アントン・スハノフ 初の腕時計 自動車からインスピレーションを得た「レーサー」

 By : CC Fan

2021年6月28日追記:ベースムーブメントの種類と一部用語の修正を行いました

WMOでも何度も取り上げてきた、新進気鋭のロシア人ウォッチメーカー、アントン・スハノフ(Anton Suhanov)。
今まではテーブルクロックの作品を作ってきましたが、初の腕時計となる作品が発表されました!

自動車のメーターパネルからインスピレーションを得た「トリプル」レトログラードウォッチ、レーサー(Racer)です。



先ずは、動画を見れば一目瞭然かもしれないのでどうぞ。



マスター・ウォッチメーカー、アントンが「自動車をイメージした時計」というとクロノグラフになりがちだったことに疑問を持ったことからスタートし、「競うためにために時間を測るクロノグラフ」の逆、「ハンドルを握って車を運転しているときに、ドライバーが感じる運転という行為そのものの喜び」を時計として落とし込むことを目指しました。

そのインスピレーションの結果、左がタコメータ(回転数計)、右がスピードメータ(速度計)のダッシュボードをそのまま時計のデザインに落とし込むアイディアが生まれました。
タコメータとスピードメーターに加え、その間には各種インジケーターがあり、車の各部のコンディションを伝えます。



タコメータ(左)に相当するのはジャンピング・レトログラード・アワー、1時間に1回、断続的に動いて時間を表示し、12時間で帰零します。
スピードメータ(右)に相当するのはレトログラード・ミニッツ、連続的に動いて分を表示し、60分で帰零し、そのタイミングでジャンピング・レトログラード・アワーが送られます。

その間のインジケーターとして、12時位置にはジャンピンク表示のGMT(24時間表示)とレトログラードの20秒表示インジケーター。
3つのレトログラード針を持つ、「トリプル」レトログラードウォッチです。

6時位置には日常的に使う時計では便利である日付表示があります。
これらはタコメータとスピードメータの時分に比べると控えめであり、この時計がテーマを明確にしています。

「1時間に1度、1日に数回しか時計を見ないこともあれば、重要な事案を忘れることを忘れないように常に時計を見ていることもあるでしょう、このダイナミクスとゆったりとした時間の組み合わせが私のレシピです。私の時計では時を異なる方法で感じることができます。ある時はレースのように秒を競う瞬間、またある時はのんびりとしたドライブで窓辺に移る景色の変化を楽しんでいる時、世界はあなたの車の窓を通り過ぎます…」



後述するように、信頼性に優れた汎用ベースムーブメント(ETA2824‐2)+レトログラードコンプリケーションプレートという構成のため、ムーブメント側から見えるのはチューニングされているとはいえ汎用ベースムーブメントです。
そのため、こちらの面は自動巻きの「フルディスク」ローターで覆ってしまい、この回転を楽しむ構造です。

「フルディスク」ローターは一見すると回転しないように見えますが、裏面の錘によって重心は偏心しているのでちゃんと回転します。



ダッシュボードを思わせる立体的なカーブを持つダイヤルはギロッシェで仕上げられています。
時分のサブダイヤルはブルーの陽極酸化処理を施したチタン製、ロータスの最内周ケージと同じ技術で、塗料ではなく光学効果によって色を生むため色褪せに強いと考えられます。



自動車の世界観を時計に落とし込んでいます。

ケース形状はラウンド型ではなく、正方形(スクウェア)の各辺を丸く膨らました形。
ダイナミックさとのんびりした時間の両立というテーマに合っていると考えてこの形状が採用され、レーシングカーにおける空気力学的に最適化されたラインとのイメージが重なります。

ベゼルを止める特徴的な2重ネジはレトログラード針のカバーやブランドロゴ、秒のプレートを止める部分にも採用され、自動車イメージへのインスピレーションを与えています。



ケースは堅牢なステンレススティール製、3時位置のリュウズ(ベースムーブメント)と2時位置のGMT修正プッシャー(レトログラードプレート)というシンプルなインターフェースで、ファロスでも見られたアントンの技術によって各面はキッチリ仕上げられています。



面ごとに仕上げを変え、コントラストを際立たせています。



おまちかね、ムーブメントを見ていきましょう。

ベースムーブメントとして信頼と実績のETA2824-2が選ばれ、アントン・スハノフの手によってチューニングが施されました。
その上に配置されるレトログラードGMTモジュールは文字盤で隠れてしまいますが、伝統的な手法に基づき細心の注意を払って仕上げられています。

