マルコ・ラング ツヴァイゲズィヒト1の発表と同時にメカニズムを見る! 1号機は日本へ!

 By : CC Fan
今年初頭に自身の名前を冠したブランドを設立し、時計師机に戻り、本来であればバーゼルのAHCIブースで新作を発表し、夏ごろに新作を携えて来日予定だったマルコ・ラング。

ご存じの通り、新型コロナウィルスのパンデミックで展示会やらワールドツアーやらは全て吹っ飛んでしまいましたが、マルコは地道に開発を続け、今回新作となるZweigesicht-1(ツヴァイゲズィヒト)がついに完成しました!
公式なプレスリリースは1分前に発表済み、スペックや公式の情報はそちらを参照いただくとして、まずは「知ってたけど言えなかった」と「こんなメカニズムが!」をぶつけたブログ記事を。



ド直球のセンターセコンド、「マルコラング ドレスデン」と「Made in SAXONY(ザクセン州で製作)」と控えめに記されています。
「時計師机に戻った」マルコ・ラングが一つずつ作り上げ、年産5本予定で数年かけて、僅か18本のみが作られる作品、独立時計師といえど、銘の本人が全て組み立てているわけではない…と考えるとその限定本数以上に貴重な存在かも知れません。

美しさと実用性の両方を重視した金属製の文字盤は3パーツに分かれ、ローマンインデックスと5分毎のゴールドインデックス、中心部分はクル・ド・パリのギロッシェで仕上げられています。
ペンシル型針はケース素材によってブルースティールまたはローズゴールドで制作されます。

さて、作品名のZweigesichtというのは、日本語では二面(Zweiが二、Gesichtが面)、英語ではTwo Faceと言ったニュアンスです。
二面…すなわち…



ムーブメント側にも時分表示!

「見られること」を前提としたメカニズムのムーブメントと同時に楽しめる、シルバー素材とブルーまたはレッドの透明なグランフーエナメルで仕上げた6時位置のスケルトン文字盤にブルースティールのカテドラル針を備えています。

ケース径40mmに対して、ムーブメント径34mmとぎっちりとしたムーブメントです。
二つのダイヤルは完全に連動して常に同じ時間を表示しており、リュウズもシンプルな巻き上げと時合わせのみの2ポジションです。



専用のドライバーによって、ラグ一式をケースから分離させることができ、巻き芯を軸に回転させることで表裏を入れ替え、オーナーの好みに合わせて、2つのダイヤルのどちらでも「正面」にすることができます。
ドライバーでの作業が必要なので、毎日行うようなことではなく、初期設定とシーズンごとにぐらいを目途に気分転換で行うようなイメージでしょうか?

ムーブメントを見てみましょう。



マルコが追及していたユニークさをより突き詰めたような「フライング・ブリッジ」構造。
強度に優れた硬化鋼を作って作られたブリッジは伝統的な時計製造とマルコが求める新しい形が融合したようなイメージを与え、隅々までほどこされた手仕上げには一部の隙もありません。

このムーブメントを特徴づけるのは「ダイレクトセンターセコンド専用機」という事、通常のスモールセコンド(4番車)を出車(中間車)でセンターに持ってくるのではなく、2番車と4番車が両方ともセンターに配置されています。


分析後、「いつもの」を作ってマルコに確認、理解が間違っていませんでした。

直列接続の香箱は後からにして、まずは計時輪列を見ていきましょう。
左側の第二香箱(Barrel 2nd)からの出力は伝え中間車を経由してムーブメント中央の2番車(2nd wheel)に到達し加速されます、この2番車は2番車だけを支える専用のブリッジで支持されています。
その後、テンワ近くの3番車(3rd wheel)でさらに加速、折り返して2番車と同軸の4番車(4th wheel)、3番車とほぼ対称の位置に配置されたガンギ車(Escapement wheel)と到達し、アンクルでテンワを駆動します。
この3番車からガンギまでは対称形の両持ちブリッジで支持され、各歯車の高さを適切に設計することでコンパクトにまとめています。

これをもう少し分かりやすく伝えられないか?とマルコが提供してくれた資料が…



CADによる断面図!
それに各部の名称を記入しました。

第二香箱→伝え中間車→2番車までは地板に近いところを通過し、2番車ブリッジと地板の石で2番車が支えられています。
その後、3番ピニオンから3番車で一度持ち上げられ、3番車→4番ピニオン→4番車→ガンギピニオン→ガンギ車でまた地板に近づいています。
2番車同軸の4番車の軸は文字盤側まで延長され、直接秒針を駆動するダイレクトセンターセコンドになります。
ダイレクトで駆動トルクが全てセンターセコンドを通過しているため、重たい針も回しやすく、1方向にトルクがかかっているためバックラッシによるふらつきもなく規制バネも不要です。

