H. モーザー × MB&F エンデバー・シリンドリカルトゥールビヨン 実機&機構レポート

 By : CC Fan

両社の「15周年」(H. モーザーはMELB Holdingによるリローンチから、MB&Fは創業から)を記念し、それぞれが15本限定となるコラボレーションピースを発表したH. モーザーとMB&F
、そのうちエンデバー・シリンドリカルトゥールビヨン(Endeavour Cylindrical Tourbillon)をレポートします。
H. モーザーの直営店、銀座NX ONEに現在販売はできないものの、ほぼ最終版と言えるプロトタイプが入荷しており、15日まで拝見できるという事でさっそく伺いました。

ちなみに、エンデバー・シリンドリカルトゥールビヨンはH. モーザーの販売網で、LM101はMB&Fの販売網で展開されるそうで、NX ONEで取り扱うのはエンデバー・シリンドリカルトゥールビヨンのみになるそうです。
LM101はMB&Fの取扱店にご連絡ください。



こちらは、H. モーザーのムーブメントをベースにMB&Fのテイストを取り込み、「モーザー化」した作品と理解しました。

ベースは物議を醸したアイコンウォッチと一緒に発表された自動巻きフライングトゥールビヨンムーブメント、これをシリンドリカル(円柱状)ヒゲゼンマイに変更し、MB&F由来の傾斜文字盤を実現するギアシステムとドーム状風防を組み合わせており、私は非常に「手堅い」構成と感じました。

この結論に至った理由を各部を追いながら見ていきましょう。



まずは作品名にもなっている「主役」、円柱状のシリンドリカルヒゲゼンマイから。

上から見ると同心円にゼンマイが重なる円柱の形をしているシリンドリカルヒゲゼンマイは、1ターンの円形バネが重なってると見なせ同心円状に伸縮するため、ゼンマイの重心が変化しません。
これはアルキメデス螺旋曲線を内端と外端で打ち切ったことにより伸縮による重心変化を起こす平ヒゲや、平ヒゲの重心変化を巻き上げ部で「補正」する巻き上げヒゲよりも理想的な動作です。

しかし、見ての通り場所をとること、平ヒゲや巻き上げヒゲに比べて製造が難しいこと、円柱の側面方向から重力がかかってかかった時に柔らかいと「たわんで」しまい、同心円が維持できなくなるという問題があったので、性能最優先で1姿勢(ジンバルによる安定化)のマリンクロノメーター以外ではほとんど使われていませんでした。



最悪っぽい条件にしてみても「たわんで」いるようには見えないので、問題ないのではないでしょうか。

このコラボレーションに先駆けて発表されているレガシーマシンサンダードームも公式に製造元を謳ってはいないものの、同様のシリンドリカルヒゲゼンマイを搭載しており、今回のものと同様にMELB Holdingの関連企業プレシジョン・エンジニアリング製造によるもののようです。

このシリンドリカルヒゲゼンマイを収める方法は単純明快、天真とトゥールビヨンケージを延長し縦方向のスペースを稼ぎ、そこシリンドリカルヒゲを配置しています。
これにより、トゥールビヨンケージが文字盤側に飛び出すことになり、通常の時分針を配置するとケージにぶつかってしまうほどケージが飛び出し、通常の風防にまで迫っています。
そのため通常の時分針は使えません。



解決策はMB&FがレガシーマシンフライングTレガシーマシンサンダードームで用いた傾斜文字盤に円錐状のギアを使って斜めに表示を伝えるギアシステムです。
確証は持てませんが、フライングTに用いられたものと同じ部品を使っており、ムーブメント側にそれに対応する受けとネジ穴を設けて取り付けられているようです。

よく見ると本来の時分針の位置(文字盤中央)に突起があると識者(意味深)から報告されており、これは針が付けられていない本来の分針(筒カナ)の部品であると思われます。



筒カナの回転を1:1の中間車で持ち上げ、円錐歯車で斜めの文字盤へ伝え、斜めになった文字盤の分針を駆動します。
さらに、12:1に減速する日の裏車相当のギアによって減速され、時針が駆動されます。



文字盤はH. モーザー側で用意したというサファイアクリスタル製、透明なため12:1に減速しているギアをはっきり観察することができ、MB&Fの作品とは異なる魅力を作り出しています。
透明とはいえ、うまい具合に光が反射するため読み取りは問題なさそうと感じました。



強い光の下ではフュメ文字盤に影が落ち、思わぬ表情を見せることも。

MB&FのフライングTと同じく、腕を返すことなく「チラ見」で文字盤を見ることができる効果もあります。
また、本来は6時位置にあったトゥールビヨン開口部を12時位置に配置しているためムーブメントは180度回転しており、リュウズは9時位置にあります。



影の様子をもう一つ。
立体的なことが分かります。



拡張は文字盤側で行われているため、ムーブメント側は通常の自動巻きトゥールビヨンムーブメントと差が無いように見えます。

さて、「手堅い」と感じた理由について。
見ての通り、ムーブメントに使われている技術はH. モーザーとMB&Fが今までいくつもの作品で熟成してきたものを、上手く組み合わせて作られています。
人目を集めるだけの「打ち上げ花火」ではなく、壊れない「時計」を作ろうとしていると感じました。

これは、開発と言うのは「アイディアを形にする」ことよりも、それが「問題を起こさない」ことを確認する「検証」の方がはるかに大変であるというエンジニアリング視点のリスク管理で、MELB HoldingがH. モーザーをリローンチした時に当時は不足していたムーブメントの信頼性を分析し、徹底的に問題を潰したというエピソードにも通じる姿勢だと感じたからです。
同じ姿勢は、今回のコラボレーションのMB&F側のLM101や、モーザーが少し前に発表したストリームライナークロノグラフにも感じたので、また取り上げられればと思います。



ケースと風防も同様で、モーザーで実績のあるケースとMB&Fで実績のあるドーム風防をベゼル部分の新規開発で結合させることで手堅く実現しています。
MB&Fのレガシーマシンのドーム風防はいくつか種類がありますが、これはフライングTやサンダードームに使われる最も曲率が大きいタイプのようです。

こうやって見ると斜めに配置された文字盤の存在感が際立ちます。
またトゥールビヨンも背が高い!と。



機構ばかりでしたが、もちろん光によって表情を変えるフュメ文字盤の美しさは言うまでもありません。
ただ、こればかりは写真やPCの画面ではどうしても伝わらないので実物を見てほしいです。



明るい緑からほとんど真っ黒な緑まで、表情を変化させていきます。



リストショット。
ケース自体は直径42mm、厚み9.4mmなので装着感は良いです。
風防がおよそ10mm出っ張って、数字上の高さは19.5mmですが、半球状で真ん中が盛り上がっているだけなので「袖に収まらない(≒ドレスシーンは厳しい)」以外は普通に使えるのではないかと思います。



手首を返さなくても見えるの図。
リュウズが9時位置にあって当たらないのも装着感に効いています。
時合わせの時は外してからやりましょう、3時リュウズでも本来はそうするべきです。



最後に私物との緑コンビを。
サンプル機が緑とは知らなかったので、うれしい偶然でした。

フュメ文字盤やシリンダーひげゼンマイが伸縮している様子などはやはり実機を見ないと伝わらないと思うので、ぜひこの機会に!




関連 Web Site

H. Moser & Cie.
http://www.h-moser.com/jp/

NX ONE
http://www.nxone.jp/