくは、嗜好品の中でも人々が求めてやまないものとかありますよね? で、その中で、周りの先輩たちから…たとえば、"車はさぁ、こういうのがいいと思うよ"、"スポーツカーだったらアレがいいと思うよ"とか、"ワインっていうのはこうなんだぞ"とか、聞くわけです。それまでの自分からすると、"え、ワインって、苦いだけじゃないんですか?"っていうような段階から始まって、だんだんそれがわかるようになって、いつ頃かなぁ…どこでだったか…"自分の選んだ時計にはその人間を表すぐらいのインパクトがある。だからいつか、その人生の1本を選ぶ時が来るよ"って言われたんです』

――それはどなたの言葉?
『実は僕の最初の機械式時計って、西城秀樹さんから戴いたブライトリングが初めてだったんです。1940年代のヴィーナスのムーブを積んだクロノメーター、それが最初。で、秀樹さんから時計をいただいた頃に、秀樹さん周りの方がそういうお話をされていたんです。"男はみな同じようなスーツだし女性ほど着飾れないから、男にとって身に着けるものと言えば、まぁ時計だよ"と。それでいろいろ興味を持ち始めて、テレビとかで時計の番組があると観るようにしてたんですよね。そうしてブレゲとマリー・アントワネットの物語を知るんです。ブレゲは時計に人生を捧げたような時計師で、18世紀の時点で今に伝わる時計の複雑機構のほとんどを発明してる。"え、音で時間を知らせるってミニッツ・リピーターって、それは何なんだ"と(笑)。実際、聴いたこともないし、今はスマホで探せばミニッツ・リピーターの音なんて、どこかで必ず見つかるし、動画でも音が聴けるじゃないですか。何ならメーカーのホームページでも音が聴ける』

――そうですよね。
『でも当時はなかったんです。探しまくったんだけど、ブレゲのミニッツ・リピーターが聴ける資料なんてほとんど存在しないんです。で、さらに本などでいろいろ調べていったら、"パテック フィリップのミニッツ・リピーターっていうのはすっごい良い音がする"って書いている人が多くて。その頃はまだ…何の話だかよくわかってなかったけど、ミニッツ・リピーターを小型化するためにどうしたとか、サイレント・ガバナーがどうのこうのって話を…、"それは車でいうとギア・チェンジがスムーズな話なのかな"(笑)とか、"良い音っていうのは、フェラーリみたいなエンジン音がイイってことなのかな"とか、何なのかこう…いろいろ勝手に、車に置き換えて考えたり想像とかしながら、時計にのめり込んでいきました』



――ゴルフにしてもサーフィンにしても、ハマると突き詰めちゃう性癖がありますからね(笑)。
『そうですね、過去もいろんな物事に(笑)。で、時計もいろんなことを勉強しちゃって、だんだんにハマって行っちゃったんですが、でも冷静に考えたら時計ってコレ、馬車の時代のモノなんですよね(笑)。まぁ今はクォーツだ電波時計だソーラーだといろいろありますけど、機械式時計の大方はブレゲの時代から基本は変わってない。そんな馬車の時代のものに…大の大人が、ま、僕は未だにキャッキャッ言いながら楽しんでる(笑)。"この時計はすごい機構なんですよぉー"とか、"この駆動の音が"とか、"プッシャーの押味が"とか、"これが今は何百万もするんだよ"とか、キャッキャ、キャッキャ言いながら(笑)、変な話、時計の仲間とはそれだけでお酒が飲めたり、会話ができちゃう、その楽しさがどんどんわかって来たんです』

――自分の内面を探し始めて、そのひとつとまさに出逢った感じなんですね。
『ある意味で人生を叶えた人、それは起業でも芸術でもなんでもいいんですけど、そういう人たちって自分の気に入ったスニーカーを必ず履いてたり、このソファーだけは譲れないとか、好きな家に住んでたりとか、なんかこだわりを持っている人が多いじゃないですか。僕は音楽だったけど、ま、自分がすごいとかっていう話じゃなくて、世界中にそういう人こだわりを持った人たちがいて、その中でもやっぱり時計って、世界中の多くの人が熱中していて、しかもそれがどうやら馬車の時代から(笑)、いまだにゼンマイが動力で、まぁエコって言えばエコだけど、それが芸術品のように今やとんでもない額で売り買いされているものもあるって…なんかとっても惹かれていったんです』



