ブルガリ 美を求める複雑時計  

 By : KAIROS
皆さんはブルガリというブランドをご存じだろうか?
 そう、知らない人はいないイタリアを代表するハイジュエラーである。会社は130年以上の歴史を持ち、2700年以上続く都市ローマに本社を置く世界屈指の高級ラグジュアリーブランドである。
 
 そのブルガリが、本格的に時計に力を入れ始めたのは2000年に入ってから。80年代にはGPと合弁会社を作り、かの伝説的ムーブメントはそこで生まれ、そのムーブメントはGPとブルガリでのみ使用されたのが始まりであった。しかし今でいう垂直統合化を進めたのが2000年であるから、“本格的”というのは間違いではない。
 ル・サンティエにある有名高級時計ブランドを傘下に収め、続いて文字盤、ケース、ブレスレット、そして汎用ムーブメント製造技術までも手中に収めた。そして10年後の2010年、ブルガリの統合化は終了するが、時計製造において大きな一歩を踏み出す年となった。

 昨今、多くのブランドがパーツの分業制から垂直統合化へ変更し、生産納期の短縮することで、多くの商品を世に送り出している。その結果、商品はどこでも見ることが出来るようになり、いつでもその商品を買うことが出来るようになった。現在ではSIHHやバーゼルで注文した商品が、2~3か月後には顧客のもとに届く(戦略的な事も含め)という時代が来ている。一昔前では考えられないことだ。

 そんな時代にも関わらず、未だに少量生産であまり見ることの出来ない商品がブルガリにはある。それはル・サンティエに工房を置くManufacture de Haute Horlogerieが作り出す複雑時計である。実際、バーゼル ワールドで受注されてしまい店頭に出ないで終了してしまう商品もあるという。

 日頃は世界各国を旅しているこれらの複雑時計が、日本に来ているとブルガリ ジャパン様より連絡を受け、早速取材の場を設けてもらった。
 今回、見せてもらったのは2本。カリヨン トゥールビヨンセルペンティ インカンタティ トゥールビヨン ルミエールである。 カリヨン トゥールビヨンは、3ハンマーのミニッツ・リピーターとトゥールビヨンの組み合わせ。そしてセルペンティ インカンターティ トゥールビヨン ルミエールは、ジュエリーウォッチにスケルトン トゥールビヨンを組み合わせた複雑時計である。

 では最初はイタリア流レディーファーストとして、セルペンティ インカンターティ トゥールビヨン ルミエールを紹介しよう。


このセルペンティ インカンターティ トゥールビヨン ルミエールとは
セルペンティ・・・ヘビ
インカンターティ・・・魅了
トゥールビヨン ・・・トゥールビヨン
ルミエール・・・光
なのである。
 ブルガリのアイコンであるヘビは若さや永遠の象徴でもあり、その官能的な姿がジュエリーを纏う事で、より人々を魅了する。そしてその中心に、光をイメージしたスケルトン加工のトゥールビヨンを備え、さらなる美しさと輝きを放つのだ。実はこの4つのキーワードが、それぞれに相乗効果をもたらし、商品を芸術作品にまで昇華している。
 

 ムーブメントのブリッジは、シャンルベのように溝を掘り、底をサンドブラスト、表面はポリッシュにして光をイメージしている。また面取りは、ル・サンティエらしいハンドフィニッシュでのアングラージュ。そして歯車はサーキュラーサテンとサンレイサテンを組み合わせ、よりブリッジを引き立てる。またオシドリ付近に見えている地板には、手作業によるペルラージュを施しているのがわかる。勿論スティールパーツも一方向のサテン仕上げに加え、トゥールビヨンブリッジ等はブラックポリッシュである。更にこの工房らしく、てん輪は古典的なチラネジに4本だけゴールドのミーンタイムスクリューになっている。
 全体的に非常に手のかかった仕上げだ。裏側を見ると64時間パワーリザーブ表示を配した同様の仕上げであるが、なんと言っても18KPGムーブメントが美しいの一言である。(18KWGケースバージョンは18KWGムーブメント)
 


 ケースは、ロストワックス製法により作られたキャストへ、1つ1つ手作業により石をセッティングして仕上げていく。根気のいる作業だが、ジュエラーであるブルガリにとって、より難しいスノーセッティングでも目を見張るばかりの美しい石留めは一見の価値がある。

  


 ウンチクはさておき、この作品の細かいスペックはブルガリのホームページを見ていただきたい。https://www.bulgari.com/ja-jp/products/102540-e.html


 41㎜の18Kピンクゴールドケースにスノーセッティング ダイヤモンドと複雑なムーブメントの光を融合させ、まさに高級ジュエラーらしい逸品に仕上げている。
 ここで41㎜=女性用には大きいのでは?と思われがちだが、下の写真を見てほしい。

 
 勿論、私(男)の手ではなく女性の手(しかも細い!)である。そう、ケースは41㎜だが、見えているムーブメント部分は約33㎜程なのだ。そこへムーブメントを取巻くようにスノーセッティング  ダイヤモンドと大きなルベライトのヘビが見事に調和されている。更に頭と尻尾を6時側にすることで手前に重心が置かれ、時計がひっくり返らず、フィット感も良好であり、時計を大きく見せないデザインはさすがである。ルベライトに合わせたステッチ無しアリゲーターストラップも高級感があり、より官能的で上品さを演出している。
 
