マルコ・ラング 「ツヴァイゲズィヒト1」の1号機が到着! 実機レポート

 By : CC Fan


自らの姓を冠し長年指揮を執ったブランド、ラング&ハイネから独立し、新たに本名のマルコ・ラングでブランドを立ち上げたマスター・ウォッチメーカー、マルコ・ラング(Marco Lang)、新型コロナウィルスのパンデミックによって来日こそ叶いませんでしたが、去年末には第1作目となるダブルフェイスウォッチ、ツヴァイゲズィヒト1(Zweigesicht-1)を発表、わずか18(+マルコ自身の00)のシリアルのうち、01がマルコと親交の深い「ユーザーX」の元にデリバリーされることが決定、古典の考え方をさらに進化させたような「ネオ」古典という考え方を読み解きました。

コロナウィルスによるサプライヤーからの部品遅れなどもありつつ、いよいよ完成、先週に日本に入荷したという事で拝見させていただきました。

ユーザーXはラング&ハイネでマルコが最後に手掛けたユニークピースのセンターセコンドデッドビートウォッチ「マルコ」(仮)のオーナーでもあり、今回はその2作品を並べて拝見するという幸運に恵まれました。
マルコ・ラングが手掛けた「最後」と「最初」、古典と「ネオ」古典を比較していきたいと思います。



日常使いしている「マルコ」と今回到着したツヴァイゲズィヒト1!
センターセコンド、ローマンインデックス、金属文字盤という要素だけとりだすと同じですが、ぱっと見の印象はかなり異なります。

前回の「マルコ」レポートで失念していましたが、この「マルコ」はステンレススティールのフリードリッヒIII世のケースを流用し、バックケースだけ作りなおして改造したステップセコンドムーブメントを収めたもの。
貴金属よりもより日常使いしやすい時計を求めたオーナー氏のカスタムです。
もちろん、ツヴァイゲズィヒト1もステンレスケースで日常的に使っていくそうです。



青焼き針の「マルコ」に対し、ツヴァイゲズィヒト1はローズゴールド針を選択、これはダイヤルのローズゴールドインデックスに合わせ、色を減らしてシンプルにする、「マルコ」とのキャラクターの違いを明確にする狙いのようです。
発表時に「標準仕様」は用意されてはいましたが、実際には「要相談」で自分の求めるものを作った…という事です。

両方とも文字盤は堅牢な金属製で、「マルコ」のレポートでも書いたように「使うため」の仕様です。



文字盤はセンターの細かいギロッシェと外周部のサテン仕上げ。
針の高さに合わせて文字盤の高さが調整されており、視差を最少にして読み取ることができます。
しばらく使ったオーナー氏曰く、「モノトーンは見辛いかな?と思ったけど、コントラストで視認性もなかなか」とのこと。



ムーブメント!
古典的なトリゴナルブリッジの4番車から伝え車でセンターセコンド化とコンスタントフォースによるステップ運針でステップセコンドを実現している「マルコ」に対し、センターに2番車と4番車を重ねることでダイレクトにセンターセコンドを駆動し、押さえバネを無くすことを実現したツヴァイゲズィヒト1、ド直球の古典と考え方を取り出して現代的に仕立て直した「ネオ」古典の対比と捉えました。



両持ちのシンメトリーなブリッジによって保持される計時輪列。
シリアルナンバーはムーブメントに記され、堂々の01/18です。
文字盤のローズゴールド針同様、モノトーンを求めたユーザー氏はサブダイヤルのシャンルベエナメルをオミット、枠だけを残しました。
これは「マルコ」で割れる危険性があるエナメル文字盤をより堅牢な金属文字盤に置き換えたのと同じ「実用してこそ」というオーナー氏の姿勢をを表しているのでしょう。

それに加え、通常であれば無地の香箱のブリッジにはこの時計の生まれ故郷であるザクセン州の紋章の一部(左)とドレスデン市の紋章の一部(右)がハンドエングレーブによって彫りこまれました。
これは、マルコと討論して決めた仕様で、まるでデフォルトのようにきれいに収まっています。

この二つの紋章やブリッジの「青色」の刻印は、インクを流し込むいわゆる墨入れではありません。



ハンドエングレーブで紋章を彫りこみます。
この仕事は硬化鉄にビュラン(のみ)で彫ることのできるラング&ハイネの彫刻も受け持つフリーランスの凄腕エングレーバーのによるもの。

彫りこむことができたら…



青焼き!

