オンリー ウォッチ(Only Watch)2021・チャリティー オークション結果速報~パテック・フィリップの10億超を筆頭に高額落札が相次ぐ

 By : KITAMURA(a-ls)


何度かお伝えしてきたが、2年に一度行われるチャリティー・オークション、"Only Watch"のオークションが11月6日(日本時間は7日深夜)にジュネーヴのフォーシーズンズ・ホテル・デ・ベルグで行なわれ、その結果がでた。

個々の結果については、オークションを取り仕切ったクリスティーズのサイトで確認できるが、思っても見なかったような高額落札が相次ぎ、もちろんチャリティーが目的なので高額なのは喜ばしい事ではあるのだが、正直なところちょっぴり複雑な心境でもある…。"Only Watch 2021"。 まぁ、まずは注目の出品作の結果を見ていこう。

なんと言っても第一番目は、誰もが高額を予想していたし、過去の"Only Watch"でもダントツの数字を残してきたパテック・フィリップ。今回はデスク・クロックということで、2年前の世界記録CHF31,000,000(当時の換算レートで約34億円)には及ばなかったものの、CHF9,500,000(日本円で約11億8千万円)という、出品ロット53作中、堂々の最高落札額(※註)を記録した。



エスティメート(落札予想額)、CHF400,000-500,000(約5000万-6200万円)に対して、ほぼ20倍。オークション開始から数秒で「CHF5,000,000!」という入札が入り、そこから20分近く競り合ってのこの金額だった。



[※註]:オークションで落札された金額をハンマープライスと呼ぶが、その金額にバイヤーズ・プレミアムという手数料をプラスしたものが最終的な落札額となる。ただし落札額が全額寄付されるチャリティー・オークションの場合、オークショニアも手数料を取らないケースがあり、"Only Watch"もこの通例に則っているはずだが、現在のクリスティーズのオークション結果ページを見ると、バイヤーズプレミアムが上乗せされた金額で掲載されている(11月7日6時現在)。
たとえばこのパテック フィリップは、ハンマープライスCHF9,500,000に対して手数料込の最終額はCHF11,237,500として掲載されている。2年前の前回"Only Watch"でも、オークション直後のクリスティーズのサイトには同じように手数料込金額で表示され、その後ハンマープライスに訂正されるということがあったので、この記事はすべてハンマープライスを最終落札額として書いている。
(クリスティーズのサイトは日本時間10時の時点ではハンマープライス=落札額に修正されておりました)



さて、パテック フィリップ以外にミリオン(百万スイスフラン)超えを記録した作品が、あと4アイテムあった。
まずは、こちらも注目作だったFP.ジュルヌ。FFコッポラ監督のアイデアを採用して作りあげた指のオブジェが時刻を表す「FFC Blue」が CHF4,500,000(約5億6千万円)。



そしてオーデマ ピゲの「ROYAL OAK "JUMBO" EXTRA-THIN ONLY WATCH」。エスティメート CHF 160,000 - 320,000に対して、CHF31,000,000(約3億8500万円)という約10倍の落札結果。



続いてはリシャール・ミル「RM 67-02 CHARLES LECLERC PROTOTYPE」がCHF2,100,000(約2億6000万円)。



ミリオン越えの最後は、ドゥ ベトゥーン×ヴティライネンによる「KIND OF MAGIC」のCHF1,300,000(約1億6000万円)。
最近のヴティライネンの評価を反映した形といえるだろう。




(これ以降は日本円換算額を省略することもあるかもしれないので、気になる方はCHFの額に直近の為替レート124.33円を掛け算してみて)。



また、エスティメートに対しての跳ね上がり率で凄かったのがチューダーだ。
さきほどパテック フィリップがエスティメートの20倍近くで落札と書いたが、こちらのチュードル「BLACK BAY GMT ONE」は、エスティメートCHF4,000-8.000(約50万円-100万円)に対して、なんとその80倍以上のCHF650,000でのハンマーとなった。

その他、対エスティメートでの高額落札には、前述したPP(19倍)、FPJ(11.25倍)、AP(9.7倍)がここでも突出し、それらに続くロットとしては、Hモーザーの9.38倍、アクリビア8倍、さらにブランパン7.2倍、シャネル7倍と、エスティメートがほぼ無効化したともいえる結果が相次いだ。



しかし、これほどエスティメート超えが多発したオークションも珍しい。
エスティメートは予想最低額と予想最高額の幅で表記されているのだが、この幅の中に収まったのは、53ロット中、なんと僅か4ロットだけ。エスティメートを下回ったアイテムはたったの1ロットで、それ以外の48ロットすべてがエスティメートをオーバーするという、もしこれが通常のオークションであればエスティメートを予想したスペシャリストはほぼクビになるであろうくらいの異常事態であった。



コロナ禍で旅行などの消費が制限されたお金持ちの余剰資金が流れ込んだためなのか、近年の風潮である時計を投資的に捉えている人たちの思惑買いなのか、今回はとにかく高い。
これがチャリティーの意義に賛同しての寄付としての入札であれば実に喜ばしい結果ではあるものの、この流れが今後のオークションや時計の取引額に反映して来るようになると、これはちょっと憂慮すべき事態だと思う。
明らかに行き過ぎた値付けが常態化してくると、オランダのチューリップや江戸の朝顔のように、ある段階で破綻が来ることは様々な歴史が教えてくれているところであり、その段階で投機屋が自滅するのは自業自得としても、マーケット自体も破壊的な状況に襲われることになるため、まっとうな愛好家や収集家も巻き込まれ、大いに迷惑することになるからだ。

WATCH MEDIA ONLINEも愛好家&偏執(マニア)集団なので(笑)、文頭で"ちょっぴり複雑な心境"と書いたのはそういう意味であって、昨今の一部セカンドマーケットの状況もそうなのだが、少なくとも自らを時計ジャーナリズムと自認されておられる皆さま方におかれましては、高額な金額をただただはやし立てるだけでなく、少しは警鐘をならす立場でもあって欲しいと、まぁそう願う次第であります。

ま、くれぐれも身の丈にあった楽しみ方が一番ということで(笑)、取り急ぎのOnly Watch2021速報でした!!