クロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥー実機を見る~カール‐フリードリッヒ・ショイフレ氏を追いかけた一日のレポート!

 By : KITAMURA(a-ls)


まずはこちらの動画をご覧いただきたい



いかがだろう、機械式時計を趣味とするならば、おそらくほぼすべての方が、機械としての美しさや機構への探求心や、ともかく何らかのポジティブな興味を抱くのではないかと思う。

実際、この時計についての否定的な評価や見解は見たことがないけれど、その反面、この時計の凄味ゆえか、この機械の素晴らしさは長々と書かれすぎて、かえって伝わっていないという感じもする。

なので端的に言ってみよう。

この時計のブランド名は 「クロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥー」!!


機構的に押さえておきたいのは以下の三つ。
①フュゼ・チェーン(鎖引き)
②トゥールビヨン
③コンスタントフォース

デザイン面では、マニアックなパーツが可視化されていることも特筆点だ。
①裏透けの大きな開口に鎮座するトゥールビヨンのキャリッジ、
②ケースサイドの窓から覗けるチェーンフィージーの鎖や輪列、
③文字盤中央の開口部からは噛み合う2つの歯車が互いに逆方向に回転する様を見ることができる。


こうした実に的を得た可視化は、よほどの時計好きか本物の時計馬鹿でなければ採用できない。
この時計の生みの親こそ、ショパールの共同社長であるカール‐フリードリッヒ・ショイフレ氏そのひとなのである。


先月のある日、フェルディナント・ベルトゥーの日本における初めての本格的なプロモーションが催された。
発表された全モデルの実機、18世紀に作られた歴史的な名機、そしてショイフレ氏も来日して行われたプレゼンテーション・イベントから、スイス大使館でのプレス発表、そしてWMO読者と友人を招待していただいたディナーまで、一日ショイフレ氏を追いかけ、素晴らしい時計のみならず、その素晴らしい人柄にも触れることのできた得難い一日をレポートする。


まずは午前中に開催されたのは、「クロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥー」の日本メディアへの初のお披露目会といえる「The first exclusive presentation of Ferdinand Berthoud in Japan」のレポート。

ブランドのルーツであるフェルディナント・ベルトゥーがマリンクロノメーターの開発で名高いことから、運河に浮かぶ船をモチーフとした建物を、わざわざ探し出しての開催というのも、本当に作品を愛する故のこだわりが感じられる。


定刻にショイフレ氏のあいさつ。


18世紀を生きた早すぎた天才時計師、フェルディナント・ベルトゥー作品との出会いからはじまり、2006年にその名称使用権を取得した経緯や、新たなる「クロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥー」を現代に送り出すにあたり、そこはどのような時計であるべきか、ベルトゥーのオリジナリティをどのようにリバイバルさせるべきかなど、300年の時の流れと真摯に向き合い熟考を重ねた10年に近い長いプロセスを、ショイフレ氏は静かに語ってくれた。

そして誕生した現代のフェルディナント・ベルトゥーが、いかに時計愛好家の胸に刺さったかは、2015年に発表された「FB-1」が、ジュネーブ時計グランプリ(GPHG)の大賞である“金の針賞"を、なんとデビュー年目で獲得してしまったことからも明らかだ。

続いて、ブランドのジェネラル・マネージャーであるヴァンサン・ラペール氏がフェルディナント・ベルトゥーのヒストリーをレクチャーしてくれた。

1727年にフルリエに生まれた時計師フェルディナント・ベルトゥーについては、勉強不足で知らないことばかりだったため、このレクチャーは驚きの連続、実に興味深かかったのだが、それをすべて書き連ねると、またかえって伝わりづらくなると思うので、向学心のある方は、以下URLを英文ではあるが参照してほしい。
https://www.ferdinandberthoud.ch/en/chronometrie/ferdinand-berthoud-history


ここも端的にまとめると、
①26歳で近似差を表示できる時計を作成し、わずか27歳でフランス科学アカデミーのマスター・ウォッチメーカーに認定


②スペイン無敵艦隊はじめ、各国海軍からマリンクロノメーターを受注する第一人者だった

●18世紀に、この完成度のマリンクロノメーターを残している!

