ラング&ハイネ新作 「ヘクトール」と 「カンタロス」~L&H33.2ムーブメントを追う

 By : CC Fan


工房設立20年をお祝いするヘクトール(HEKTOR)を
発表したラング&ハイネ(LANG&HEYNE)。



初見のパッと見の印象で「好ましい」と感じたのはなぜ?と、理由を詳細に分析したところ、デザインの中に我が親愛なるカンタロスとの共通点があり、それを無意識に求めていた…?という結論と、ムーブメントについてもいくつかレポートします。



ある「デザイン言語」を厳密に定め各部の意匠を言語に沿わせることにより、全体の統一感と存在感を引き出す手法が使われており、「ペチコート」と名付けられた特徴的な形状が用いられています。

特に注目したのは6時位置に設けられた大きなブリッジ、これは筒カナ・筒車をムーブメント地板だけではなくこのブリッジでも軸で支えて両持ちにするためのブリッジで、通常の時計のように薄い押さえや文字盤そのもので押さえるよりも確実に支えることが期待できます。
このブリッジは頑丈さのために厚く、単体ではムーブメントから飛び出したような形状になりますが、文字盤に設けられた開口部と噛み合うことで最終的には文字盤とほぼツライチになり、ブリッジとしての機能とデザインを両立させます。

この「ムーブメントから飛び出した機能部品が文字盤の開口部と噛み合う事で最終デザインになり、機能とデザインを両立させる」という要素は、正にカンタロスのコンスタントフォースと同じだ!と気が付いたわけです。



カンタロスはコンスタントフォース4番車とガンギ車、コンスタントフォースアンクルとカムを支えるサファイアクリスタル製のブリッジがムーブメントから突き出しており、これが文字盤の開口部と噛み合う事で最終的な形状を作り出します。
デザインソースとしてはコロッセオや、「カンタロス」という名前の由来の一つであるギリシャのカップの装飾などをミックスさせ、クラーレ自慢のルビー針とも調和したデザインが完成した…と「身内贔屓」ながら思います。

ちゃんとした文字盤を設けつつ、ムーブメントの機能も見せるという矛盾した要求を実現する方法としてかなり良い手法だとは思うのですが、相応に手間がかかるのかクラーレでもカンタロスでしかやってません。
カンタロスと同じ?デザインコードのアレグロも似てはいるのですが、6時位置の開口部はブリッジとしての機能は持っていません、これはリピーターラックなのでほとんどが片持ちでいいからという理由もあります。

ヘクトールもカンタロスも、「飾り」ではなく機能とデザインが調和している…というのが好きという事でしょうか。

これは完全に偶然ですが、ヘクトールもカンタロスも古代ギリシャ語からの由来を持つ(ほかの意味もある)単語で、妙な所で噛み合ったなと思った次第…
クラーレがそこまで考えていたか、ヘクトールも同じ意図なのか…という事は今後クラーレとイエンス・シュナイダーに是非伺ってみたいものです。

さて、ムーブメントであるL&H 33.2はその型番からも読み取れるように、ラング&ハイネと同じグループ(経営母体)のムーブメントサプライヤーUWD(Uhren‐Werke‐Dresden)製ムーブメント33.1をベースにしています。
(UWDについてはゲストブロガー氏の訪問記もあわせてご覧ください)



このムーブメントは現在は離職してしまった創業者 マルコ・ラング自身も開発に携わっていたそうです。


UWD 33.1はスモールセコンドムーブメント、L&H 33.2はセンターセコンドになっています。
これは「拡張」したというより、33.1の開発時点でセンターセコンド化も見越した「両用」機であったと読み取りました。

更に、同じくマルコ・ラングが開発したセンターセコンド「専用」機のツヴァイゲズィヒト1のムーブと並べるのも面白いかもしれません。

ブリッジの意匠も文字盤同様の「ペチコート」デザイン言語が取り入れられています。



スモールセコンド輪列をセンターセコンドにする場合、3番車同軸に追加の歯車をつけてセンターのセコンドピニオンを駆動するいわゆる「出車」式か、4番車の回転を1:1の伝え車で伝える「伝え車」式などがありますが、L&H 33.2は3番車を最上位に配置することで出車を別途設けることなくセンターのセコンドピニオンを駆動する方式です。
この方式は追加パーツの少なさと組み立てやすさの両方の面で良いバランスではないでしょうか。

UWD 33.1の写真をよく見ると2番車の軸が中空にも見え、最初からセンターセコンド化を見越した「両用」機だったと読み取りました。
歯車の重なりを減らすことでムーブメントを相対的に薄くする効果もありそうです。

センターセコンドピニオン自体には駆動トルクが通過しないため、歯車の遊び(バックラッシ)でガタツキが発生してしまうため、摩擦力を与える与圧スプリングで押さえています。
これも押さえる力をブリッジの開口部から調整できるようです。



緩急調整も古典的なスワンネックレギュレーターだったUWD 33.1から、偏心カムで微調整したのち2本の固定用ネジで本固定する方式に変わりました。
ケーシングした状態で表側からすべてアクセスできるのでより追い込めるでしょう。

既に実績のあるUWDのムーブメントをベースに手堅い方法でセンターセコンド化したと理解しました、これは是非実機を見てみたい!
出来ればカンタロスと並べたいですけどね…(遠い目)

関連 Web Site (メーカー・代理店)

Noble Styling
http://noblestyling.com/

Lang&Heyne(本国サイト・日本語)
http://www.lang-und-heyne.de/ja/