4N (Four Number) & 4N Sapphire Planet

 By : CC Fan
カンタロス(Kantharos)は一段落しましたので、コンスタントフォースつながりで面白い時計を紹介したいと思います。

コンスタントフォース(ルモントワール)は伝達トルクを一定化する主機能の他に、副次的な機能としてチャージ間隔の周期で間欠的に動作させることができます。
これを利用することで、ユニークな表示を実現したものがあります。

最も有名なものの一つはランゲ&ゾーネ(A.LANGE&SÖHNE)のツァイトベルク(ZEITWERK)ではないかと思います。
これはブランドのアイコンになっているアウトサイズデイトと同じような構造の桁ごとのデジタル表示を1分周期のコンスタントフォースを使って1分ごとに送ることで機械式でデジタル表示を実現したものです。
スモールセコンドは通常の針式のため、アナログとデジタルのコントラストを楽しむことができます。
また、秒から分送りのタイミングはコンスタントフォースの制御機構に制御されるため、常に60秒のタイミングで分が切り替わり、秒と分の位相合わせに気を使わなくてもよくなります。

今回紹介する4Nというブランドも基本的なシステムは同じかと思っていたのですが、調べたところ実はもっと複雑なのかもしれません。
百聞は一見に如かずでまずは公式動画をご覧ください。


時分ジャンプ (4N公式YouTubeチャネルより)

真ん中のオレンジ色の四角が時間表示となり、デジタル表示で時と分を表示します。
10枚のディスク(時:4枚、分の十の位:1枚、分の一の位:5枚)が遊星歯車(planetary gear)のキャリア(ケージ)に取り付けられており、キャリアが公転すると各ディスクも自転する構造になっています。
これにより、正規の位置以外では数字が正しい向きにならないようにして読み取りの邪魔にならないようにしているようです。
最大4つの数字で表示するから4N(Four Number)というシンプルなブランド名です。

4Nはフリーランスのデザイナーで、有名ブランドの時計もデザインしたフランソワ・カンタン(François Quentin)氏のプライベートブランドで、初めて知ったのはノーブルスタイリングさんのPALACEイベントで本人にお会いした時でした。


PALACEイベント@ノーブルスタイリングギャラリーの様子(2014)

カンタン氏曰く、"私の名前はカンタン(簡単)だが、私の時計は簡単ではない(超意訳)"という日本語を交えた必殺ギャグが印象に残っていますが、その時は写真を撮り忘れました。
公式のプレスキットより引用いたします。


フランソワ・カンタン氏

簡単ではないムーブメントは複雑ムーブメント工房オーディマ・ピゲ ルノー・エ・パピ(APRP)製だと言う事を公言しています。
カンタン氏の発想をそのまま形にしたAPRPの英知も素晴らしいです。
ぜひ構造を知りたいと思い、公式の資料より推測してみました。


4Nムーブメント(文字盤側)

ディスクが重なり合っている構造が分かります。
時ディスクは各ディスク3×4ディスクで12個の数字が、分の十の位ディスクはそのまま6個の数字が、分の一の位ディスクは各ディスク2×5ディスクで10つの数字が書かれています。

ディスクを取り去った状態を見てみましょう。


4Nムーブメント(ディスクを取り去った状態)

見ての通り、各桁の中心部にコンスタントフォース用のバネと思われる部品が搭載されています。
これより分かることは、各桁が独立してコンスタントフォース制御を行っているという構造です。

分解図を見ますと香箱→脱進機の通常輪列は直結になっています。
各桁ごとに独立して配置されたコンスタントフォースには、通常輪列とは別系統でそれぞれ香箱からトルクを供給されています。
カンタロスのコンスタントフォースはトルクの入力が断続的で、出力は連続的でしたが、4Nのものは逆に連続して入力されたトルクを断続的に出力して動きに変えるものだと言えます。
動画を見るとディスクの動きは瞬転を良しとするのではなく、積極的に動きを見せようという動きに見えます。
速度は蓄積トルクで、動き出すタイミングはコンスタントフォースの制御でコントロールできるため、そういう演出だと考えられます。
似たような機構でも使い方によって全く違う表現ができるという好例ではないでしょうか。

さて、ここまでは公式資料でしたが、この4Nを取り上げようと思ったのは数週間前にカンタン氏が新作の”サファイヤ プラネット(Sapphire Planet)”を持って来日し、それを拝見することができたからです。


サファイヤ プラネット (文字盤側)

名前の通り、サファイヤクリスタルを削り出したケースを持つピースです。
4Nはムーブメント数の制限を設けており、各仕様合わせてムーブメント16個分しか作らないとしています。
サファイヤプラネットはそれに加え、ディスクの色3種類(オレンジ・ブルー・グリーン)それぞれに対してユニークピースであるという制限を加えています。
もともとのケースでも充分に機構を堪能することができましたが、横から覗き込むというのはこのケースだけの特権です。

数字の高さは5.5mmあり、とても読み取りやすい表示となっています。
ケースは大きめですが、上下のサイズを抑えてあり、装着感は良いです。
また、カスタムストラップとクイックリリースシステムによってオーナーの腕に合わせてラグの部分で脱着できる継ぎ目のないストラップが用意されています。
意外と机とバックルの接触というのは気になるので、これはとてもいいアイディアだと思います。


サファイヤ プラネット(ムーブメント側)

ムーブメント側では10日間のパワーリザーブを実現するツインバレルがリジットなブリッジに組み込まれている様子が見えます。
裏面から見て向かって左下にあるのが通常のリュウズ、向かって右上は時間のディスクだけ1時間単位で送るためのプッシャーです。
おそらく時差を飛び回るようなユーザーを想定していると思われます。

今回、カンタン氏にはお会いできず、残念でしたが、このピースが見られただけでも良かったです。

サファイヤプラネットは今まではCGしかありませんでしたが、2016年に実機の動画が公開されました。
私が埋め込み動画を生成した時点で再生256回と寂しい限りなので、ぜひご覧ください。

サファイヤプラネット動画 (4N公式YouTubeチャネルより)

横から覗き込む視点も堪能できます。

関連 Web Site (メーカー・代理店)

4N
http://4nparis.com

YouTube 4N 公式チャネル
https://www.youtube.com/user/4Nwatch/videos

Noble Styling Inc.
http://noblestyling.com/