フェルディナント・ベルトゥー「クロノメーター FB 3SPC 」~シリンダー型ヒゲゼンマイを新たに定義

 From : FERDINAND BERTHOUD (フェルディナント・ベルトゥー)



2022年、クロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥーはクロノメーターFB 3SPCを発表しました。コレクションの3つ目の柱となるこのタイムピースは、18世紀の著名な時計師からインスピレーションを得て、その名を冠したメゾンが彼の伝統を受け継ぎます。クロノメーター FB 3SPCは、フェルディナント・ベルトゥーが製作した歴史的なマリンクロノメーターの基礎を成す複数の構成要素を取り入れ、初めてシリンダー型ヒゲゼンマイを採用しました。



通常用いられる平ヒゲゼンマイと比べ、その卓越した安定性と等時性により、シリンダー型ヒゲゼンマイは、航海探検に使われたタイムピースの技術仕様のひとつでした。しかしながら、そのサイズと形状は垂直姿勢で歩度の誤差を引き起こす可能性が大きく、腕時計にはあまり適していません。クロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥーは研究開発に3年を費やし、可変慣性テンプとシリンダー型ヒゲゼンマイを搭載し初めてCOSC(スイス公式クロノメーター検定局)認定を取得したクロノメーター FB 3SPCを創作しました。これにより、最先端の計測機器に運命をかけて未知の世界へ探究の旅に向かった古の航海士たちのように、クロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥーは新たな知識の領域を切り開きました。 


EX LIBRIS FERDINAND BERTHOUD
(フェルディナント・ベルトゥーの蔵書からの抜粋-原点回帰)



クロノメーター FB 3SPCは、フェルディナント・ベルトゥーの甥であり後継者でもあるルイ・ベルトゥーにより1793年に完成された、10進法の時計N°26に着想を得ています。この高精度の懐中時計クロノメーターは、シリンダー型ヒゲゼンマイを備えていました。その技術仕様を高く評価していたルイ・ベルトゥーは、自身の最高レベルの作品と見なすタイムピースにこの機構を搭載しました。



シリンダー型ヒゲゼンマイの高精度で計時を可能にしている特性のひとつは、この部品が展開運動する際の動き方に基づいています。ヒゲゼンマイが同心性を保ちながら展開し、その振幅周期を通して重力の中心が変動せず、力学的により安定し外因の影響を受けにくい場合は、信頼性が高まります。これに反し、等しく展開しないヒゲゼンマイは、ヒゲ同士の間隔が不規則であり、伸縮時の動きが均等でなく、その重心が移動してしまいます。そうすると、天真のホゾ(テンプの軸の先端)に摩擦を生み、時計の計測能力を乱します。そして、エネルギーが減少した香箱(パワーリザーブの終わり)から動力が供給され、テンプの振り角が低くなっている際に、この現象はさらに顕著になります。

同心を保って同じ直径の円が連なる形状により、シリンダー型(または螺旋状)ヒゲゼンマイは、平ヒゲゼンマイと比べ、より優れた同心展開の特性を備えます。しかし、現代時計製造の知識によると、これは、シリンダー型ヒゲゼンマイの中心軸が地面に対し垂直となり、時計が水平姿勢の時に限ると明言しています。理論的には、平ヒゲゼンマイより重いシリンダー型ヒゲゼンマイは、計時誤差のリスクを高めます。この理由から、シリンダー型ヒゲゼンマイは、その最も優位な配置である水平姿勢を保つことができない腕時計への搭載は適さないことを意味します。

クロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥーは、この結論に満足しませんでした。むしろ、新たな領域を切り開く良い機会であると考えました。クロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥーの創設者兼社長であるカール-フリードリッヒ・ショイフレは、次のように回想します。「当初、シリンダー型ヒゲゼンマイを採用し、クロノメーター認定を取得するのは不可能だと言われました。そのことが、私たちを奮起させ、この挑戦に立ち向かうことへの原動力となりました。」



HIC SUNT LEONES
(ここにはライオンがいる-用心して進む)

機械式時計の製作は、半世紀にわたって存続する古来の芸術です。時計製造知識のほぼすべての分野において、広く認められた基準や工程が存在します。あらゆる分野に関するデータや分析の蔵書が存在し、ヒゲゼンマイの最適な化学構成や様々な合金の温度膨張係数など、難解な分野にも及びます。

この膨大な情報の中でも、未開の地のごとく他とは異なった分野があり、クロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥーの研究開発チームは非常に驚きました。その分野とは、どのようにシリンダー型ヒゲゼンマイを腕時計に適応させるかという研究でした。未知の世界に踏み入れる際、隠れた危険や予想外の障害が待ち受けていることを覚悟しなければなりません。チームは、ヒゲゼンマイ自体の形状が根本的な課題であり、この様な時計が«クロノメーター»認定を取得するための鍵であることを確信していました。他のすべてが未知数でした。クロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥーの時計師やエンジニアたちは、解決策が見つかるかどうかも分からない、不安で謎めいた道を歩み始めました。



クロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥーが行った最初のテストで、特別に製作した両外端にカーブを付けたシリンダー型ヒゲゼンマイをムーブメントに搭載しませんでした。その後、テンプの軸をヒゲ玉によってキャリバーの中に固定すると、チームはヒゲが非対称に展開することに気付きました。ヒゲ玉とその固定ピンにより加わった重量が原因でした。この問題に対する最も明確な解決策は、ヒゲ玉を軽量化し、ヒゲゼンマイの重心をずらすことでした。

一貫性のある数学の公式において、変数を1つ修正すると、必然的にその他すべてを適応させなければなりません。これにより、ヒゲ玉を軽くすると、両端カーブを設計しなおし、ヒゲゼンマイの中心のヒゲの固定点を移動させることが不可欠でした。ここでの目的は、ヒゲ玉にある中心の固定点とヒゲ持ちにある外側の固定点により定められた移動角度を維持することでした。



結果的に、ヒゲゼンマイの形状に関する研究と実験に、総計3年以上が必要でした。この3年間に、両端カーブをシミュレーションし、後にクロノメーター FB 3SPCで採用される確固たる基礎を築き、時計製造における新たな領域が切り開かれました。



TERRA NOVA, TERRA INCOGNITA
(未開の領域地-最初の地図を描く)

シリンダー型ヒゲゼンマイの調整について確固とした事象が稀有である状況に直面し、クロノメーター FB 3SPCの調整において、クロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥーの研究開発チームは、完全に白紙の状態からスタートせねばなりませんでした。そこで、このチームは、主に実験と分析に生涯を捧げたフェルディナント・ベルトゥーを模範としました。メゾンは、仮説の公式化、テストによる承認、反復による改良から成る、科学的手法を採用しました。



シリンダー型ヒゲゼンマイ搭載腕時計のCOSC認定取得の体系化を可能にする基本計画は、明確で緻密な段階を含みます。このようなシステムの調速において、参照できるものは存在せず、クロノメーター FB 3SPCそれぞれに、熟練時計師の経験とビジョンを必要とします。達成すべき目標は、機械設計においての完璧さ、エネルギーの均衡、高い計時性能です。

結果を見れば、それが明らかです。2023年、クロノメーター FB 3SPCのために製作されたムーブメントは、個々にCOSC(スイス公式クロノメーター検定局)の認定を取得しました。公式検定テストを受けたムーブメントは、全数の平均で日差2.08秒の結果を出し、検定局が定める―4秒から 6秒のちょうど真ん中に位置します。個別に見ていくと、これらのムーブメントの80%は日差が-1秒から 3秒内にあり、COSC(スイス公式クロノメーター検定局)の基準と比べ2.5倍優れています。
クロノメーター FB 3SPCは、偉大な伝統とフェルディナント・ベルトゥーの先駆者精神を讃え、精度の原理と機械時計製造の知識をさらに押し広げる意志を体現しています。



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[クロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥー]
フランス国王と海軍の熟練時計師そして機械師であったフェルディナント・ベルトゥー(1727年–1807年)は、王立協会と国立科学アカデミーのメンバー、および時計製造に関する多くの書物の著者でもあり、マリンクロックの設計と製作において広く認められています。これらのマリンクロックの高い精度は、大洋上での経度計算を可能にし、啓蒙時代の科学的な探求の発展に大きく貢献しました。
スイスのヴァル=ド=トラヴェールに位置するクロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥーは、社長のカール-フリードリッヒ・ショイフレ主導のもと、フェルディナント・ベルトゥー(1727年–1807年)自身が誕生したこの地で、フランス国王と海軍の熟練時計師そして機械師であった彼が究めた精度の追求を現代的な時計製造の解釈により表現します。
これらのタイムピースのデザインは、この熟練時計師が製作した経度時計や他の作品に着想を得ています。斬新なムーブメントは、長年にわたる研究開発の賜物であり、伝統的なノウハウと先端技術を活用し、クロノメーター精度については、COSC(スイス公式クロノメーター検定局)の認定を得ています。
2015年に発表された「クロノメーター FB 1」は、このコンセプトから生まれた最初のコレクションで、ピラー(柱)で支える構造が特徴的な“コンスタントフォース”と呼ばれるフュゼ・チェーン機構を備えるトゥールビヨンとセンターセコンドを搭載したムーブメントが現代的な八角形のケースの中で駆動しています。
2020年に発表された「クロノメーター FB 2」では、より伝統的なアプローチを提案し、そのラウンド型ケースは、フュゼ・チェーン式の伝達機構とルモントワール機構を組み合わせたムーブメントを内蔵し、文字盤中央にナチュラル・デッドビート・セコンド表示を可能にしました。
「クロノメーター FB 3」は、2022年に発表されました。シリンダー型のひげゼンマイを採用したテンプを備えた機械式ムーブメントにより駆動するこのタイムピースは、このレベルのムーブメントでは唯一公式“ クロノメーター”認定を取得しています。19世紀の懐中時計から着想を得た直径42mmの薄型ケースにより、調速機構を際立てるムーブメントの形状を堪能することができます。
毎年数十本のタイムピースのみが製作され、これらは完全にフルリエ(スイス)のクロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥーのアトリエで、時計製造業界で最も厳しいレベルの品質規準に準拠して開発製造、手仕上げ、調整が行われます。
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