【連載】WATCH MEDIA ONLINE スイス時計製造現場視察ツアー レポート"番外編Ⅲ”~工芸と工業の境界、MHM社のハイテク設備を見学

 By : CC Fan

チャペックのプラス・ヴァンドーム コンプシテを予期せず見学することができた
ベルナルド・レデラーの工房(サプライヤーのMHM社)の見学レポートの続きをレポートします。

「時計の工房」と言うと、時計師机が並んでいて、そこで時計師が組み立てを行っている…と言うイメージが想起されるかもしれませんが、それは一つのイメージでしかなく、実際には部品を製作する部品製造業者(サプライヤー)も大きな割合を担っています。

時計作りは万能の天才である「時計師」が全てを行っている、と言うイメージで語られることもありますが、実際にはそれぞれ専門技能を持ったエンジニアやテクニシャンが力を合わせている、そして組立や仕上げは「工芸」的な世界ですが、部品製造は「工業」の領域であり、いかに設計通りの正確な部品をバラつきなく作ることができるか、と言う事に心血を注ぎながら作り上げているという事をWMOで何とか伝えられないか、と書いてきました。

今回のベルナルド・レデラーの工房も「工芸」と「工業」の両立であり、先進的なCNC加工機を用いて質の高い部品製造と、手作業による工芸的な仕上げを組み合わせることで作品を作っています。
まずはあまり顧みられていない、と感じる工業の方を見ていきましょう。



最初に訪れたのは、「頭脳」ともいえる設計部門。
三次元CADを用いて機構を設計・検証しています。
画面に写っているのは未発表のものなのでボカシで…



時計師の部屋では時計師机が並んでおり、それぞれの時計師がやりやすい環境を作っています。





組立途中のチャペック、プラス・ヴァンドーム コンプリシテのムーブメント!
12時位置の差動歯車機構がまだ組まれていないため、3番車以降の構造が分かりやすいです。



問題なく動くことを確認して初めて完成、と言う事で各種検査機器も…



高温・低温検査を行う為に市販の飲料用冷蔵庫を改造して検査器具を作ろうとしているそう。



続いては、手動工作機械。
試作や検証ではCNCよりも小回りが利きやすく、まだまだ現役!とベルナルドがポーズを決めます。



適材適所でCNCも使う、手動も使う、と理解しました。



ハイテクな方、CNC制御の精密旋盤で、軸物と呼ばれるピニオンやシャフトなどを加工しています。
この旋盤は日本製とのこと。



材料を自動供給するフィーダーはもちろん備えられており、一度セットしたら工作機械が休みなく働いて部品をどんどん作ります。

スゴイペースで製造される部品を自分だけで使いきれるか?高額な設備投資をペイするか?と言う事を考えると、サプライヤービジネスを行って部品製造の仕事を受託し、設備投資を「割る」と言うのが理想的なのではないか、と考えるわけです。



CNC旋盤で製造されたネジ、肉眼ではほとんど見えません。



図面は100倍スケールで描かれています。



歯車も軸物なので旋盤で加工されているようです。



フィーダーにセットされるのを待つ材料のストック。
曲がらないように当て木を添えられて届くとのこと。



地板やブリッジと言った、板状部品の加工するのはフライス盤(ミリングマシン)の応用である多軸加工機。
XYZ軸の直線加工に加え、追加の回転軸・傾斜軸も併用することで幅広い加工を実現できます。



もちろんこちらもフィーダーがあり、一度セットすると自動的に複数個を加工し人間の手間を減らしています。



加工データを可視化し、どのように加工されるかを確認しています。
多軸加工機にも複数のバリエーションがあり、それぞれの部品に必要な性質を見極めて最適な機械をアサインするそう。



最新の多軸加工機の設置作業が行われていました。
加工機メーカーのエンジニアが組み立てと調整を行っています。
「貴方が来るから今日にした」と言うジョークも…



この工作機械はドイツのメーカーのようです。



加工可能なサイズは小さいけどより高精度、と言う5軸加工機。



切削加工では作りにくい細いバネなどの加工が得意なワイヤ放電加工機。
材料とワイヤの間に高電圧をかけて放電させ、そのエネルギーで材料を溶融させて切断します。
材料に直接触れず、力がかかりにくいため折れやすい細いバネなどなどの加工に向いています。

そのほか、切削で高さ方向を精密に作ったブリッジ部品の材料から、最後に放電加工で外形を切り出すことで正確な両方の強みを活かした加工も行っているとのこと。

ここまでで部品製造を行う「工業」の領域を見てきました、次は出来上がった部品を手作業で仕上げる「工芸」を見ていきましょう…