アントン・スハノフ レーサー 日本の「理解者」に送るスペシャルピースが到着!

 By : CC Fan
2022年2月6日追記:スモールセコンドサブダイヤルの拡大写真を追加。

WMOでも何度も取り上げてきた、新進気鋭のロシア人ウォッチメーカー、アントン・スハノフ(Anton Suhanov)。
テーブルクロックのファロス(Pharos)からブランドをスタートさせ、初の腕時計として、自動車のメーターパネルからインスピレーションを得た「トリプル」レトログラードウォッチ、レーサー(Racer)を発表しました。

今回、アントンをファロスの頃から応援してきた日本の「理解者」に送るスペシャルピースが到着したとの報を受け、速攻で拝見してきたのでレポートします。

まずは写真を。



アントンが得意とするチタン素材を電気を用いた陽極酸化処理することで生まれるスカイブルーのサブダイヤルは上手く写真に落とし込むことが難しい発色。
金属光沢とスカイブルーが両立するダイヤルは角度によって表情が変わります。

オリジナルではレーシングカーのイメージが強い、赤めのオレンジを使った針でしたが、このスペシャルピースではオーナーの希望で新規に製造したブラック針に変更されています。
これにより、色数が減ることでよりシックな印象にまとめられています。
自動車のメーターでも視認性最優先のレース仕様もあれば、クラシックカー仕様のようにあまり主張しないデザインのメーターもある、と考えるとこれはよりクラシックに、と言えるかもしれません。



二つのメーターの中心を支点とした同心円のギロッシェが「干渉」するという表現でダイヤルが仕上げられています。
時と分のサブダイヤルがかなり大きいですが、上側の余白も同じくかなり大きく、緻密に仕上げられたギロッシェが上手く余白を埋めていると感じました。

自動車のメーターとレトログラード表示の時計のイメージは似てはいますが、機能的には異なるのでうまくイメージと機能を「接続」しなくてはいけません、一桁の数字が主の時間側(左)を数字×1000rpmで表示するタコメーター(回転数計)に、二桁の数字の分側(右)をkm/hまたはmph表示のスピードメーター(速度計)に、「接続」することで実際の車を感じさせる表現と機能を両立しています。

二つのメーターの間に表示されるインジケーター(機能表示)のように、ジャンピング表示の24時間GMT、20秒ごとのレトログラードセカンド、日付表示。

レトログラードセコンドはカムによる帰零ではなく、ベースムーブメントのセンターセコンドにY型の針を取り付けて一つが消えると次が登場する、というものですが、目盛の方を同心円ではなく直線に近い楕円軌道にすることで速度が変わっているように見える、という表現を行っています。



このインジケーターの曲率は前述した「干渉」ギロッシェとちゃんと重なるように作ってあるので、このデザインは全て計算によって作られていることが伺えます。



一番難しいのは、このスカイブルーの金属光沢を持った文字盤を写真に写しこむこと。
ある程度は写りますが、とてもすべての魅力は伝えられないので、実物を見てほしい!という感想になります。



これはiPhone 12miniで撮影…

「トリプル」レトログラードですが、それぞれの表示のレトログラードの表現は違い、秒は前述したようにY型の針を使ったレトログラード、分が最もオーソドックスなスネイルカムによるレトログラード、時は分が帰零するときのエネルギーで1時間ごとにステップで進むジャンピングアワーレトログラードになっており、GMTも時と同じくジャンプします。

12時間に一回、時と分が同時にレトログラードする様子を動画でどうぞ。



分がレトログラードすると同時に時とGMTが進み、時もその直後に0に戻っています。
GMTは本来のGMT時刻の表示のほか、セカンドタイムゾーンとして使う事や、簡易的な時間単位の測定にも使えそうです。



ムーブメントSu100.20は信頼と実績のETA2824-2をベースムーブメントに、レトログラード表示用の独自開発コンプリケーションプレートを搭載した構造。
時・分・GMTの表示をコンプリケーションプレートが、秒と日付の表示と日付合わせと時合わせはベースムーブメントが行います。

