アントン・スハノフ ロータス 差動装置(Nonius Scale)によるクオータ(15分)以下の時刻表示を理解する

 By : CC Fan
商業的な初作ファロス(PHAROS)の完成度もさることながら、1年足らずでそれに一歩も引けを取らない新作、ロータス(LOTUS)をリリースした気鋭のロシア人ウォッチメーカー、アントン・スハノフ(Anton Suhanov)。



ファロスは希望の象徴としての灯台、ロータスは蓮が持つ生命力を現在の人類が直面している深刻な困難と恐怖を打ち破る力の象徴として、とどちらも非常に強いメッセージが込められています。
特にロータスは一般的な時計にある針による時刻表示にオミットし、時分は24時間ディスクのみで表示し、秒は最外周のトゥールビヨンケージから読み取る方式で、時計とは思えない機械仕掛けの芸術のようなデザインを実現しています。

このディスプレイは差動によるNonius Scaleという表示でクオータ以下を表示する仕組みになっています。
この方式が、多少理解が困難と思われたのと、完全に理解していなかったので前回の速報ではふんわりでしたが、今回は詳細にレポートします。

Noniusというのは、機構を発明したポルトガルの数学者ペドロ・ヌネシュのラテン語名に由来する名前で、一言で言えばノギス(ノギスはNoniusのドイツ語読み)です。
以前もムーンフェイズの月齢合わせに同じ原理を使ったアンドレアス・ストレーラのムーンバーニアスケールを取り上げましたが、今回もやってることはほぼ同じです。

動きを理解するためにもう一度動画を。



時刻表示の動きが伝わりましたでしょうか?



ホームアイコンの左右にNonius Scaleと記されています。

鉢植え部分の表示部は、外側から地名、24時間表示、クオータインデックスとNonius Scaleの片側、固定部とNonius Scaleの反対側という構成ですが、どこがどう動くのかわかり辛いと感じたのでそこから見ていきましょう。



外側の地名表示には1時間ごと地名(タイムゾーンに相当)と5分刻みの小インデックス、クオータ(15分)ごとの数字付き中インデックスが記されています。
この部分は初期設定の際にホームタウンを決めるために動かしますが、基本的には一旦設定したらタイムゾーンが変更されない限り動かしません。
1時間ごとにクリックがあり、後述する中央のクオーターインデックスと位相が合うようになっています。

青の点線で示されたドーナッツ状の領域が実際の時間を表示する24時間表示とクオータ用のNonius Scaleの片方の目盛です。
この部分は、24時間で1周する速度で反時計回りに回転しています。

最後の中央部は固定で、ホームタウンを指し示す矢印と均等に切られたNonius Scaleの反対側の目盛が設けられています。
機構的にはホームタウンの表示は蓮の花で表示するデイ&ナイトが参照する位置を示しています。

まずはNonius Scaleのインデックスの数をそれぞれ数えてみましょう。



ホームタウンを基準にして固定部側のインデックス数を数えると96個あることが分かり、これは24時間の4倍なので、クオータ(15分単位)のインデックスに他なりません。



1時間ごとの地名のインデックスから直線を引くと重なることが分かります。
一部重なっていないように見えるのは地名ディスクインデックスの遊びが原因だと考えられ、よりキッチリ合わせると良いと思います。




可動部側のインデックスは固定側の96個より1少ない95個のインデックスです。
95と96は互いに素(最大公約数が1)なので、Nonius Scaleの2つのインデックスが重なる場合、1箇所のみで重なります。

この重なっているインデックスはディスクが回転するにしたがって一定周期で時計回りに移動していくことになります。
それの動きを指し示しているのがクオーターの数字部分に書かれた矢印です。
15分経つと重なっているインデックスが時計回りに1周、全体的なインデックスの位置関係は1/96回転、反時計回りに動いていて、そこから同じことを繰り返します。
差を使う事で、「人間が知覚できない微妙な動き」を「インデックスが重なるか重ならないか」に置き換えて読みやすくしていると言えます。

重なる位置が移動するスピードは2つのインデックスが示している時間の差になります。
固定部側の1/96日は15分で、可動部側の1/95日は15.15…分なので、その差は0.15…分すなわち、9.47秒です。
差を利用することで24時間で1周する動きから10秒単位の時間を読み出すことができました。

またこれは15分の1/95なので、可動部側の表示分解能で読み取れていることが変わります。

これはノギスで喩えると1mm刻みの主尺と1.1mm刻みの副尺の組み合わせで0.1mm(主尺と副尺の刻みの差)が読み取れることと同じことを示しています。
本質的には「ノギスと一緒」なので、それで終わりなのですが、いまいち自信が無かったので改めて振り返ってみました。

全体のデザインはとてもポエティックですが、この表示方法だけ妙にエンジニアリングを感じるロータス。
このバランス感覚も面白いと思いました。


関連 Web Site

Workshop ≪ANTON SUHANOV≫
http://www.anton-suhanov.com/

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http://noblestyling.com/