そう、彫刻部分の青色は青焼きの構造色によるもので、焼いた後に表面の大部分の酸化膜を除去することで凹部にのみ青色を残すことで表現しています。
墨入れのインクと違い、酸化薄膜の光学効果で青く発色しているため、色褪せず、皮膜自体も化学結合で基材の鉄と強固に結合しているため物理的に除去しなければずっと持つでしょう。

通常使われる真鍮よりも強度の高い硬化鉄を使い、更にブリッジを両側から支える両持ちにすることでとにかく頑丈にした…という構造は「ネオ」古典に相応しいのではないでしょうか。



機構的に気になっていたのは、巻き上げヒゲと輪列を折り返す3番車がかなり接近していること。
CADだけではなく実機を拝見しても、やはり組み立てはかなり難しそうという印象を受けました。

ただ、これは「時計師机に戻った」マスター・ウォッチメーカーのマルコ・ラングが自分の技量を元に設計し、自ら組み立てるとすれば些細な問題なのでしょう。
独立時計師ブランドとは言ってもブランド名になっている本人が組み立てているとは限らない…と考えると間違いなくマルコ・ラングが組み立てたこの1号機はより価値があると言えそうです。

ムーブメント側のサブダイヤルは文字盤側のメインダイヤルと完全連動、いわゆる2タイムゾーンなどの機能はなくシンプルに二つの表情が切り替えられる仕組みです。
オーナー氏は「裏返すことはないかな(笑)」とのこと…



面白いと感じたのは付属の治具。
「手段」としてのテクノロジーを積極的に使うマルコらしく、流行りの3Dプリンターを活用したものです。
インスタグラム公式アカウントではポリッシュ用の治具としても同様の3Dプリンターを活用している様子がみられ、「使えるものは使う」という姿勢は共感します。

樹脂の適切な硬さが貴金属ケースにも傷をつけづらいという事でしょう。



こうやってセットし…



マルコ自ら「実演」。
ラグ根本のネジを回すことでロックが外れてラグ一式が外れます、その状態で本体をひっくり返して逆の手順でつければ完成。
どちらの状態であってもリュウズは向かって右側にあり通常の時計と同じになる…というのはマルコのこだわりでしょう。



さらにオプションのオレンジ色のパーツをつけると…



ネジ留めされているベルトの交換作業用に。

更に…



コンプリケーション、ショックインジケーターの動作テストにも使えます(ただし要注意!)。

拝見前にオーナー氏がしばらく日常使いしていた感じではショックインジケータは日常的な動きで動くことはなかったそうで、「クリティカル」な力が加わった時だけ動く様な感度に調整されているようです。
自分の時計との付き合い方と向き合うのには向いていそうです。
リセットできるので「なかったこと」にすることはできますが…

保証書にかかれたスペック上の精度は5姿勢平均で最大日差+1~+9秒、最大姿勢差は12秒とされていますが、オーナー氏曰く「それよりはだいぶ良さそう」とのこと。
時計本体は完成していたけどボックスが揃わなかったなどサプライヤー由来の遅延があったため、マルコがじっくり取り組めたのでは?と予想していました。
また、このムーブメントはマルコ・ラングブランドの「ベースムーブメント」でここからコンプリケーションを載せていくための「余力」が充分にある状態を計時のみに使っているのも良い影響を及ぼしているのではないかと。



シンプルなボックス。
箱で目立つ必要はないという気概を感じます。

mとlを組み合わせたロゴの封蝋のせいか、全体の雰囲気なのか、フォントのせいなのか、なぜか「東ドイツっぽい」という感想が全員から。
watchmaking as passionのフォントがちょっと縦長なのが原因でしょうか?



時計本体、大きめのルーペ、調整に使うドライバーが付属、保証書とマニュアルもコンパクトに収まっています。



大きめのアイルーペにはマルコ・ラング ドレスデンの銘入り。



必要充分なケース。



東ドイツっぽさ?は、この布地の色なのか、箔押し文字の感じなのか…

最後にオーナー氏のリストショットを。



こちらは室内。



こちらは屋外、「太陽の光の下で見てこそ」かもしれません。

マルコ・ラングが「時計師机に戻って」全力をつぎ込んだツヴァイゲズィヒト1。
それが素晴らしいユーザーの元に届いたのは喜ばしいことです。
非常に良いものが見られて眼福でした、ありがとうございました!

関連 Web Site
Marco Lang Dresden
http://www.marcolangwatches.com/

Noble Styling
http://noblestyling.com/