③あのアブラアム=ルイ・ブレゲの師であった!!
ベルトゥーの20歳年下のブレゲは、ベルトゥーのワークショップで10年近く師事したと伝わっているのだが、まぁ、とにかく凄い天才だったということを実感していただければ幸いである。

続いてラペール氏は、ルーツとした300年前のベルトゥー、特にマリンクロノメーターをいかに現代的に解釈してリストウォッチとして結実させたかについて、興味深いレクチャーを行ってくれた。ともかくムーブメントが美しいのだ。





支柱と吊り下げ式構造によってブリッジという概念から自由になったフュゼ・チェーン機構


幅35㎜×厚8㎜というスペースに1120余りの部品がコンパクトに納めされている。


まだ機構を完全に理解できたわけではないが、このムーブを見れば見るほど、驚嘆すべきこの美しい機械に至福を感じてしまう。


プレゼンテーションは、場所を1階のキャビンに移し、ここでランチ・ビュッフェをいただきながら、実機を手に取って拝見する。ゲストの中には購入を考えていらっしゃる愛好家の方々などもおり、熱心にご覧になっていた。
その最後のひとりが席を立つまで、ショイフレ氏はその場にとどまっていたが、その表情はブランドの代表者というよりも、時計愛好家のそれであった。

●ゲストを迎えての乾杯。左からショパール ジャパン GMトーマス・ドベリ氏、奥様のクリスティン・ショイフレ氏、ショイフレ氏、ヴァンサン・ラペール氏。


●運河を背景にした実機展示と、会場でのランチ・ビュッフェで振舞われたワイン、実はこれ、ショイフレ家所有のワイナリーのもの! フルーティーで仄かな甘みと豊かなが絶妙でした。






そしてその日の夕方、ショイフレ氏の姿はスイス大使館にあった。



午前の時計愛好家の表情から、グランメゾンを率いるショパールの共同社長として、ブランドにとって重大なマニフェスト、「100%エシカルゴールドへのコミットメント宣言」のプレスカンファレンスを、バーゼルワールドに次いで日本でおこなったのである。

バーゼルワールドの初日に発表されたこの宣言は、当ニュースサイトでもすでに紹介済みであるが、
(参照) https://watch-media-online.com/news/1368/

要は、不当な賃金や労働力の搾取など、社会性を著しく損なうことで生産された金(ゴールド)を、企業として一切使わないというもの、つまり、“できるだけ安く仕入れて利益を高める”という企業の論理を超越した宣言といえる。


●スイス大使館にてスピーチするショイフレ氏

人々の生活や人生を豊かにするラグジュアリー・アイテムに、金(ゴールド)は欠かすことのできない素材だが、その調達の結果、不当な扱いを受ける生産者や労働者がいるであれば、ブランドとしてそれは改善すべきで、ショパール・ユーザーは、製品とともにこの考え方をも身にまとっていただきたいという想いの発露でもある。


●スピーチするジャン=フランソワ・パロ 駐日スイス大使

●ショパール ジャパン GM (or ジェネラル マネージャー) トーマス・ドベリ氏の挨拶と、プロジェクターのショイフレ氏の声明。


ビジネスとは社会貢献でなくてはならない。
それは、ショパールというグランメゾンにありながら、独立時計師的なアプローチとこだわりを持つフェルディナント・ベルトゥーという、ある意味、採算を度外視した時計製造セクションをつくったのも、まさに同じような発想と言えるのかもしれない。

(ショパールHPより:100%エシカルゴールド)https://www.chopard.jp/ethical-gold-manifesto
(同:企業の社会的責任‐CSRについて) https://www.chopard.jp/corporate-social-responsability


会場となったスイス大使館には午前中を上回る多くのプレス関係者が参加していた。女性誌やラグジュアリー・メディアの方々も多くみえた。それは当然のことなのだが、ショパールのブランドイメージがジュエリー・ブランドとして広く定着しているのは、実は世界広しといえどおそらく日本だけらしい。
彼らのマニファクチュールである自社開発ムーブメント、ブランド創始者のルイ‐ユリス・ショパールにちなんでL.U.Cと名付けられたムーブメントの精度・安定性・拡張性は高く評価されており、欧米でもアジア先進国でも、この優れた自社製ムーブメントL.U.Cを持つショパールは、ジュエリーブランドであるのと同等に、高級機械式時計のグラン・メゾンとしても定着している。

そうしたイメージもあってか、フェルディナント・ベルトゥーの全モデルが一堂に会するディナーをWATCH MEDIA ONLINEだけのために開いていただけることになったとき、声をかけた何人かからはネガティヴなお返事もあった。彼らは後に参加しなかったことを大いに悔やむことになるのだが(笑)、おかげで、その夜のディナーの席を占めたのは、私の友人中でも生粋の時計馬鹿な面々オンリーとなったのである。(札幌から飛んできてくれた方もいた!)

