ラング&ハイネ マルコ・ラングが最後に残したユニークピース

 By : CC Fan
バーゼルワールドで、イエンス・シュナイダー氏の開発部長への就任と創業者マルコ・ラングがブランドを去る決断をしたことをお伝えしたラング&ハイネ(LANG & HEYNE)。

イエンスがプロデュースした作品が登場するのにはもう少し時間がかかりそうですが、マルコがブランドを去る直前に最後に取り組んでいたプロジェクトが1年越しで完成し、マルコと個人的にも親しいオーナー氏のご厚意、そして何よりもマルコ自体が集大成のような作品を知ってほしい…という希望で拝見させていただきましたので、レポートします。

いつもの”オープン回し者”活動の場所、恵比寿のノーブルスタイリングギャラリーへ。



ブルースチールのカテドラル針、ローマンインデックスという意匠は同社のヨハン(Johann)を思わせますが、よく見るとスモールセコンドがありません。
そして、短針に重なっていますが何か長い針が…?



センターセコンド!
ラング&ハイネのレギュラーモデルでスモールセコンドを持たず、センターセコンドを持つのはルモントワールによるステップセコンドを持つキャリバーVのみですが、このピースはそれをベースにコンラートにあったアンテログラーデ(前方ジャンプ)カレンダーを完全に除去した新ムーブメントです。



こちらが以前に撮影したコンラート。
31日までにトルク蓄積を行い1日までに一気に飛ばすアンテログラーデカレンダーを持ちますが、オーナー氏はカレンダー表示をあまり好まないのでマルコと直談判し、プロジェクトをスタート…という経緯は以前の記事でちらっと触れました。

ムーブメントは最初は”キャリバーVのカレンダー抜き”を検討していたそうですが、マルコの美意識が許さなかったそうで結局、地板そのものを再設計することになったそうです。
公式の分解図を確認すると、ダイヤル面に大掛かりなジャンパースプリングを持つカレンダー機構があるため、これを抜いてしまうと”スカスカ”になるのが許せなかったのだと思われます。
さらにダイヤルなども既成のものは使えず、ほぼ新規設計・製造になったようです。



ダイヤルもきちんと作り直しているため、針とダイヤルのクリアランスも適性、カレンダー機構の分の厚みをちゃんと調整しています。
また、中央のエッジ部分でわかるように、日本で人気のグラン・フー・エナメル文字盤ではなく、シルバーの金属文字盤・フロスト仕上げです。
これは、”時計は実用してこそ”という信念を持つオーナー氏が、衝撃で割れることのあるエナメルよりも、頑丈なシルバーがより”実用的”と判断し、自分の信念で選んだからです。



ムーブメントも。
頑丈さと整備性を両立させた3角形のトリゴナルブリッジにセンターセコンドを駆動する伝え車が追加されています。
4番車までの輪列はガンギ車同軸のルモントワールの作用により、1秒ステップ動作を行い、4番車は1分で1回転します、なので4番車同軸からギア比1:1の伝達を行えばステップセコンドになります。



しかし、このギアにはそれなりに重い秒針という負荷があるとはいえ、かかっているトルクが軽く、ルモントワールは香箱のように連続してトルクをかけ続けるわけでもないので、バックラッシ(歯車の遊び)が大きいと秒針が外乱によって振れてしまいます。

この問題に対する解決策はド直球、ひたすら歯車を細かく切ってバックラッシを小さくするという方法です。
クロノグラフの水平クラッチも顔負けの細かい歯切りに加え、真ん中の歯車が水平クラッチと同様の偏心ネジに調整機構を備えており、歯車が最適な状態で当たるように調整されます。
水平クラッチと違い、歯車が動かないのでより厳密に調整できるでしょう。



ルモントワールはブリッジの下なので控えめ…



以前掲載したルモントワールの図を。
ルーローの三角形型のカムでレバーを左右に振り、レバーが3つの爪を持つ脱進車を規制・開放し、回転することによってひげゼンマイにエネルギーがチャージされる仕組みです。

パワーリザーブ36時間でルモントワールの動作時間は24時間、オーナー氏曰く“精度もなかなか“とのことでルモントワールのメリットを活かしています。



フロスト仕上げの文字盤と研磨された段差部のコントラスト!
カレンダーがなくなることでよりピュアになった印象です。

ラング&ハイネのピースはザクセンの偉人の名前を付けていたので、この時計にも名前が?とオーナー氏に伺ったところ、非公式だけど“マルコ”でいいのではとの回答が。
なるほど…



もう一枚。
キャリバーV搭載機は40mm以下、39.4mmケースなので、凝縮している印象を受けましたが、カレンダーがなくなることでよりバランスが取れたと感じました。



正確な値は不明ですが、厚みも少し薄いようです。



時計好きが集まると話は尽きないわけで…
拝見した後もいろいろな話を。



一見すると内包する複雑性を感じさせないスタンダードなフェイス!
実用している時計なので、時間はあっておりそろそろノーブルスタイリングギャラリーの閉店時間です。



素晴らしいの一言!

閉店後、葛西氏の計らいで納品を祝し、祝いの席が設けられました。
今回はドイツ繋がりで、ドイツビアーで乾杯!



リストショットをお願いするのを忘れていたので、最後に撮影。
この後は完全にオフモードなのでカメラは仕舞っちゃいます。
色々アレな話も飛び出し、楽しいひと時…

ありがとうございました!

関連 Web Site (メーカー・代理店)
Lang&Heyne(本国サイト・日本語)
http://www.lang-und-heyne.de/ja/

Noble Styling
http://noblestyling.com/