フェルディナント・ベルトゥー 「FB 3SPC」のムーブメントを「読む」~シリンダーひげゼンマイをコンパクトに収める

 By : CC Fan


いよいよ発表された、フェルディナント・ベルトゥー(FERDINAND BERTHOUD)の3つ目の柱となるクロノメーターFB3SPC
「初代」ベルトゥーに敬意を捧げた美しいムーブメントはもちろんそのまま、高精度を実現するアプローチとして、FB1のチェーン・フュゼとトゥールビヨン、FB2のチェーン・フュゼとルモントワールとはまた異なるシリンダーひげゼンマイを採用しました。

機構的にかなり面白いので、「いつもの」で見ていこう、となります。



マリンクロノメーターなどに使われたシリンダー(円筒)ひげゼンマイは通常の平面ひげゼンマイとは違い、円を重ねたような構造になっています。
通常の平面ヒゲゼンマイはアルキメデス螺旋と言う曲線ですが、これは様々な要因により回転に対して各周の変位が一定ではなく重心が移動・天真に垂直な力が発生するという欠点があり、これが姿勢差の原因となり、打ち消すための方法として巻き上げひげなどが知られています。
重心の移動は特に内側で影響が大きいため、より根本的に解決するためには相対的に直線性に優れる最外周だけを使えばいい、変位量が足りない分は縦に積み重ねて稼げばいい…と言う考え方から作られたのがシリンダーひげゼンマイです。


外端と内端はほぼ同条件になりますが、アルキメデス螺旋の同機能の部分に合わせて外端と内端と名前を付けています。
外端はブリッジに固定されたヒゲ持ちで支持され、内端は天真を挟んで固定するコレットに取り付けられています。
見ての通り、通常の平面ひげゼンマイに比べると縦に厚い構造であることが分かり、今まで腕時計に採用された時はどうしても厚みが出るか、テンワ(トゥールビヨン)部分が凸になっている構造になっていました。

FB3SPCではシリンダーひげゼンマイを採用しながら、ムーブメント単体の厚みを6.84mm、ケース厚み9.43mmと言うコンパクトなサイズに納めつつ、その機構を十分に堪能できる視認性も両立するという設計を実現しました。


ムーブメントを厚み一杯を使用し、シリンダーひげゼンマイを収めつつ、脱進機一式を正面から見るために反転型(と名付けた)レイアウトを採用しています。
通常、天真の受けの片方は地板になりますが、FB3SPCでは両方をブリッジにし、上下からブリッジで挟み込むという構造にすることでレイアウトと組み立て・調整の自由度を高め、シリンダーひげゼンマイの厚みはムーブメント地板の厚みに埋め込むことで通常の平面ひげゼンマイと変わらない位置にテンワが配置されているような位置関係になります。



さらに、シリンダーひげゼンマイが地板側にあることを利用し、通常地板側にあるテンプの振り座・ガンギ車・アンクルをブリッジ構造で文字盤側に可視化し、その動きを堪能できるようにしました。
通常地板側にあるアンクルの可動域を制限するドテピンもブリッジに埋め込まれていることが分かります。

シリンダーひげゼンマイ自体はベルトゥーの「アイコン」となったケースサイドの「窓」からそれが伸縮する様子を観察することができます。



テンワ・アンクル・ガンギ車は一直線になるようにレイアウトされ堂々とした「主役」として君臨します。
これを実現するための輪列を見ていきましょう。



見た目は「初代」ベルトゥーをリスペクトした古典的なデザインですが、「現在」の加工技術があって実現できた、と思えるのがこの構成です。
香箱と2番車までは文字盤側に配置され、上手く段をつけた構造でムーブメント側の3番車に伝わり、4番車からガンギカナまではムーブメント側を通り、ガンギ車で再び文字盤側に伝わるという構成になっています。

デザインの制約でガンギ・テンワ・アンクルを1直線にするという事から4番車がオフセットしているため、6時位置のスモールセコンドを実現のためにインダイレクト(間接駆動)スモールセコンドで3番車から別にスモセコを駆動しています。



3番車とスモセコ用4番カナは「噛みあっているだけ」のため、そのままではバックラッシ(歯車の遊び)によるふらつきでスモセコの運針が安定しないと考えられます。

そのため、3番車を2層構造にして二つの歯車の間でバックラッシを埋める方向に予圧(プリロード)を与えてカナのバックラッシを埋めるゼロバックラッシ3番車を採用しているようです。
計時輪列の4番車の方はトルクがかかっているためバックラッシは問題にならないのでおそらく片方にだけ噛みあっているものと思われます。
バネではなく、通過トルクも上手く予圧力に変換する方法?と睨んでいますが、詳細は特許を含め確認中です。

一見するとシンプルな2-4番車構造ですが、微妙に捻っています。



歯車のスポークにまぎれて見逃しそうですが、ストップセコンドは中央の輪列を上手く避ける形で配置され、テンワを押さえて止めるようになっています。



今回、初めてチェーン・フュゼを使っていないベルトゥーの作品となりましたが、香箱のレイアウトはFB1、FB2で使われ、特許も取得している懸垂香箱をチェーン・フュゼなし香箱用にアレンジしたような構造と理解しました。

とても興味深く、これは実機が見てみたい!!


https://www.ferdinandberthoud.ch/en/