ル・ローヌ イベントレポート

 By : CC Fan
ノーブルスタイリングさんより告知があった新興ブランド、ル・ローヌ(LE RHÖNE)のイベントレポートです。

正直に言ってしまうと、告知を見た段階では"よくあるファッション系ブランド"と見くびっていたのですが、その考えは良い意味で裏切られ、とても素晴らしいブランドでした。
ただ、他の方も同じように感じたのか、例えば先日行われたチャペック(CZAPEK)のイベントに比べると、あまり注目されていないようでした。

創業者のお二人にお話を伺い、実際の作品を拝見したところ、作品はとても良くできており、時計作りにかける情熱も並々ならぬものを感じました。
ここで、第一印象で色眼鏡をつけていた自分に気が付き、反省し、是非魅力を伝えたいと詳細なレポートを書いています。

時系列は逆になってしまいますが、まずはYAKITORIを含め打ち解けた創業者のお二人の写真を。



ロイック・フロレンティン(Loïc Florentin)とティモ・ラジャコスキー(Timo Rajakoski)…だと思うのですが、名刺を交換するのを忘れてしまい、どちらがどちらなのか、確証がありません…
髪の長い方が創業者のロイック・フロレンティン(Loïc Florentin)、短い方は創業者ではなくマーケティングディレクター氏とのことです。
マーケティングディレクター氏は以前は別のブランドで働いており、前から知り合いという縁で今回の話に繋がったようです。

最近思うこととして、独立系は指揮を執っている人物のキャラクターが強く出るので、話してみて"彼の作っているものは良い"と判断するのが良いのかなと。

さて、時間は戻りプレゼンテーションを。



ブランド名になっているル・ローヌ(LE RHÖNE)とはスイスのローヌ氷河からジュネーブのレマン湖を経由し、フランスに流れる国際河川であるローヌ川のこと。
かつては沿岸に水車を設けた時計工場が作られ、川の流れが時計作りの動力源になっていたという歴史から、ブランド名に選びロゴも水車を模したものにしています。
水車についてはジラール・ぺルゴのファクトリーツアーでも触れられていますが、GPでは川が近くに無いので蒸気機関を使っていたとのこと。

このロゴはどこかで見たことが…と思っていたら、バーゼルのアトリエ(LES ATELIERS)に出展していたそうで、次回は絶対に行きます!

さて、現在の生産数は年に300個程度と非常に規模は小さいものの、時計作りが認められたのか販売拠点(Point of Sales)は順調に増えています。
さらに、契約をした"アンバサダー"という形ではなく、時計に触れて購入した"ファン"として、三ツ星シェフをはじめとした有名人が着用しているそうです。

時計作りとしてはスイスの伝統的な水平分業スタイルをとっており、15社の協力企業(サプライヤー)と協力して時計を作っています。
HAUTE HORLOGERIEコレクションとして、ダブルトゥールビヨンを搭載したコンプリケーションモデルもありますが、主力は自動巻き三針またはクロノグラフです。
基幹ムーブメントはソプロード(Soprod)のETA 2892互換キャリバーA10のモデファイ版で、個人的な嗜好としては下手な"自社キャリバー"よりも信頼でき、"どこでも直せる"というメリットもあると考えています。
しかし、それだけにとどまらず専用のモジュールを搭載することでユニークなコンプリケーションも実現しています。



個人的に一番良かったのが、今年の新作、ヘドニア JMT(Hedonia JMT)です。
12時位置に2桁表示の数字があるのがわかりますでしょうか?
一見するとビックデイトですが、デイトは6時位置に通常のものがあります。
これが、モデル名にもなっているJMT(Jumping GMT)、すなわちデジタルの24時間ホームタイム表示です。

社内の時計師によって考案された機構を持つ、ル・ローヌ専用のモジュールによって実現されており、他に類を見ないコンプリケーションです。



文字盤の色などはまだプロトタイプとのことで、いくつか仕様が違うものを見せていただきました。
こちらはグラデーションのように見える文字盤です。
曰く、"もちろん日本が中心になった世界地図のモデルも考えている"とのこと。

リュウズでは時分針(ローカルタイム)とJMT(ホームタイム)が連動して動き、日付はホームタイムに合わせて動きます。
日付の拡大レンズは風防ではなくダイヤル側に備えられています。
ローカルタイムの時分針は10時位置のプッシャーで独立に1時間ずつ進めることができ、単方向なのはローカルタイムは12時間表示で日付は連動しないのでユースケース的に問題はないという考えのようです。
今回北米・南米を経て日本に来るワールドツアーで実際に使っているそうですが、"機能分割が実用的"とのこと。



当然仕組みも聞いてきました。
原理に忠実な教科書的レトログラードをディスク2枚に拡張したような作りです。

右下の1時間で1回転するカムがレバーを動かし、レバー先端のバネが1時間に1回24歯の歯車を1歯分送ります。
24歯の歯車の上には順に10の桁のプログラムカム・1の桁のプログラムカムが重なっており、それぞれがレバーで読み取られレバー先端の歯がディスクのピニオンを駆動することで対応する数字を表示させます。
00から始まり、23になると00に戻ります。
各桁はレトログラードなので、9から0に戻る場合順送りではなく、逆送りで戻るためバネによってはじかれてカムに落ち込むような独特の音と、ディスクのわずかな振動を見て楽しめますが、これはプロトタイプだからかもしれません。