――それは、トゥールビヨンというユニットをINORANと結成した頃の話ですか、あれは確か2004年か2005年だったと思いますが。
『トゥールビヨンはその少し後だったですね。ちょうど…INORANと葉山君とユニットをやろうってなったばかりの頃に、スタッフも含めてランチをしていて、"そろそろユニット名を決めなきゃ"という話になって、で、たまたま僕がトゥールビヨンの話をしたのかな。
"フランス語で渦巻っていう意味なんだけど、昔は懐中時計を提げた時、当然、下の方向の重力に引っ張られるから、進んだり遅れたりする。時計を動かしているバネとかゼンマイはこう…水平状態で回る前提なわけだから。でね、それを解決する方法として、時計を動かしている脱進機とかその仕組み自体を…キャリッジっていうのに入れてあらかじめ回しちゃえば、重力の影響を消しちゃうらしいんだよね。で、回転させるその機構をトゥールビヨン(渦巻)っていうんだ" みたいな話をしたら、。みんなが"へぇーっ"ってなって、重力といえば...ほら、僕らが憧れていたロックスターって髪を立ててたけど、"あれってなんか重力に逆らうために立てたみたいな話があったじゃん"(笑)、みたいな。重力からの解放っていうのは実は時計の世界にもあって、それをトゥールビヨンって言うんだという話から、"重力からの解放って、なんかイイね、なんかロックっぽいし、カッコイイ"ってなって、それでトゥールビヨンというユニット名になったんだよね』

――自分が「トゥールビヨン」っていう言葉を聞いたのは、あのユニットが人生初でした。
『あ、そうだったんですね。もしかしたら、"髪を立てる、重力クソくらえ"と、"時計が狂う、重力クソくらえ"って…あのう、ちょっと違うベクトルなんですけど(笑)、一応、重力に縛られることからの解放という勝手なイメージから付けました』


●Tourbillon『Life is beautiful』。結成10周年記念アルバム

――当時トゥールビヨンの意味を調べてみても、時計機構のトゥールビヨンっていうのはいくら読んでも諸時期まったく意味がわからなかった(笑)。
『英語じゃなくてフランス語だから、なんか、とっつきにくいしね』

――音楽の世界にも時計好きな方は結構いると思うんですけど、多くはロッレクスとか、あの当時だとパネライみたいなスポーティな嗜好ですよね、パテック フィリップとかブレゲじゃなく。
『ああ、ちょっとファッション性があって、工業製品としての完成度が高いものですよね』

――パテック フィリップなどの正統ドレス・ウォッチっていうのは、ロック・シーンの中では珍しい選択だったんじゃないですか。
『そうですね。ただ、僕は車も好きで、まぁフェラーリだとかポルシェだとか、スポーツカーが好きだったんで、そこに行くといろんな人が集まって来るんです。交流していくとその人たちの趣味も見えてくる。"ワインが好きなんだな"とか、"乗馬やってるんだ"とか、"あ、テニスやってるんだ"とか。その中にパテック フィリップっていうキーワードは、実はあったんですよ。たとえば、僕の友人がマセラッティの世界限定十何台みたいなとってもレアな車を予約した際に、シートを合わせるからイタリアに来てくれって言われて、行ったわけです。で、サーキットでそのマセラッティのすごい車を運転していたら、イタリアの車好きの連中が集まって来て、それが上流っていうものなのか僕には全然わかんないけど、その友人のしていた時計(一昔前に流行したそこそこのスイスメーカーのもの)をみて、『パテック フィリップはしないの、良い時計だよ』って言ってきた。で、よく見たら、そこにいたほぼ全員がパテック フィリップしてたんですって。それでその彼から、『パテックっていうスゴイ時計があるらしい』という、車仲間からもそういう時計の情報がどんどん入ってくるんです。実際僕も、パテックのことをネットとかで、いろいろ調べてましたから…』

――ね、ついつい勉強しちゃうんですよね(笑)。
『そうなんですよね。"革ベルトは消耗品なのかぁ"とか(笑)。あと、よくイタリアにフェラーリを見に行ってたんですが、帰るときにスイスやフランスにも寄って、ジュネーヴやパリとか、いろいろ見てましたね。ヴァンドーム広場でブレゲやパテックをみたり、スイス本店のパテックを見たりして、その時には買わずに勉強で、もう...ずっと見てました。その頃にはヴァシュロン・コンスタンタンの時計も持っていたし、ブレゲも持っていたし、他のブランドもいろいろ持ってました。でも、なぜかパテックだけ、どーしても…ちょっと敷居を高く感じてたんですよ、なぜか。うん、なんかパテック フィリップって、若くして買っちゃいけない時計なんだろうって、ずーっと思っちゃってたんです』

――つまり、音楽シーンからというよりも、ご自身のライフスタイルの中の広がりから、パテック フィリップに行きついた感じで?
『ですね。やっぱりLUNA SEAがあって、LUNA SEAのRyuichiという自分自身が...勝ち得た時間…たとえばステージもそうだし、すごく良い音がするスタジオをレコード会社が押さえてくれて、そこでレコーディングやリハーサルすることもそうかもしれない。その中でこう…憧れの存在だったものを幾つか、自分で勝ち得ていくものってあるじゃないですか…、子供の頃のミニカーがそのままフェラーリに代わっていったりとかね。そういうの感覚かもしれませんね』

