【連載】WATCH MEDIA ONLINE スイス時計製造現場視察ツアー レポート⑤ ~ヴティライネン工房

 By : CC Fan

WATCH MEDIA ONLINE主催の海外工房を巡るツアーのレポート・連載第5回目
またまた時間が空いてしまい、すみません。WATCH MEDIA ONLINE読者有志と共ににスイス独立系の工房、ローラン・フェリエ、ローマン・ゴティエ、ヴティライネンの工房などを訪ねた旅のレポート、第5回目は、いよいよカリ・ヴティライネン工房に潜入です(前回は工房に到着してランチを食べたところで終わったので)。公式訪問としては、これがラストのスケジュールとなりますが、ヴティライネン氏自らに工房のすべてを案内していただき、とても収穫の大きい訪問となりました。

第5回目の様子もCCFan氏のレポートをどうぞ。

[これまでのツアーレポート]
■第一回:https://watch-media-online.com/blogs/7669/ (ローラン・フェリエ)
■第二回:https://watch-media-online.com/blogs/7700/ (アクリビア)
■第三回:https://watch-media-online.com/blogs/7781/ (ローマン・ゴティエ) 
■第四回:https://watch-media-online.com/blogs/7829/ (アニタ・ポルシェ)




2023年12月28日追記:いつもお世話になっている三条ネジさん(@vis_vis_vis_vis)から、記事中の工作機械について情報をいただいたので追記します。

エナメル作家、アニタ・ポルシェ氏を訪ね、バスでトランヴェール渓谷のヴティライネン工房へ。
高所恐怖症だと恐ろしさを感じてしまう様な切り立った山の頂上に立っている建物から村を眺めながらランチの後、いよいよヴティライネンの工房を訪れます。



高台のベランダは安全と分かっていてもヒヤッとします…



ドアには控えめにVOUTILAINENのレターが刻まれています。
元々レストランだったころにヴティライネン先生も訪れたことがある、と言うエピソードが…

この建物には伝統的な手法(ギロッシェ・エナメル)による文字盤の製作部門、設計部門、仕上げ部門、組み立て部門があり、山のふもとに部品製作を行うマイクロメカニクス部門があるとのこと。
今回は設計部門から見学します。



設計部門では今やヴティライネンの代名詞ともなったナチュラル脱進機の構造をCADを見ながら解説していただきます。
今回、ローラン フェリエとヴティライネン(+この後の某所)と言うダイレクトインパルスの雄から直接お話を伺えたのは非常に貴重な体験でした。
今年のW&Wシーズンに発表したワールドタイムではワールドタイム機構をコンパクトに収めるために、計時輪列のレイアウトを大きく変更した、と言うお話が伺えました。

右上に写っているのはNIHS(スイス時計工業規格)の規格書、CADを効率よく操作する左手デバイスも使われていますね…



「どこかで見た」デテントトゥールビヨンの図面を大判にした布ポスター。



次は伝統的なギロッシェ文字盤を作る部門へ。
クオーツの台頭、日本勢の躍進によって高級時計製造が壊滅的な打撃を受けたときに「錘代わり」で二束三文で売られていたギロッシェ用の旋盤を先見の明で買い集めたヴティライネン氏。
レストアと近代化改修を施し、さまざまな技法を開発することで文字盤サプライヤーとして高い評価を得たコンブレマイン社として育て上げました。



加工を行う前の金属から段階を追って加工していく様子が説明されます。



さまざまな加工条件やビスポークのユニークピースで使った文字盤の作り方を記したファイルと加工サンプル。
記録しておくことで再現が可能になります。



手動工具で文字盤を加工していきます。





確認は肉眼やルーペよりも目に負担がかかりにくく、細部まで精細に確認できる実体顕微鏡…と思ったらルーペも併用されているようです。
昔の機械を大切に使っていますが、「そのまま」ではなく、それぞれ近代的に改修されていると感じます。



加工を見守りながら、調子はどう?と声をかけるヴティライネン氏。



仕上げと時計師のスペースは照明もありますが、窓からの光も降り注ぎます。



部品の仕上げを行っています。



ゴムベルトで駆動される古い工作機械ですが、ベルトを駆動するモーターと制御するインバーターを現代のものにすることで回転を安定させています。
追記:これはコート・ド・ジュネーブ用に回転工具を押し付けながら地板をスライドさせる工具のようです。



スイッチの配置が「実用」って感じでグッときます…
追記:これはペルラージュ装飾を行う為のもの。



頑丈な機械を直しながら使い、伝統的な時計製造を行っています。
追記:歯車のホゾを磨いて仕上げるため。



こちらはまだ稼働していない?
追記:歯車の歯を整えるためのもの。



動力こそモーターですが、加工自体は人間の手で行う…と理解しました。
追記:歯車のホゾとカナを磨いて仕上げるためのもの。



加工した部品を影絵の容量で図面と重ね、正しく加工できているか確認するための投影機。
歯車の噛み合わせが確認されています。



アンティーク時計が当然のように置かれています。
追記:ヌーシャテルで作られたヌーシャテルクロックでグランソヌリを搭載、歴史的には最後期のものだそう。

工房を一通り見学した後はいよいよ実機を拝見。



使いやすいワールドタイム、全連動でリュウズを押すたびにタイムゾーンが+1ずつ進んでいきます。



今までのナチュラル脱進機ムーブメントとは違い、輪列が向かって右側からテンワへ回り込んでいます。
これは、スモールセコンドがない二針相当で、前述したようにワールドタイム機構を収めるための変更のようです。



こちらは伝統工芸の螺鈿細工の文字盤を備えたヴァントゥイット。



ムーブメントのブリッジにも文字盤同様の仕上げが施されています。
輪列は向かって左側からテンワに入っています。



個人的に興味深かったのはデテントトゥールビヨンの模型とマリンクロノメーター。



ヴティライネン氏にお願いして動かしてもらいました。



デテント!



会議室からの風景も絶景…



雨どいが個性的な竜の形になっています。
ランチをしたベランダも見えます。



2014年のガイア賞の賞状が掲げられています。

いまとなってはなかなか見ることができないヴティライネンのコレクションを拝見できました。

この後、ヌーシャテル湖畔までバスで戻り、本日の宿、ホテルパラフィットへ。
湖畔に客室が浮かんでいる、と言うすさまじい仕組みのホテルです。



ベランダの梯子をおろせば泳げそうでしたが、流石に10月なのでNG…



この日のディナーはヴティライネン夫妻と。
話は尽きません…



ありがとうございました!



ヌーシャテル湖の美しい日の出を。

さて、WMOの公式ツアーとしての工房見学は、一旦ここまでとなります。
次の日はヌーシャテル湖のクルージングでジュネーブに戻る予定でしたが、私だけ単独で、2023年のジュネーブで初めてお会いしたベルナルド・レデラー氏、そして現在「プリムヴェール」の製作に取り組んでいる関口陽介氏の二人の取材を行いました。

その模様は、【WATCH MEDIA ONLINE主催の海外工房を巡るツアーのレポート「番外編」】として、引き続きお届けする予定です。

次回はレデラーからお伝えします。