【連載】WATCH MEDIA ONLINE スイス時計製造現場視察ツアー レポート③~ローマン ゴティエ ワークショップ訪問 +時計師ホテル

 By : CC Fan


WATCH MEDIA ONLINE主催の海外工房を巡るツアーのレポート・連載第3回目

今年10月、コロナ禍で延期を余儀なくされていたWATCH MEDIA ONLINE主催の海外工房を巡るツアーがようやく再開されました。2019年のドレスデン&グラスヒュッテ・ツアーで(ランゲ、GO、グロスマン等を視察して)以来4年ぶりとなる今回は、スイス独立系の工房、ローラン・フェリエローマン・ゴティエヴティライネンの工房などを訪ねました。工房見学の後のランチやでディナーにも工房スタッフが参加してくれ、いろいろな角度からの質問や、フレンドリーな交友を持つことができましたことに感謝します。
天候にも恵まれ、本当に素晴らしい旅となったこのツアーの模様を、CCFan氏の短期集中の連載レポートでお届けします。今回は第三回目、ローマン・ゴティエ工房への訪問レポートです。(kitamura)

■第一回:https://watch-media-online.com/blogs/7669/ (ローラン・フェリエ)
■第二回:https://watch-media-online.com/blogs/7700/ (アクリビア)




午前中、アクリヴィア(レジェップ・レジェピ)を訪れた後、バスに乗ってジュネーブを離れジュウ渓谷へ移動します。

午後の主役は…



ローマン・ゴティエ氏! 
エナメル・アーティスでもある奥様も交えて、時計師ホテル(詳細は後述)でランチをご一緒した後、氏のワークショップを訪れました。

まずは、工房から歩いてすぐのところにある、現在建設が進行の"新工房予定地"を案内してくれました。



ここは自治体が産業振興のために開発したもので、そこに地元の企業を優先的に誘致するというシステムなのだそうです。ローマン ゴティエ ブランドと、部品を供給するサプライヤービジネス、ともに好調のようで、この数件先にあった、かつてオーデマ ピゲが入居していた建物とも契約をしたそうです。
機械部品を他社に供給するサプライヤービジネスもさらに拡大し、ゆくゆくは時計に関するすべての部品を手掛ける「総合」サプライヤーを目指したい、と語っておられました。



それではローマン・ゴティエ工房へ入場…



社長室(ローマンの部屋)にて、軽くミーティング。



部屋の小物にも氏のセンスが光ります。



最初に、ローマン ゴティエブランドとサプライヤービジネスを支える切削工作機械が並ぶスペースを見学します。
基本に忠実に、温度や湿度の環境条件を一定に保ち、安定した加工を行うことが大切で、それを実現するために空調・水冷ともに充分な余裕を持った設備が設けられています。



印象的だったのは軸物を加工する旋盤・プレートを加工する多軸加工機共にフィーダー(材料供給機)やATC(オートツールチェンジャー:自動工具交換機)がフルセットで装着されており、大量生産にも対応できるような設備になっていること。
ローマン氏に聞くと、「サプライヤーとしては、少量多品種・大量生産の両方、その中間の中規模中品種生産でも対応できるようなフレキシブルな工場にする必要があり、そのためにはなるべく省力化を行って様々な生産シナリオに対応できるような設備を構築している」とのこと。
確かに、基本的には機械は無人で動いており、材料の供給・工具の交換・完成品の仕分けまで自動で行われているようです。



高精度加工に近道はなく、基本を押さえていくしかないと説明があります。
写真はNGでしたが "明らかにあのブランドの!"と思われるようなパーツもチラほら…



各マシンには1か月単位の「実績表」が付けられていました。
人間が働く時間で生産工程のセットアップ(青色)が終わった後は、24時間(緑色)コンピュータ君が働いて部品が作られていることが分かります。