断面図で横から見ると、地板・ブリッジの厚みはしっかり確保した上で、歯車同士・ブリッジ間のクリアランス(隙間)をほぼ均等にし、かつ歯車をできる限り大きく厚く(≒頑丈)しようとした意図が感じられ、ムーブメント厚み4.4mmを有効活用していると感じます。
上から見た歯車配置も、ブリッジに充分な余裕を持ったうえで歯車が大きく、オフセットしない2番車センターとダイレクトセンターセコンド(4番車センター)を両立し、香箱直後の伝え中間車以外はすべて加速する歯車で無駄がないです。
まさに、「センターセコンドありき」で設計された構造で、「付け足し」感はありません。

次に香箱を見てみましょう。
二つの香箱はより長いパワーリザーブと均一なトルクを提供を狙って直列接続されています。
逆転を防止するコハゼ(Click)はリュウズ直後の丸穴車に取り付けられ、巻き上げトルクの伝達は以下のようになります。

リュウズ→丸穴車→第一香箱外周→第一主ゼンマイ→第一香箱真→香箱連結中間車1→香箱連結中間車2→第二香箱香箱真→第二主ゼンマイ→第二香箱外周→伝え中間車→2番車ピニオン…

第一香箱を外周から巻き上げ、連結は香箱真同士を連結して行い、出力は第二香箱の外周から、ここでも対称なデザインになっています。
香箱を連結する中間車はダイヤル側に配置されており、ムーブメント写真からは見えませんが、断面図でその片鱗は見ることはできます。

大型のテンワは6振動/秒で、パワーリザーブは70時間と基礎体力はバッチリでしょう。

さて、ここまでの説明で9時位置に何か見覚えのないものが見えているのに気が付かれたかもしれません。



これが今回、新しく開発された「ショック・インディケーション」メカニズムです。

機械式時計の大敵である「衝撃」がムーブメントにどのように加わったか客観的に観察するための機構です。
こちらもそれぞれの部分に名称をつけて文字入れを行いました。



機構としては極めてシンプルで衝撃で動く錘(ルビー円柱)が2つのスプリングで支持されています。



二つのスプリングは90度で交差(直交)しており、X軸とY軸に対応します。
衝撃で錘が動くことで、表示駆動ピンも動きますが、直後にはスプリングのバネ力によって0位置に戻ってしまうため、何らかの方法で最大値を記録しておかなければいけません。

それを行うのが表示プレートと表示針、ピークホールドラチェットです。



リセットプッシャー規制スプリングが表示針をピークホールドラチェットに軽く押し当てています。
各表示針の先端はバネ状に成型されており、ラチェットと組み合わせで、表示駆動ピンに押されることで矢印の方向には進むが、逆方向には引っかかって戻らないという動きになります。
これは最大位置を記録している(ピークホールド)動作に他ならず、各軸の±の衝撃の最大値が記録されることになります。

リセットプッシャーを押し込むとラチェットと表示針の噛み合いが外れ、表示針の根元のバネ性によって0位置に戻り表示がリセットされます。

この機構により、オーナーは「自分の使い方」と向き合い、時計に対する姿勢を省みることができるようになります。

またムーブ全体のレイアウトで見ても分かるように、この機構はリュウズ周りの機構とデザインで対称になるようになっており、全体のバランスを整えています。
ムーブメント自体のレイアウトとユニークなコンプリケーションのバランス、凝ったケース、なによりもZweigesicht-「1」「シリーズ」という名前からも予想されるように、マルコはこの二面というアプローチを「俺のやり方」とし、さらなる作品を作っていくつもりなのかもしれません。

上記のバリエーション1はステンレススティールで、現在バリエーション3までの予定が発表されています。

バリエーション2はローズゴールド。



バージョン3はプラチナ



今回の発表に使われているムーブメント番号00はマルコ自身が使い、評価するために作られました。

そして、この素晴らしい作品の1号機(ムーブメント番号01)はマルコと親交が深い日本の「ユーザーX」の元へデリバリーされることが決定!

WMOではこの作品と「対」になるような作品を実は既に取材済みですが、デリバリー後に改めて実機を取材したいと思います!

関連 Web Site
Marco Lang Dresden
http://www.marcolangwatches.com/

Noble Styling
http://noblestyling.com/