2824の筒車(分針)は1:1の伝え車でミニッツスネイルカムを動かし、このスネイルカムをミニッツレバーが読み取り4時位置のレトログラードミニッツを順方向に動かします。
毎正時、スネイルカムの最高地点から最低地点にレバーが落ち込むことでレトログラードミニッツが逆方向に一気に戻り、戻る動きでミニッツレバーの爪がジャンピングアワーとGMTを送ります。



ミニッツスネイルカム。
筒カナとかみ合い、反時計回りに1時間で1周します。
最高地点から最低地点にレバーが落ちることでレトログラードの素早い帰零を実現します。



仕上げられたミニッツレバー。
中間部の爪がスネイルカムから高さ情報を読み取り、端の歯がレトログラードミニッツの針が取り付けられた歯車を駆動します。
読み取りを行う爪は固定ではなく、バネによって圧力がかけられている方式で、逆回しによって正時を乗り越えても破損することは無いようにされています。
ただ、順回しで合わせた方が無難でしょう…

歯側に設けられた爪がジャンピングミニッツを、反対側の爪がGMTをレトログラード時に1歯送ることでジャンピング表示を実現します。



アワースネイル、ミニッツレバーから1時間に1回押されることで時刻表示を進めます。
こちらは12時間なので12歯、GMTスネイルは24時間なので倍の24歯が切られています。



アワースネイルを読み取ってアワー表示を駆動するレバー。
GMTはレトログラードではなく、GMTの軸に24時間ディスクが取り付けられているようです。



見えなくなってしまうブリッジもキッチリ仕上げられています。
43石はベースムーブメント25石、レトログラードモジュール18石とのこと。



よく見ると強度を保ちつつ、開口部は調整がやり易そうな形になっていることが分かります。



モジュール地板もキッチリと仕上げられています。

上記のことを踏まえてもう一度ムーブメントを見てみましょう。



4時と8時にレトログラード針を配置した構造を活かし、レバーが重ならないようにうまく配置されていることが分かります。
GMT単独修正用のコレクターがGMT歯車を1時間ごとに送る仕組みをよくわかります。

秒もレトログラード表示ではありますが、これはスネイルカムではなく、Y型(3又)の秒針をセンターセコンドに取り付け、20秒ごとに表示する針が入れ替わる方式(60÷3=20)だと考えられ、信頼性の高い方式です。

個人的にはベースムーブメント+コンプリケーションという「手堅い」方法も好印象の初のアントン腕時計。
ファロス同様、これが「初作」というのはにわかに信じがたい完成度を出してきました。
ぜひ実機を見てみたい!



【技術仕様】
レーサー
限定数:20個

[機能]
アントン・スハノフによって発明されたトリプルレトログラード表示
中央に20セカンドレトログラード(秒)
4時位置にミニッツレトログラード(分)
8時にジャンピングアワーレトログラード(時)

時針はジャンピング(1時間に1回一気に送る)動作
単独修正可能な24時間ジャンピングGMT表示

6時位置に日付表示

[ケース]
寸法:
外形 39x39mm/厚み 12.5mm

[素材]
ステンレススティール
サファイアクリスタル風防
サファイアクリスタルケースバック
30m防水

[ムーブメント]
キャリバーSu100.20、自動巻き
直径31.5mm、厚さ6.9 mm(表示モジュール付き)

ベースキャリバーEta2824-2
アントンスハノフによって変更された、装飾的なフルディスク振動ウェイト(ローター)
28,800振動/時
38時間パワーリザーブ

アントン・スハノフによって発明、開発、製造された表示モジュール、172部品

43石
ベースキャリバー– 25石
表示モジュール– 18石

[ダイヤル]
27部品
ベース、アップリケ、レトログラードサブダイヤルの針 ルテニウムコーティングを施した真ちゅう製
ギョーシェ装飾
ブルーアルマイトを施したチタン製レトログラードサブダイヤル

[ストラップ]
ハイコントラストな赤のステッチが施された高品質のブラックレザーストラップ
アントン・スハノフによって作られ、スポーツカースポイラーとして設計されたステンレス鋼のバックル

関連 Web Site

Workshop ≪ANTON SUHANOV≫
http://www.anton-suhanov.com/

Noble Styling
http://noblestyling.com/