こちらは地板やブリッジの元になる板状の材料がセットされたパレット。



これを加工機の隣のフィーダにセットすると…



ロボットが加工テーブルにセットし、加工を行います。
加工が終わった材料はパレットに戻され、次の材料がセットされてトラブルが起きない限り無人で繰り返されます。
青とオレンジのパイプは冷却と潤滑を兼ねた油を噴射するノズルで加工時には盛大に噴射します。



こんな感じで…



加工に投資するとともに、作った部品が「正しく」作られているかを確認するために最新の光学検査装置も導入しています。
これは地板に開けられた穴が規格を満たすかチェックしている様子です。

ブランドとサプライヤービジネス両方で使うために高価な最先端の工作機械を導入することができるというのはサプライヤーを兼業しているローマン氏の特徴でしょう。



組立や歯車の仕上げも専用治具を製作、安定して作業が行えるようにしています。



さて次に、ここまでのハイテクな面とは一見対照的に見える、手仕上げによるブリッジの装飾を行うセクションを訪ねます。
ここでは「ジュウ渓谷の伝統」に従って深い入角や鋭いエッジを備えた人の手でしか行えない仕上げを行っていました。

「もちろん、工業的な見地からはもっと簡単なデザインや仕上げにすることもできる、しかし私はそうしようとは思わない。むしろもっと困難な仕上げに挑戦して人々を驚かせたいし、それが人を感動させると思っている」と語ります。
ロジカル・ワンのシャープなブリッジや、「C」の新しい考え方の仕上げなど、新しい仕上げの価値を生み出すために日々挑戦しているそうです。

ジャンシャンによる磨きは昔やりましたネ…



専用の机にそれぞれ最適な環境を構築しています。



時計師セクションはみんな「朝型」で訪れた時には仕事終わりのようでした…



Witschiの姿勢を切り替えながら継続的に測定するソリューションが導入されていて計測しています。



インサイトや「C」が。



そして、ローマン氏の奥様が手掛ける自社エナメル工房。



エナメルの実演も。

このあと、開発セクションも訪れましたが、そちらは写真NG。ただ「ものすごいもの」が開発されていましたので、形になるのが楽しみです!


本日の宿は、オーデマ ピゲ経営の、その名も「時計師ホテル(Hôtel des Horlogers)」です。







スロープ状の廊下で客室が繋がっており、階段がないユニークな構造のホテルで、客室の窓からは放牧されている牛が歩いている様子とカウベルの音が聞こえてきます。



巨大なロイヤルオークのブックも!
夜は、ローマン氏おススメのチーズフォンデュでディナーです。



ローマン氏はBMWのEVで登場!



すっかり日も暮れて…







エナメラーでもある奥様を交え、話は尽きません…

ほとんど時間無制限で工房のすべてを見せてくれて、「何ならもっと説明したかった!」というオープンな姿勢のローマン氏、皆さん大満足だったと思います。



特徴的なスポークを象ったスイスチョコと蜂蜜のキャラメル、チョコの詰め合わせをお土産にいただきました。
詰め合わせはそれぞれの参加者の名前入り!



普段使いできそうなオシャレなトートバックに詰めてのプレゼントでした。
ありがとうございました。
実は、2日後の最終日のラスト・ディナーもローマン氏がプロデュースしてくれているのですが、今回はここまでとして、記事末のおまけとして、時計師ホテルのレポートをどうぞ。


オシャレな外装に負けずと、内装もお洒落なのですが…



時計のイメージなのか、かなりエッジが立った独自の蛇口。



シャワーも同じだったので適当に触っていると…



いわゆるレインシャワーから不意打ちで水が噴き出してきました。



よく見たら注意書きなどさりげなくあり、コンセントなどの設備が目に触れないような仕掛けで設置されていて、実はもっと「いろいろあった」のかな、と…





ホテルからのプレゼントにはホテル シェフのポートレイトも。









ムーディーな意識高い系ほてるですした…。


次回は、アニタ・ポルシェさんのご自宅アトリエから、ヴティライネンの工房を訪ねます。
ぜひお楽しみに!!