パテック フィリップ 6301Pのソヌリムーブメントを「推測」する

 By : CC Fan

去年末の話題をさらったパテックフィリップの新たなるフラグシップのソヌリ6301P、その日本初となる実機を拝見する機会を頂き、編集長がその納品式をレポートしました。
(参照 ※こちらを先にお読みくださいhttps://watch-media-online.com/blogs/4093/  )

ここで私は、学校ソヌリを通してそれなりに理解したソヌリの仕組みについて、より詳細に知りたいという気持ちから、いつもの「推測」をやってみたいと思います。



ブラックエナメルの文字盤とプラチナケースには一部の隙もありません。
6時位置にソヌリモード切替用のスライドピースがあるため、プラチナケースを表すダイヤモンドは12時位置に。



3ゴング3ハンマーのソヌリムーブメント。クオーターを3和音で表現します。
ソヌリはミニッツリピーターと違い、都度巻き上げるのではなく、あらかじめ蓄えたソヌリ専用香箱のエネルギーを使い、正時間とクオーター(15分)ごとに時刻を告げる機構です。
この「設定しておけばオーナーが何もしなくても鳴る」という特性は非常に面白く、生活に彩を与えると感じました。

ソヌリ専用の香箱は24時間のパワーリザーブ、計時輪列は72時間のパワーリザーブを持ち、リュウズの回転方向で巻き上げる香箱が変わります。
ダイヤル上にはムーブメント(計時)とソヌリ、それぞれのパワーリザーブインジケーターが備えられ、残量を的確に把握することができます。

では、ムーブメントを見ていきましょう。



6301Pのムーブメント GS 36-750 PS IRMです。
一目して複雑なムーブメントであることが分かります、部品数は703個、石95個、受け(ブリッジ)の数は24枚という複雑なムーブメントになります。
順を追ってみていきましょう。


全体の構成としては大まかに6時側に時間を計測するための計時輪列、12時側に鐘を鳴らすためのソヌリ輪列がレイアウトされています。
それぞれの香箱から独立して動かされ、計時輪列は連続的に動作し、ソヌリ輪列は計時輪列やオーナーからの起動指示を受け取って都度起動します。




計時輪列は香箱からほぼ1:1の伝え中間車を1枚経て、センターの2番車、3‐5番車まで加速し、脱進機に至ります。
テンワの振動数は7振動/秒(25,200振動/時)で、5番車まであるのは珍しい構造かも知れません。
ソヌリ輪列のガバナが迫ってきているので、計時輪列をコンパクトにまとめる狙いがあると読みときました。



技術的なトピックの一つ、特許技術による1秒ステップセコンド表示のシステムは文字盤側に組み込まれており、メインの計時輪列から分岐されて駆動されます。
テンワの下あたりに謎の歯車が居るのでここが分岐ポイントと予測されますが、詳細は追いきれませんでした。

紫色(おそらくシリコンに表面処理)のレバーとガンギ車があり、これが1秒(7振動)に1回スモセコ軸の歯車を解放してステップ状に動くという事が予想されます。



特許番号を検索したところ、そのままの構造が見つかりました。
二つの4番車をピニオンを載せたレバーで連結したた形で、一種の差動歯車と見做すことができそうです。

スモセコの歯車の先のガンギがレバーでロックされていると、スモセコの歯車は回転できないため、入力された回転力はレバーを外側に押し出す力として使われます、レバーが動くにつれレバーの根元にあるスプリングにトルクが蓄積されていきます。
そのまま回転を続けると、レバーがガンギから外れ、スモセコの歯車は回転することができるようになります。
レバー根元のスプリングがレバーを引き込む方向に回転させ、スモセコを進めるとともに次のガンギの歯に引っかかって停止、再び停止して次の解放まで力を蓄えます。

回転数の「差」としてエネルギー蓄積と解放を繰り返しているので、これは差動歯車です。



ステップセコンド機構の上部を通過している大きなレバーはパワーリザーブインジケータの表示位置をずらすためのものです。
ソヌリパワーリサーブは香箱近くに差動歯車を配置し直接駆動しますが、ムーブメントパワーリザーブは香箱近くで計算した後カムと送りレバー(シーソー状)で9時位置の表示まで送る構造のようです。



では、ソヌリの構造を見ていきましょう。
独立したソヌリ香箱は加速輪列を経て、慣性ガバナに到達し、終端のガバナの作用により輪列は解放されると一定のスピードで回転するようになります。
輪列の途中から、文字盤側のソヌリ機構を動かすための駆動軸が分岐されています。

ソヌリ香箱と計時香箱は回転方向が逆になっています。
これは巻き上げ方向も逆という事なので、リュウズの回転方向によって独立に巻き上げる機構をシンプルに作ることができます。



駆動軸から文字盤側に回転力が送られ、ソヌリをコントロールする「塔」が回転します。

ソヌリ起動時の手順で、駆動力が一瞬切り離されてフリーになると、それぞれのラックはスプリングの力によってスネイルに突っ込み、時刻情報を戻る距離の長さという形で読み取ります。
その後、駆動力が再び接続され、ラックが引き戻される際に戻る距離の長さに応じた回数ハンマーのラチェットをひっかけてゴングを叩くことで時刻分の鐘を鳴らします。

ソヌリの起動はリピーターと違い、あらかじめ巻き上げてあるゼンマイを切り離して繋ぐなので、リピーターよりも起動操作自体は軽くなります。
これを15分毎のカム制御で自動起動させるのがグランまたはプチソヌリ、プッシュボタンで手動起動するのがミニッツリピーターです。

古典的なソヌリはまずサイレントモードに切り替えてからでないとミニッツリピーターが起動できない、またはソヌリとリピーターが同時に起動したら内部が破損するというものが多かったのですが、6301Pはどのモードでも起動可能、かつソヌリとリピーターが同時しないような安全機構も入っているため日常的に使えるソヌリとのことでした。

ソヌリだけならクオータまでを打ち鳴らせばいいだけですが、ミニッツリピーターのために分単位(ミニッツ)を打ち鳴らすための機構も備えています。



重なっているラックは時間用のアワー、15分単位用のクオータ、分単位用のミニッツの3枚で、それぞれ対応するスネイルから高さ情報を読み取って打ち鳴らす回数を決定します。
3ゴングを鳴らさなければいけないクオータは3つのゴングのラチェットにアクセスしないといけないので大きいですが、1ゴングずつ鳴らせば良いアワーとミニッツはそれに比べると小さくなっています。


スネイル部をさらに拡大しました。
アワーは1ー12時までの12レベル、クオータは0-3までの4レベル、ミニッツは0-14までの15レベルの高さがあり、それぞれ対応するラックが突っ込んで高さを読み取ります。
アワースネイルはバックラッシ(歯車の遊び)による、不確かさを排除するために規制バネによるステップ送りになっており、正時に30°分を一気に送ります。

これとは別に、ソヌリを自動起動するために15分毎にトリガーを引くようなカムがあるはずですが、表からは確認できませんでした。



時合わせ機構やソヌリのモードを切り替えるためのスライドスイッチ、自動起動のためのカム、好ましくない操作の組み合わせをブロックする安全装置と思しきレバーが文字盤上に配置されています。

プルバックゼンマイ相当の機構がスライダとして露出しているミニッツリピーターよりもソヌリは構造上安全ではあると思いますが、安全機構を加えることでさらに盤石にしていることが分かります。

リピーターよりも複雑ですが、基本は同じなのでひとつずつ理解していけば読み解けました。





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