【時計解説】 チャールズ・フロッシャム(Charles Frodsham)『特殊ムーブメント』(1890年~1900年)by Ten
By : Guest Blog~時計解説~
チャールズ・フロッシャム(Charles Frodsham)『特殊ムーブメント』
(1890年~1900年)
by TEN
初めまして。TENと申します。
国内の時計学校で学生をしています。
TwitterやInstagramを見たことがある方は既にご存知かもしれませんが、主にアンティークのイギリス製懐中時計ムーブメントを集めています。
本記事では自身の所有している時計を用いて、イギリス製懐中時計の魅力についてご紹介いたします。つたない文章ですが、読んでいただければ幸いです。
ギルトメッキされた受けと青焼きネジなど、伝統的な英国仕様でありながら、扇型の輪列受けに合わせて香箱とテンプが対象的に配置されたデザインは極めて珍しい。美しくも異質な存在感を放つこのムーブメントを分解しながら見ていきましょう。
リチャード・ブリッジマン(Richard Bridgman) によって特別に設計され、ニコル・ニールセン(Nicole Nielsen)が製作、小売業者のCharles Frodshamに200個のみ提供されました。
Nicole Nielsenは19世紀後半のロンドンを代表する時計メーカー。Frodsham、Dentなどの最高級時計ブランドに多くのラフムーブメントを供給していました。
香箱が受けで覆われておらず、地板側のみで保持している懸垂香箱(standing barrel)という構造で、これにより、背が高くよりトルクの強いゼンマイを使用することができます。
巨大な懸垂香箱の上には巻き止め(ゼネバストップ)が搭載されており、サンバーストを施した鋼製のプレートによって覆われています。
香箱の裏は内側が梨地、外側はサンバースト仕上げになっています。
香箱真は巨大な懸垂香箱を支える為に約5mmと通常より太く作られており、地板は香箱真の為に約5mmの大きな穴が空いています。
角穴車は強力なゼンマイを巻き上げても壊れないように、三本のネジで固定されています。
角穴車の裏は溝が彫られていて地板との接触面を減らし摩擦を軽減しています。
輪列受けや地板の裏、その他の受けの裏には製作会社であるNicole Nielsenのシリアルナンバー「185」の彫金が施されています。
受けにある玉ねぎ型の切り込みは販売会社のCharles Frodshamがよく用いる手法です。
文字盤に隠れて見えないゼンマイ巻き上げ・時刻合わせ切り替え部分ですら、サンバーストやヘアライン、鏡面仕上げ、面取りなど、細部まで手を抜くことなく仕上げられています。
英国製時計としては珍しく、キチ車とスチール製のキチ車受けが存在していて、摩耗を防ぐほか万が一摩耗や破損した場合にも、このパーツ単体での交換が可能なためメンテナンス性に優れています。
受けとテンプを取り外した様子。
全体が鏡面仕上げされたアンクル。
脱進機はイギリス製時計では最も一般的なイングリッシュレバーです。
テンプのアミダや振り座、ヒゲ玉まで鏡面仕上げと面取りが施されています。
アミダや振り座の側面だけでなく、振り座に反射したヒゲゼンマイが更に反射しアミダに映っています。
このように分解しながら観察してみると、当時のイギリスの狂気的とも言える仕上げに対する執着が窺えます。懐中時計は現代では失われてしまった技術が存在した確かな証拠です。
数個しか作られていないような黎明期の実験的な個体や、当時の技術の粋を集めた最高品質の時計など、時を越えてイギリス時計は研究者やコレクターに愛され続けています。
ご覧いただきありがとうございました。
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こんにちは、CCFanです。
Twitterでも有名なTENさんに、色々とご縁がありゲストブログを執筆していただき、アンティークのイギリス製懐中時計の中から、チャールズ・フロッシャムのムーブメントを紹介していただきました。
別の時計師の方から以前紹介したユニークな温度補償テンワを持つカーステンの設計はフロッシャムの精神を受け継ぐものではないか?と言うお話を伺って名前だけは認識していたチャールズ・フロッシャムについて予期せず実機の構造を子細に知ることが出来ました。
ダメージを受けやすい巻き芯周りを強度の高い鉄で作った上でユニット化し、「壊れにくく」「壊れたら交換できるようにする」と言う構造は、なるほど200年後も「直せる」ことを標榜するカーステンとの共通点を感じられました。
これからもイギリス製懐中の世界を紹介していただけそうです、乞うご期待!
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