マルコ・ラング ツヴァイゲズィヒト1を更に探る 「作者の気持ち」と「ネオ」古典
By : CC Fanあけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いいたします。
今年も、「俺のやり方」で色々やらかしていきたいと思います。
さて、昨年末に滑り込む形で発表されたマルコ・ラング名義の新作、ツヴァイゲズィヒト 1(Zweigesicht-1)、久しぶりのニュース・ブログ同時公開の体制で挑みたいと思える大作でした。
古典に精通したマルコが、古典の考え方を取り入れ・昇華させた「ネオ」古典と個人的に理解しましたが、どちらかというと難解なショックインジケーター機構や、あまり前例がない鋼製両持ちブリッジの意匠の方に注目が集まり、「どこが古典的なのか?」という事がよく伝わっていない印象を受けました。
今回は「作者の気持ち」を探り、「ネオ」古典と理解した流れを改めて追っていきたいと思います。
まず前提として、「古典的」とは何か?という事、私は「同じ部品を長く使えるように余裕を取って頑丈に作る」という考え方だと思っており、マルコがこのムーブメントに込めた思いも同じだと信じています。
同じ部品を長く使うのは部品の製造技術の問題で「同じ部品」が作れず、「それぞれ専用の部品を現物合わせして使う」だった…と言う理由はさておき、現代のオーバーホール時の部品交換前提のムーブメントに比べるとアンティークのムーブメントはいかにも頑丈そうで余裕がある意匠が多い印象です。
この、「同じ部品をより長く使える」という考え方は、200年後も「直せる」ことを目指したカーステンおじさんとベクトルは違えど同じ志かも…と感じました。
そして、マルコが以前来日した時に語ったように、「手段」としてのテクノロジーを制限せず、使えるものは積極的に使い、「目的」である美しく「古典的」な作品を作るというというスタイルを持って「ネオ」古典と理解しました。
ラング&ハイネ時代の作品でもド直球の「ドイツ時計」だった丸形の作品群より、独自のブリッジ表現を目指したゲオルグ・アントンの方向性をより突き詰めた…と言えるかもしれません。
今回のキャリバーml-01で特に注目した点は前回のブログにも書いたようにスモールセコンド(4番車)を出車(中間車)でセンターに持ってきたインダイレクトセンターセコンドではなく、2番車と4番車が両方ともセンターに配置し、直接針を駆動するダイレクトセンターセコンド専用機であることに加え、「頑丈さ」を確保するために歯車を可能な限り厚く・大きくしていることです。
具体的にみてみましょう。
これは前回も使った断面図に各パーツの名称を挿入した図です。
この図でもムーブメント地板に対し、テンワや歯車が大きいという事は何となく伝わるかと思いますが、今回はさらに詳細を見てみます。
既知の寸法、ムーブメント半径17mm(直径34mm)をベースに、それぞれの歯車の半径(直径)の近似値を求めました。
直径11mmのテンワギリギリまで3番車が迫り、可能な限り歯車を大きくしようとしています。
それぞれが大きいのに加え、2・3・4番車がほぼ同じ大きさになるよう配置が工夫され、3番ピニオンは4番車を避けるように、ガンギピニオンは2番車を避けるように歯が切られています。
香箱も「古典」のシングルバレルから、直列ダブルバレルにすることで同じ容量を二分割し、より効率よく納め、かかるトルクが最も大きい連結車は大きく、厚く作られています。
ムーブメントが円形である以上、地板の半径を超える直径の歯車を使うのは難しい(不可能ではない)と言う制約の中でできる限り大きな歯車を使い、なおかつ中央部に部品が集中して複雑になりやすいダイレクトセンターセコンドにまとめるという難題を見事にこなした設計ではないでしょうか。
歯車の重なり方と3番・4番・ガンギを1つのブリッジで支える構造から、おそらく組み立て難易度は通常のスモールセコンドムーブメントよりも高いですが、「マスターウォッチメーカー マルコ・ラング自ら、年に5個程度を組み立てる」という生産体制の前では問題になることは無いでしょう。
厚み方向で見ても、それぞれの歯車、ブリッジ、ひげゼンマイのクリアランス(隙間)がほぼ均等になっており、安全マージンがとられていることが分かります。
ブリッジ素材も真鍮よりも強度が高い鋼を使い、なおかつ左右から均等に支える両持ち構造にすることで安定度をより高めています。
この両持ち構造はダブルバレルと相まって、全体の意匠を左右対称にする効果もあります。
「ダイレクトセンターセコンドを古典の考え方と現代の技術でマルコ・ラング流にまとめた」ものがこのムーブメントだというのが、私が読み取った「作者の気持ち」です。
では、ショックインジケーター機構とは何なんだ、という事に関して、誤解を恐れずに私の考えを述べさせてもらえば、このムーブメントは「両面」を特徴としたツヴァイゲズィヒト「シリーズ」に共通する「ベースムーブメント」として作られたもので、ショックインジケーターは手始めであり、更なる機構を追加したツヴァイゲズィヒト2や3が作られるのではないかと思っています。
ショックインジケーター機構のスペースも対称性のためと、「両面」の伝え軸のため…と考えるといろいろ楽しみになってきます。
ただ、発展性ももちろん楽しみですが、まずは1号機を早くレポートしたい!
関連 Web Site
Marco Lang Dresden
http://www.marcolangwatches.com/
Noble Styling
http://noblestyling.com/
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やはり、ラング&ハイネの時とは異なることをやりたいのだろうな…とは思います。
今後ともよろしくお願いいたします。
古典といいますと一番にJourneを思い浮かべる自分です。
マルコさんも自分の時計を追求したくなったのでしょうかね?
今年も記事、楽しみにしています。