この"クローズド・ディナー"は個人的に本日最大の大仕事なので、わたしはスイス大使館のプレスカンファレンスを中座して、ホストのひとりとしてゲストを迎えるべく大使館近くのレストランへ移動した。

会場となったレストランの個室には、フェルディナント・ベルトゥのハイケースがすでに数基搬入されていて、すでに展示会場の趣が出来上がっていた。こういう心配りやもてなしの徹底は、ラグジュアリー・ブランドでなければ育ち得ないDNAだ。

ゲストも揃い、まずはヴァンサン・ランペール氏による、フェルディナント・ベルトゥーのヒストリカル・ストーリーとブランド設立の概要、そして基本的な機構についてのレクチャーからスタート。


このディナーでは、通訳をショパールのカスタマーサービス部のウォッチメーカーさんに勤めていただいたので、レクチャー中に時計の機能に関するややこしい質問があっても、スムーズに対応していただけた。これも凄いことだ。

あとは次々と運ばれてくるお食事とワインを楽しみつつ、気の置けない友人たちとわいわいがやがや、実機をいじりたおす(笑)。

●サイズの微調整が可能なユーザーフレンドリーなバックル

このディナーにゲストを招待するにあたって、わたしが書いたメールはこんな感じだった。
「ショパールの共同社長ショイフレ氏が会社とは別に徹底的にこだわった、おそるべき完成度の高い時計を、フェルディナンド・ベルトゥーというブランド名で作っております。
今回、これまでに発表した全7モデルとムーブメントが一堂に見られるディナーを、WATCH MEDIA ONLINEだけのために開いていただけることになりました。ご興味おありでしたら、ぜひご出席いただきたいのでご連絡ください。」

宴の終了後、参加してくれたほとんどすべての友人ゲストから、「ディナーも時計も実に素晴らしかった」という賛辞の声をいただいた。しかし、その印象はやはり、この方が駆けつけてくれたことが最大の要因だった・・・。




そろそろメインディッシュという頃に、大使館でのプレスカンファレンスを終えた、カール‐フリードリッヒ・ショイフレ共同社長と奥様のクリスティン・ショイフレ氏が、わたしたちのディナーに参加してくれた。会場がスイス大使館の近くのレストランに設定されていたのも、このためだったのである。

自身も時計愛好家として素晴らしいコレクションを持つショイフレ氏は、社長の顔ではなく、時計ファンとしてすぐさま私たちと打ち解けてしまう。実はヴァンサン・ラペール氏も生粋の時計マニアであり、こうなるともうディナーはたちまち時計OFF会のようになってしまう。
ゲストのひとりがショイフレ氏に自身の着用時計を見せると、たとえそれが他ブランドのものであろうとおかまいなく、素晴らしいものは褒め、さらにその機能について奥様にご説明を始めたりする。




●新作のレギュレーター。フェルディナント・ベルトゥーの歴史的マリンクロノメーターNo.7からインスパイアを受けたデザイン。オリジナルの図面と比較している画像はバーゼルワールドで撮影したもの。


そしてまた、ショイフレ氏はどんな質問にもにこやかに応じてくれた。なかには資本関係や後継者に関することなど、訊くのはいかがと思う質問もあったのだが、ドベリCEOは全然かまわずに通訳しちゃうし、ショイフレ氏もそれらに笑みを浮かべて答えてくれちゃうのだ。この両者の信頼関係も凄いと思った次第である。

もともと販売のためのディナーという意図もなく、実質は、スイスと日本の時計愛好家同士がコミュニケーションを深めるディナーというか、時計馬鹿が出会うとこうなるという典型的な宴となり、ビジネス的なプレッシャーは皆無のまま、デザートが出る頃にはショイフレ氏は席を移動し、参加者のほぼ全員と親しく時計談議に花を咲かせてくれることになった。


●友人たちの中では一番人気だったチタンケース・モデル



時計好きがこだわりぬいたとき、どのような時計が生まれるのか。
その答えをわたしたちは独立時計師と呼ばれる人々のパッションの中に追い求めてもいる。
しかし、独立時計師が突き当たりがちな、労働力や資金面の心配なしで、すべて満たされた環境が与えられたとしたら、どんな時計が生まれるのだろうか。
そんな、まったくの夢としか思えないような問いに対する答えのひとつが、「クロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥー」という作品に他ならなのではないだろうか。

もちろん企業である以上、投資した資金を回収して利益を生むことが前提なので、これだけの完成度の作品となると、おいそれと買えるような値段ではないのも事実だ。しかし、時計に魅せられた者の胸にぐさりと刺さるあの感情と感覚に溢れた作品であり、「クロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥー」はまさに、ショイフレ氏の率いるショパールでなければこの世に生み出すことのできなかった作品なのである。



まだまだ書きたいことは多々あるのだが、あまり書きすぎるとかえって伝わりづらくなることもあるので、今日はこの辺で我慢だ(笑)。





最後に、この素晴らしい一日に関わっていただいたすべての皆さま、カール‐フリードリッヒ・ショイフレ共同社長と奥様のクリスティン・ショイフレ氏、トーマス・ドベリGMをはじめとするショパール ジャパン・スタッフの皆さん、ヴァンサン・ラペール氏、そしてなによりも、この素晴らしい時間を共有してくれた我が時計馬鹿なる一番大切な友人たちへ、心からの感謝を述べたい。


ありがとうございました。





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