――若くして買ってはいけないという存在だったパテック フィリップを、どういう経緯で手に入れることになったんですか?
『ある人がね、それはとあるプロデューサーさんだったんですけど、こんなことを囁くんですよ、"感性は若いうちに育つんだ"って。その時は確かその方にご馳走になっていて、だから…そう、食事の話だったんです。"年取って成功して、良いものを食べるのは当たり前だけど、若い時にほんとに良いもの、美味しいものを食べること、それが自分の舌や味覚を洗練するんだ"と。"その経験があって初めて、安いものの中にも良いものと悪いものがあることを識別できるようになる。だから若いうちに良いものに触れなきゃいけない"って。で、そのたとえとして、絵画とか時計とかの話になって…そこで出たんですよ、"パテック フィリップなんて"って…"パテック フィリップなんて、よくね、歳とったら欲しいなんて思っている人いるけど、あれ誤解だからね"って(笑)。"あれ、若いうちに持つから、その時計の本当のことがわかるんだから"って言うのを聞いて、"ああ、そういう考えもあるのなら、今パテック フィリップを手にしてもいいのかも"って、そんな経験をしたんです』

――ちなみに、ファースト・パテックはなんでした?
『5110P(ワールドタイム)です』

――ファースト・パテックを手に入れた時、それまでとは違う特別な感慨ってありましたか?
『うん。僕、さっきも言いましたけど、パテックを買うまでに実にもう…3年間くらい旅をしたんで(笑)。その旅っていうのは、いろんなお店を廻る旅ではなく、ヨーロッパに遊びに行ったときにパテックの本店やブティックにできるだけ行くこと。で、実際見せてくださるじゃないですか、買わなくても。そこでカラトラバとかを見て、本当にこう…じーっと見て、で、日本に帰ってからは自分のパソコンで他のブランドの時計をみたり、いろんなこと較べたり、調べたりするんですけど、なんかパテック フィリップって…たとえばスモールセコンドのシンプルなカラトラバのモデルって、言えば、分度器があればまぁ誰でも書けそうなデザインなんですけど(笑)、ラグの長さであったり、厚みであったり、面取りの角の丸くなってるのとは逆に角が立ってるのとか、サテン仕上げか艶がある仕上げなのかとか、よく見るともう…すべてのバランスが考え尽くされてるんじゃないかというくらいで。最初の5110に関して言えば、ワールドタイムはいろんなメーカーが出してると思うんですけど、こんなに都市名を美しく配置して、さらに真ん中のところのギョーシェですかね、あそこのブルーグレーのところや、あとラグがメチャクチャ好き…足が長くて綺麗で、このバランスってものは…何ていうんですかね、なんかすごいシェフがいて、同じ食材なのに塩の振り方ひとつで味が変わっちゃったみたいな...。僕も分度器使えば丸でもバーインデックスでも書けると思うんだけど、でも、ああはいかないんだよなぁっていう何かが存在しているんですよね、そこには。感慨というか、そういう気づきを感じました』



――長く時計と付き合ってきて、最も素晴らしいと思うモデルはありますか?
『パーペチュアル・カレンダー…まぁ永久カレンダーですかねぇ…。僕、永久カレンダーっていう言葉がすごく好きで、最初にこの和訳をつけた人は素晴らしいですね、永久カレンダーって美しい言葉だなぁって思うんですよ。機能が発展しても、永久カレンダークロノグラフとか、永久カレンダー・クロノスプリットとか、永久カレンダーって付くじゃないですか』

――具体的なモデルでいうと?
『やっぱりパテック フィリップのパーペチュアルカレンダー クロノグラフはもう歴代好き。やっぱり1518…。1941年だったかな、ふたつの複雑機能を載せた永久カレンダー クロノグラフの1518っていう時計を、パテック フィリップはどこよりも先に出した。その昔は1点モノというのが多かったみたいなんですけど、年間の複数生産が始まったのが1941年。ひとつのモデル継続して作っていくと、そのムーブメントも熟成するでしょうし、精度も上がっていくでしょうし、それにまぁ…機械工作も試行錯誤しながらどんどん良くなっていく。で、この1518の後も、永久カレンダー クロノグラフは、2499、3970、5970、5270っていう系譜がシリーズ化して流れていく辺りも、まぁ今はもうインハウス・ムーブメントになってますけれども、やっぱり良いなぁと思う。でも変な話...歳取ると目が悪くなってくるじゃないですか(笑)。だから、"結局3針がイイよね"っていう人もいるんですけど、スーツのツイード柄とか、着物の絣(カスリ)みたいに、"文字盤の配列が美しいなぁ"とか、僕はその景色を感じているだけでもイイと思ってるんです。なんか…そこにサブダイヤルがあいているだけで美しい、みたいな(笑)。ツイード柄ってそうじゃないですか、ギンガムチェックとか、ああいうものって、別に細かい部分は見てなくとも、なんか存在がシンプルで美しいと思うんです。だから、遠くから見たらもう読めないただの模様みたいなんだけど(笑)、サブダイヤルの窓に曜日とか月とか書いてあるだけで、なんか美しいんだよね』

