オメガ スピードマスター「ファーストモデル復刻版(トリロジー)」 レビュー by k.hillfield

 By : Guest Blog

●オメガ スピードマスター ファーストモデル復刻版(トリロジー)。(著者撮影)

このファーストモデルの復刻版は「スピードマスターの原点」を再現したものであり、その魅力はオリジナルモデルが作られた1950年代前後の時代背景を学んだり、現代まで続くスピードマスターの歴史に思いを馳せることができたりすることにあると思います。

スピードマスターはオメガの代表的な時計であり、「人類が初めて月面に着陸した時、身に着けられていた時計」として有名です。「ムーンウォッチ」とも呼ばれ、その特徴的なクロノグラフの機能的な外見は、私たちを宇宙の壮大なロマンへといざないます。スピードマスターは今年で誕生60周年を迎えます。これまでに手巻きモデルの「プロフェッショナル」や、90年代に大ヒットした自動巻きモデル「オートマチック」など、様々なモデルが出てきました。

その中でも、原点であるファーストモデル(Ref.CK2915)は多くのコレクターの憧れと言えるでしょう。

ファーストモデルは宇宙開発用に作られた時計ではありません。この時計はもともと、モータリゼーションという当時の社会情勢を反映して作られたモデルです。そのため現在、ムーンウォッチという愛称を持ちながらも、ミハエル・シューマッハのモデルやレーシングなどのバリエーションも出ています。

そういった背景を鑑み、ファーストモデルおよび今回の復刻版の魅力は「いずれ月で使われる」というポテンシャルを秘めたストーリー性だと思います。 

ディテールの特徴としては、ブロードアローと呼ばれる特徴的な針、そして現在のロゴより縦にふっくらしている昔のロゴ、そしてプロフェッショナル表記が入らない点(NASA採用後に表記が入ります)、キャタピラブレスなどが挙げられます。


●ファーストモデル。バーゼルワールド2017にて。(著者撮影)

オリジナルのファーストモデルは非常に希少価値が高く、現在、世界的オークションにおいて1000万円以上の価格で取引されています。下記のリンクは2015年12月、ニューヨークで行われたクリスティーズのオークションの結果です。落札価格は118,750米ドル。当時の為替レートから換算すると、日本円にして14,250,000円です。http://www.christies.com/lotfinder/watches/omega-a-very-fine-and-equally-rare-5945129-details.aspx?from=salesummery&intobjectid=5945129&sid=f60c1009-ffc4-498d-8c82-e3b27be5e604

 

そんな憧れのファーストモデルですが、2017年のバーゼルワールドにて、ファーストモデルが忠実に復刻されることが発表され、現実的な価格で手に入れるチャンスがやってきました。 

忠実に…と述べたのは理由があります。

実は、1990年代に一度ファーストモデルは復刻されました。(下記オメガ公式サイト参照)
https://www.omegawatches.com/planet-omega/heritage/vintage-details/15042/

このバージョンは90年代のケース・ブレスレットをベースに針と旧ロゴが再現されたモデルです。この時計は時代を象徴する素晴らしいモデルで、当時は旧ロゴの再現されたモデルが少なかったこともあり、個人的には非常に印象深いモデルだったのですが、現在において、オリジナルのファーストが欲しい人のニーズを満たすのは難しいものなのかもしれません。

その点、2017年の復刻は、ケースを3Dスキャンし、オリジナルに忠実に再現するとのことだったので、ファンとしては期待の高まるところでした。
今回のモデルは、トリロジー(3部作)の一つとして位置づけられ、共に60周年を迎えるシーマスター300、レイルマスターのオリジナルモデルとともに復刻されました。


●バーゼルワールド オメガ トリロジーブース(上)とオメガ トリロジーセット(画像下:左からレイルマスター、シーマスター300、スピードマスター(著者撮影)




3本セットが世界限定557セット、単品だとそれぞれ世界限定3557本で発売されました。

セットで買うと、それぞれのモデルに文字盤上にTrilogy 000(番号)が入るというのはコレクターとして意見の分かれるところだと思います。下記のリンク(オメガ公式サイト)に文字盤上のTrilogy 000の刻印の様子が掲載されています。https://www.omegawatches.jp/ja/watches/specialities/the-1957-trilogy/31110393001002/

私はスピードマスター単品を選びました。


●時計本体。(著者撮影)

造りとしては、オリジナルを本当によく再現しています。
特にサイズ感が38.6ミリと他のクロノグラフより小ぶりなところが、アンティーククロノグラフとしての良さを感じさせるところです。夜光塗料の枯れた雰囲気も良いです。 

オリジナルとの大きな違いという点で言えば、ブレスとムーブメントが挙げられます。

ブレスはオリジナルよりも厚みがあり、しっかりしています。この点に関して言えば、オリジナルを尊重しつつも、実用性を取り入れたオメガの巧妙さだと思います。
ムーブメントは、オリジナルに搭載されていたコラムホイールのCal.321ではなく、その直系の後継機であるカム式のCal.1861です。

ディテールに関して言えば、私を含め、完全にオリジナルを再現していることを望むファンもいたかもしれません。細かい点を挙げれば、針先が曲げられていない点、Swiss madeの刻印の位置が違う点、リューズのロゴが違う点などが挙げられます。しかし、そういったオリジナルとの違いを探している時点で、もう自分自身が「スピードマスターの歴史を巡る旅」に足を踏み入れていることに気が付きました(苦笑)。

さて、本体だけなく、もちろん付属品にも様々な仕掛けがなされています。

まずは箱に描かれたシーホースから取り上げたいと思います。

●箱に描かれたシーホース。(著者による撮影)

シーホースはスピードマスターの通常モデルの裏蓋にも刻まれている絵柄で、いつもは左向きなのですが、この箱に描かれているシーホースはいつもと反対を向いています。過去のアーカイブより、敢えてこの向きのシーホースが採用されたようです。このことからも特別なモデルであることを感じさせます。 

そして、交換用のレザーストラップとNATOストラップの二種が、交換用工具とともに付属します。双方のストラップに1950年代のオメガの時計のバックルを再現したものが付いてきます。


●今回の復刻版についてくるベルトのバックル。(著者による撮影)

アンティークウォッチの市場において、当時のバックルまで揃った状態で時計が出てくることはほとんど少ないため、このバックルが付いてきたのはとても嬉しかったです。

最後に、この時計のオーナーになって感じたこの時計の魅力について書かせてください。

この時計の魅力はやはり「ムーンウォッチ」の原点故のそのストーリー性だと思います。冒頭にも書かせていただきましたように、この時計を通じて、その後のスピードマスターの歴史の広がりを感じることができるのです。それがこの時計のオーナーになる意義ではないでしょうか。


●バーゼルワールド2017のオメガのブース。歴代のスピードマスターが一面に描かれています。(著者撮影)


●ジュネーブの時計店にて。スピードマスタープロフェッショナルが宇宙飛行士のミニチュアと並んでいます。(著者撮影)



●著者のコレクションより。どちらも同じCal.1861を使用していますが、宇宙をテーマにそれぞれが違うストーリーを有しています。
左が今回のファーストモデルの復刻版、右が2015年に発売されたスヌーピーモデル。(著者による撮影)

 



【オメガ公式ページ】

SPEEDMASTER '57 CHRONOGRAPH 38.6 MM 1957 トリロジー https://www.omegawatches.jp/ja/watches/speedmaster/speedmaster-57/chronograph-386-mm/31110393001001