右下のレバーから伸びている歯車は日付送り機構に動力を伝えるためのものだそうです。



リストショットを。
ケース径は41mmと結構大きいのですが、ケース内の重心が低く、Dバックルが標準のためバランスはとれていると感じました。
"よくある"と感じたケースですが、細部を見ていくと何にも似ていない独自の世界を確立していると感じました。
また、アリゲーターストラップのほか、独立系にしては珍しくメタルブレスの用意もあるそうです。



ムーブメントは信頼と実績のソプロード。
ローターがブランドロゴの形にパーソナライズされており、裏蓋の形状もユニークです。
ストラップはワンタッチではないものの交換可能な工具が付属しており、メタルとアリゲーターの間での相互交換も可能とのこと。



個人的には次点、ノーブルスタイリング山口氏のベストというヘドニア グランド フェイズ デ リュネ(Hedonia Grande Phase De Lune)、文字盤全体を覆うル・ローヌ専用のムーンフェイズモジュールを搭載したモデルです。
通常のムーンフェイズと違い、月は1つしかなく、いわゆる約29.5日で一周します。
精度については、"約10年で1日の誤差"とのことですが、表示方法的にも絶対的な精度というよりポエティックな情景を楽しむ機構と考える方が良いかと思われます。



ムーンディスクは文字盤上を反時計回りに回転します。
これは下弦の月付近。
調整はリュウズのみで可能で、コレクターなどは必要ありません。



上弦の月付近。
このモデルではムーンディスクと遮る板にサファイアクリスタルが使われ、レーザーマーキングによって月野模様と星が描かれています。



モデルによってはアベンチュリンガラスが使われています。
こちらはホワイトゴールドにダイヤをセッティングしたもので、月がスーパールミノバになっており暗闇で光ります。



光の当たり方によって見え方が変わります。



グランドコンプリケーションのダブル・トゥールビヨン。
ユニークピースで、オーナーの希望に合わせて作られるそうです。
12時位置には針による24時間表示のホームタイム表示があり、ローカルタイムは10時位置のプッシャーで1時間単位で修正できます。

これだけはソプロードではなくコンプリケーションムーブメント専門のサプライヤーから供給を受けているそうです。
このモデルではフライングトゥールビヨンですが、ブリッジ付きトゥールビヨンにもできるそうです。



トゥールビヨン部分は抜かれており、向こう側が透けて見えます。



ケースバック側も。
真ん中にあるのは二つのトゥールビヨンの平均を求める差動歯車兼ブランドロゴを模したスモールセコンド。
これだけは手巻きです。



ケースサイドにはユニークピース1/1の表記。
今気が付きましたが、ベゼルは弧を描いています。
ケースの厚みの割には薄く感じるのはこの造形のおかげかもしれません。



自動車をモチーフにしたロード・レーサー(ROAD RACER)、クロノグラフはデュボア・デプラ製の文字盤側クロノグラフモジュールという定番の組み合わせです。
ブランドロゴを模したスモールセコンドはこちらにも。



ローターはホイールまたはハンドルのような意匠に。
ビンテージカーのカマロからインスピレーションを得ており、エンジンのパーツから作られたリミテッドナンバーがつけられています。



日本市場で受けそうな点として、全機種Dバックルが標準です。
ブランドロゴを模したスプリングを持った二つ折りバックルです。



ワールドツアーの途中ということで、ほぼすべてのラインナップが持ち込まれていました。
全ては紹介できませんが、概要だけでも…



同じ機種でも素材の組み合わせ、ケースサイズなどを比較的自由に選べるのは"今風"です。
また、生産規模が少ないのでユニークピースの相談も是非してほしいと。



時計作りについていろいろお話を伺いました。
一見するとファッションに見えてしまいますが、時計作りの伝統を引き継ぎながら自分たちの作りたいものを作るという強い意志を感じました。
その中で印象に残ったのは、ル・ローヌの時計は"SWISS MADE"を記載していないということ。
これは、H. モーザーなどが問題提起しているように、"たった"60%がスイス製であれば名乗ることができるSWISS MADEとほぼ100%がスイス製の自分たちを一緒にしてほしくはないということで、かわりとして"Manufactured in Switzerland"(スイス国内で製造)と記されています。

冒頭に述べたことですが、第一印象だけで見逃してしまうにはあまりに惜しいブランドで、今回参加できてよかったと思います。
"台風の目"になるかもしれません。
来年はジュネーブでは近隣のホテルで、バーゼルにも引き続きアトリエに出展するそうなので是非注目していきたいです。

関連 Web Site

LE RHÖNE
https://www.lerhone.com/

Noble Styling
http://noblestyling.com/