――バランス感でいうと、やっぱり3970とか5970ですか、ベストは。
『美しいですよねー、やっぱり(笑)。ああいうものを作れるっていうのがやっぱり、すごいなぁと思うんですよ』

――20年近い時計遍歴ですと、欲しいものもだいたいひと周りしていると思うんですが、今後を期待するモデルとか、ブランドとか、あります?
『永久カレンダーの世界はずっと視ていきたいなぁと思いますよね、どんな世界が待っているのかを。モデルによっては、たとえば10日巻きトゥールビヨンとか、一回カタログから消えると、そのまま後継機が出ないものが多いじゃないですか、ま、トゥールビヨンは今でもミニッツ・リピーターやいろんな機構に載って存在してますけども。でもパテックの永久カレンダー クロノグラフはたぶん一度も途絶えてないんですよね、1518から。だからやっぱりパテック フィリップとしてもきっと、威信をかけている生産シリーズなんだろうなとは...まぁ勝手にそう思っているんですけど、でも本当はね、将来も楽しみですけど、遡ってもいきたいんですよね(笑)。でも遡れないだろうなぁ、もう。すでに高騰しきっているのもあるし、やっぱりレアすぎて良い個体と巡り合えるかどうかっていうこともありますからね』

――パテック フィリップ以外のブランドはどうでしょう?
『なんか僕…最近はよく時計をしてステージ上がってるんですけれども、まぁ変な話、ステージに時計、なくてもいいかなぁと思ってもいるんで、それがパテック フィリップである必要もないかもしれないんですよね、うん。まぁ永久カレンダー・クロノグラフに関しては、ずっと追いかけていきたいっていうのはあるんですけど、仮に5万円の時計でも1万円の時計でも、良いと思える審美眼を持ちたいなぁって、すごい思うようにもなったんですよ。ま、比べてしまったらね、そりゃあ3か月かけて1本作る時計と、工場でガチャンガチャンと工業的に作ってる時計とでは違うかもしれないけれど、でも絶対にそこにもそこの...良さはあるんですよね、G-ショックであろうがスウォッチだろうが。シチズンが出してるソーラーのQ&Qっていうシリーズがあるんですけど、ああいうのも購入していて、けっこう気に入っているんです。"使いやすいなぁ"と。うん、やっぱりあのう…分度器の話じゃないですけど、まぁ四角い時計もあるけど、結局もう丸いところでやるしかないじゃないですか(笑)、そこに電池使ったムーブメント載せるか、こだわった機械式ムーブメント載せるか、みたいな話だから、デザインを考えるだけでもう立派に時計なんで、なんかそういう時計も凄く楽しみたい。なのでそこから最近また、いろんなブランドが好きになって、なんだかんだって買ってちゃってます』

――時計趣味に終わりはない、と(笑)。
『やっぱり僕、男だったらいつか、"自分はこの時計を選んだ男です"って言いたいんでしょうね。それをずっと探していく。それは別にロレックスでもいいし、オメガでもいいし、パテック フィリップでもオーデマ ピゲでも、どこでもいいと思うんですけど、"僕はこの時計を僕の腕に載せている、それはつまり僕の人生を載せてる"、みたいな。やっぱり、時計を始めるキッカケになった言葉、"これが僕の人生なんですっていう時計を選ぶ時が来るぞ"という、あの言葉がずっと突き刺さっているんです』





撮影協力:Chrono Theory



【後記】
今回は、河村隆一にとっての時計という存在について、パテック フィリップとの出逢いと想いといった点を中心とした会話を記録したが、純粋に河村氏への関心からこれを読んでおられる、時計にあまり明るくない方にとっては、ちょっと意味不明な専門用語や固有名詞が多かったかもしれない。もしどうしてもわからない語句などがありましたら、下のコメント欄からご質問いただければ、できる限りお答えしようと思っているので、どうかよろしく。

さて次回はそんな、時計にあまり興味をお持ちでない方に向けて、河村氏がその入り口を優しく語る最終パートの掲載を予定している。ここまでお読みいただきありがとう。