日付変更に用いるベースムーブメントの24時間情報とレトログラードモジュールが表示している情報は同期するように調整されていますが、レトログラードの安全装置が働くと、ズレてしまうことがあります。
これは、逆回しした時、レトログラードモジュールは正時で安全装置が働きそれ以上戻らないのに対し、ベースムーブメントは自由に戻すことができ、その差がズレになるからです。

このような状態もマニュアルに記載されており、「同期外れ」として直す方法が丁寧に解説されています、また基本的には時刻は進み方向だけで合わせる、というレトログラードの基本と「上級テク」として、日付だけ別のタイムゾーンに合わせる、という事もできると解説されています、これを使うユーザーは居るのでしょうか…?

ちなみに時刻合わせが反時計回りですが、これはモジュールではなく、ベースムーブメントETA2824-2の都合のようです。



ファロスでも感じた精密な金属加工によるカチッとしたケース。
直径39mm・厚12.5mmですが、デザインから「大きく感じる」ケースだとは思います、ただ、キャラクターには合っているでしょう。



円形の風防と滑らかに接続される、「一辺が丸い正方形」のケース。
自動車に見られるデザインコードをそのままではなく、再解釈して時計に取り込んだアントンのセンスを感じます。



特徴的なプッシャーと、ANTONのTの文字を意匠化したマークが入ったリュウズ。
ベースムーブメント+コンプリケーションプレートという構成ですが、リュウズの位置はケース中央からそこまでズレていません。



グラスバックで、ベースムーブメントは調整してあるものの、あえて見せない設計です。
外周にタイヤのトレッドパターン、全体を覆うミステリアスローターには制動力を高めるスリット入りブレーキディスクをイメージした意匠が施され、限定番号はケースではなくローターに入れられています。
このピースは「理解者」に向けた特別なものであることを表す00番が与えられています、元々の限定数は20個で、21個作るではなく、01-20までのどれかの数字が「欠番」になったとのこと。

文字盤にも記された「MADE IN RUSSIA」がこの時計の出自を誇らしく示しています。



スポーツカーのスポイラーをイメージした、というバックルと、レッドステッチの入ったブラックストラップ。



アントン・スハノフの箔押し、裏側がグレーというのもスポーツカーのイメージでしょうか。



「競技」の性質が強いクロノグラフではなく、より自由なインスピレーションで自動車と時計の世界を「接続」したレーサー、「車は車のまま、時計は時計であり続ける」のは暗黙の合意として、デザインのために時計としての本来の機能が損なわれてはいけない、というのは非常に賛同できるポイントです。
自動車をのダッシュボードを思わせながら、大型のレトログラードアワーとミニッツによって時計としての読み取り易さも高いレベルで実現されています。



ボックスはダイヤルのスカイブルーを思わせる仕上げ。



細かい注意点が多いレトログラードだけに、マニュアルも用意されており、「製品」としてちゃんとしています。



第一言語はもちろんロシア語。



ロシア語は…読めない!



英語はOK、サインが異なっていることからも分かるように、サインは印刷じゃなくて直筆です。
マニュアルにはそれぞれのポジションの使い方、「同期ズレ」の時の合わせ方などが細かく記載されています。

これが腕時計としては初作、という事がにわかには信じがたい完成度を持つレーサー。
ファロスとロータスの完成度からの期待値は当然高かったわけですが、それを軽々と越えてきた、というのが率直な感想です。
また、自動車と言えばクロノグラフという「あたりまえ」を疑い、改めて考え直して「俺のやり方」を構築したのも素晴らしいです。



スカイブルーの表現は…



難しい!

今回、貴重な機会をいただき、ありがとうございました!



関連 Web Site

Workshop ≪ANTON SUHANOV≫
http://www.anton-suhanov.com/

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http://noblestyling.com/