アントン・スハノフ 「クロノトープ」~ 新開発のペリフェラルローター自動巻きムーブメントと哲学的な連続駆動レトログラード日付表示を搭載

 By : CC Fan

三軸トゥールビヨンクロック、「ファロス」「ロータス」を制作、初の腕時計としても完成度の高い「レーサー」を発表したロシア・サンクトペテルブルグの独立時計師アントン・スハノフ

2023年には現代的なデザインのレーサーをクラシカルにアレンジしたレーサー・レトロを発表し、AHCI(独立時計師アカデミー)の候補生として、AHCIのイベントで展示を行いました。
このイベントは取材したものの、「国際情勢」としてタイミングがよくないかな…で紹介できていませんでしたが、今回更なる素晴らしい作品が発表されたため、紹介いたします。



アントン・スハノフ氏。



レーサー・レトロ(左)とレーサー(右)、レーサーは私物、すなわち「私も買いました」案件でもあります。

このツーショットのために去年のウォッチ&ワンダーズはレーサー(と紆余曲折あって引き取ってきたカンタロス、よく見るとカンタロスの後ろにレーサーがいる)の布陣でした。

今年もAHCIのイベントで新作が拝見できる!と期待していたところ、リリースが届きました。
例によって英語のみなのでブログで紹介いたします。



ロシアの哲学者ミハイル バフチンのクロノトープ(古代ギリシャ語のχρόνος 「時間」と τόπος 「場所」を組み合わせた単語)の概念を受け、クロノトープウォッチと名付けられました。

この時計に留まらず、アントンの今後の研究開発の基礎となるようなベースムーブメントを作る、という目標を実現した新しいムーブメントSu200.10を搭載しています。
このムーブメントは高い信頼性を誇るETA2824(レーサーのベースムーブメントでもある)から「ドナー」として部品を取り出し、アントンが設計したペリフェラルローター自動巻き機構と組み合わせたものです。



テンワブリッジにはアントンが考案した歩度微調整用の回転ホイールが取り付けられています。
ペリフェラルローター化に伴ってセンターのベアリングが省かれた部分にはパワーリザーブインジケーターが配置されています。

何よりまず、レーサーもそうですが、「ベース、パーツがETA2824」を正直に知らせ、隠したり、「自社ムーブ」と言わないのは本当に誠実で素晴らしい、と思います。
ペリフェラルローター化によってさらに薄くし、コンプリケーションのベースとしても使いやすいベースムーブメント的な性質を与えています。

さて、ペリフェラルローターの自動巻き、と言うだけでも並みのコンプリケーションに並ぶ複雑性を開発したとも言えますが、それだけではなく「主役」として文字盤側に備えられたコンプリケーションが「クロノトピー(Chronotopy)」と名付けられたレトログラード曜日表示コンプリケーションです。



6時位置のスネイルカムが読み取りルビーを押すことで月曜日から日曜日までの曜日に「TODAY」と書かれた目盛が移動する、と言う構造は一般的なレトログラードと同じですが、スネイルカム部分にアントンのユニークなアイディアと哲学的な考えを込めた機構が搭載されています。

見てみましょう。



一般的な「スネイルカム」は高さが連続的に変化しますが、このカムは各曜日に相当する円形を7分割した扇の大部分の部分の高さは一定で、それぞれの境目で一気に変化する、と言う形状になっています。
この一気に変化する境界の抵抗を減らすために爪石のような斜面を持ったルビーが埋め込まれており、これがデザインのアクセントになっています。
レトログラードが落下する部分を除いた6ヵ所に均等にルビーが埋め込まれることで、「アンモナイト」のからの模様のような独特の意匠を持ったスネイルカムが生まれました。

なぜこのような機構にしたのでしょう?
これは歴史・文化によって「一日の始まり」が異なっていた事実から、アントンが発想しました。

古代バビロニアでは新しい1日は夜明けに始まり、中世のイタリアでは日没後に始まるとされていました、現代では平均太陽時で真夜中の24時を過ぎると曜日(と日付)が変わり、それが1日のスタートになります。
同様に一週間が7日と言うのは同じとしても、それはどのタイミングでスタートするか?と言う疑問に対しても歴史と文化によって異なる答えが返って来るでしょう。

切れ目のない連続した時間と、明確な始まりと終わりがある不連続な曜日を結び付ける機構として、時分表示から駆動されるカムが1週間で1回転で連続的に動き続け、高さが一気に変化する点を「1日の始まり」として曜日に変換、更に最高点から落下する「週の始まり」が1週間を表現する、と言う形で実現しました。
この機構に必要な不連続な曲率を持つスネイルカムをスムースに動かすため、抵抗が大きくなる部分にルビーを埋め込む、と言う発想が生まれ、その機構がアンモナイトの美しい化石に見えるので「主役」として文字盤の目立つところに配置しよう、となったようです。

特徴的なスネイルの意匠に合わせるように、機能部品であるルビーを装飾的に使うデザインで統一感を持たせています。
6時位置にある曜日修正プッシャーの先端にもルビーを埋め込んだだけではなく、時分秒針にもルビーが嵌め込まれた「ピンセット針」と名付けた針のデザインを開発しました。
秒針のカウンターウェイトにはレンズ状の丸ルビーも配置し、視認性とユニークさを両立しています。


特徴的な「シャトン」は珍しいチタン素材で作られ、化学処理でスカイブルーに色付けされています。
ペリフェラルローターも同じ素材で作られ、デザイン的な統一感を生んでいます。



薄いリュウズやマッシブなベゼルを含め、全体としての調和を意識したと感じられるデザインです。

最後に公式の着用写真を…





レーサーも初作とは信じられない完成度でしたが、クロノトープも良い出来でしょう。
Watch & Wondersシーズンの楽しみが一つ増えました!





【仕様】
クロノトープ
33個限定

ムーブメント:キャリバー Su200.10(ペリフェラル自動巻き付き)
・直径35mm
・厚さ6.95mm
・28,800振動/時
・38時間のパワーリザーブ
・微動調整機構
・コート・ド・ジュネーブ付きブリッジ
・ペルラージュ付き地板
・手作業による面取り
・スカイブルーチタンシャトン
・スカイブルーチタンセクター付きペリフェラルローター
・ルビー数と限定版ナンバーが入った2枚のネジ止めスカイブループレート
・ルビーパレットインサートを備えた偏心カタツムリ
・ルビーローラーを備え、レバーを備えたレトログラード曜日表示
機能:時、分、スイープセコンド
・12 時の窓に日付表示
・文字盤上部のレトログラード曜日表示
・ムーブメント裏側の中央パワーリザーブ インジケーター。
石数:ムーブメント - 59石
※そのうち 6石はスカイブルーのチタン シャトンでセット、5石を装飾に使用
ケース:ステンレススチール
・直径 42 mm
・厚さ 12.3 mm
・サファイアクリスタル風防(ケースバック共)
・30m防水
・ケースバックは8本のネジで固定
・6時位置に曜日表示を設定するボタン
文字盤:真鍮にロジウムとグレーのルテニウムコーティング
・サンドブラスト、ブラッシング、手作業の面取り仕上げ
・ピンセットスタイルの時針と分針、先端に装飾ルビー付き
・スカイブルーのチタン製スイープ秒針、カウンターウェイトにルビーのキャップストーン、先端もルビー
ストラップ:高品質のグレーのアリゲーターレザー製
・アントン・スハノフによるステンレススチールのピンバックル、ピンに「T」のロゴを刻印

関連 Web Site

Workshop ≪ANTON SUHANOV≫
http://www.anton-suhanov.com/

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