 美しく見せる方法を知り、フィット感にこだわるハイジュエラー ブルガリが描いた傑作、それがセルペンティ インカンターティ トゥールビヨン ルミエールである。

  




 さて次は、カリヨン トゥールビヨンであるが、まずは音を聞いてもらいたい。

 


そして少し声が入っているが、敢えて掲載した。デバイスにより音量は異なるため、声と比較してもらいたい。


 通常のミニッツ・リピーターは2つのハンマーで高音、低音、高音+低音という音を出している。対してこのカリオン トゥールビヨンは “ミ” “レ” “ド”という音階を作り、奏でているのがわかる。
 音量を“創り”出す方法は、この工房が80年代から培ってきたソヌリのノウハウを活かし、10時位置のネジ留めしているゴング部分をケースにも固定し、反響させている。また昨今では色々なブランドが同じ手法を取っているが、ムーブメントを完全に固定せずに宙づり状態にして空間を設け、音を反響させている。そしてケース内側をくり抜くことにより音をより反響させているのだ。更にこの工房の持つノウハウは現在、人の耳だけではなく、大学と共同開発した音響システムによりある一定の音階、スピードを保ち、それにそれにそぐわないものは調整し直すと言う徹底したこだわりなのだ。

 文字盤側にはスリーハンマー、スリーゴングは配し、金で縁取られたサファイヤクリスタル文字盤はハンマーとトゥールビヨン部分を邪魔することなく、くり抜かれている。トゥールビヨンやハンマーの動きと音を存分に楽しむことが出来る作りになっている。

 裏を見てみよう。

   多くのリピーターが文字盤側に機能を置くため、なかなか見ることの出来ない構造が、シースルーバックから見ることが出来る。これは何とも嬉しい限りである。そして美しい仕上げやメリハリの利いた放電加工により作られたバネ類は美しく、さすがである。

  

 筆者はこのムーブメントの設計士を知っている。最近、名前を聞く機会が多くなってきたが、この音量を生み出せるのは加工技術の進歩だけではなく、長い経験と歴史で培われたノウハウがここに蓄積しているからなのだ。
 
 しかし1つの疑問にぶつかった。
 音の振動を妨げないよう遠心ガバナーを使い、極力邪魔になるものを排除して音色を生み出している。しかし、このムーブメントには・・・ダイヤモンドがセッティングされている。つまりダイヤモンドが音に影響を与えるのではないかという事だ。


 音を聞く限り、音質は保たれている。そう、ブルガリは前代未聞の試みに出たのだ。技術的にはムーブメントにダイヤモンドをセッティング出来るだろう。だが、それに伴う石留めと音の調整に一苦労するのは確かだろう。では、なぜそこまでして?
 それは、美しいからだ。美しさのためにはブルガリはどんな努力も惜しまない。これこそが、ソヌリをも作れる工房を持つ高級ジュエラーである意味なのだ。最高のものを最高の美しさで表現している証と言えよう。

 しかし、さすがにこの時計は10本しか作製されていない(10本限定)。それを差し引いても、特注以外で販売されているリピーターのムーブメント受けにダイヤモンドがセッティングされている時計は、世界に何本あるだろうか?そう考えるとこの時計の希少性は計り知れない。

 ゴングの形や特性など伝えるべき事、見るべき所はまだまだあるが、長くなるのでそろそろ終わりにしたい。
 
 最後に、文字盤に心憎い秘密が隠されている事に気づいた人はいるだろうか?


 それはローマ数字である。筆者はあまりローマ数字には詳しくないが、ⅣとⅠⅠⅠⅠの話は有名である。しかしそこではない。
 8時のローマ数字である。通常ローマ数字の8はⅧである。しかしこれはⅠⅠⅩと書かれてある。なぜかというと・・・限られたスペースの中でバランスの良いローマ数字を選択しなければならなかったと言う。そのため選択された文字は
 Ⅹ(10) - Ⅱ(2) = 8
X の前にⅡを置くことで引き算させて、8と読ませるという・・・面白い趣向だが、またしても美しさを選んだのだ!


初代カリヨン トゥールビヨンのPVである。内部の構造がよくわかるので是非、視聴してほしい。



 
金額は
セルペンティ インカンターティ トゥールビヨン ルミエール: ¥20,490,000(税抜)
カリヨン トゥールビヨン: ¥30,100,000(税抜)
(どちらも2017年6月現在)

 両モデル共に現在、ブルガリ銀座本店に展示してあるが、いつまで国内にあるかはわからないと言う。是非、この機会にご覧になって欲しい逸品である。

 20世紀前半からブルガリは時計を製造している記録が残っている。そのどれを見ても美しい。だが2010年を迎えるまでは内部へのこだわりは、時計メーカには決して勝てるものではなかった。それは事実である。だが2000年に始まり2010年に時計製造への強い意思発表をしたブルガリ。
 全てを美しく見せる事、かっこよく見せる事がジュエラーの、いやブルガリのこだわりなのであろう。内部にこだわればそれ相応の時間はかかるはずである。しかしたった10年でここまで出来るブランドは少ない。それほど強い意志を持っている証拠であるり、今後のブルガリの動向が気になるのは、筆者だけではないはずだ。

ブルガリ ジャパンPR部の皆様、貴重な時間をありがとうございました。


【お問い合わせ先】
 ブルガリ ジャパン
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http://www.bulgari.com/ja-jp/