フェルディナント・ベルトゥー W&W2022新作「FB2SM」実機レポートとステップセコンド機構を「読む」

 By : CC Fan

W&Wの会場で「初代」ベルトゥーの「精度の守護者」マリンクロックNo.14を展示したフェルディナントベルトゥー
。ニュースでは取り上げ損ねましたが、新作FB2SMも発表、新開発のステップセコンドムーブを搭載したモデルです。

先日、これの実機を拝見する機会が得られ、個人的に興味があったステップセコンド機構について「これは遊星歯車の変形なんだ!」という事が分かりましたのでレポートします。



新作のFB2SM(左)と既存モデルFB1R(右)。
FB2名義ではありますが、ルモントワールによるステップセコンドムーブメントではなく、FB1のチェーンフュゼトゥールビヨンムーブメントをベースに、センターセコンド4番車から「分流」させたトルクによって文字盤側のステップセコンド4番車を停止/解除することで1秒ステップ運針を行う機構です。
この機構は「初代」ベルトゥーが弟子を育てたエピソードになぞらえ、優秀な時計学校の学生と共に卒業制作として取り組んで完成されたものだそうです。

読み取りやすさを最優先にしたレギュレーター表示で、2時位置の時は「初代」ベルトゥーも採用していたディスク表示、安易なブランドでは針をディスクに換えただけで数字が逆時計回りになっていたりしますが、フェルディナント・ベルトゥーにおいてはそんなポカはもちろんありません。
ディスクが反時計回りに回転し、固定された針とディスクの相対的な回転方向は通常の時計と同じになります。

分は12時位置の針表示、これも「初代」ベルトゥーの意匠にならっています。
そして、「精度」の主役、ステップセンターセコンドが堂々と中心に据えられ、1秒ごとに鋭いセンターセコンド針が動きます。
FB1Rで文字盤側に設けられたていたパワーリザーブインジケーターは裏面表示になり、代わりに遊星歯車(差動歯車)を変形したステップセコンド機構がセンターセコンドを駆動している様子を観察することができます。
この機構がなにをやっているか、を「読んで」行きましょう。



連続(正確には1/5秒ステップ)して動いている9時位置の歯車からピニオンで力が伝わり、センターセコンドが非連続的に動いている様子が分かります。
この機構は、FB2REのルモントワールのように輪列全体が停止しているわけでも、よくあるステップセコンドのようにガンギ車から星車でタイミング情報を受け取っているわけでもなく、この機構自体が連続回転から自律的にステップを作っていることが一番の特徴と読みました。


さて、この機構は遊星差動歯車機構の変形です。
通常の遊星差動歯車機構は太陽歯車・遊星歯車・遊星キャリア・内歯歯車を組み合わせたものですが、遊星キャリアの可動範囲を制限する(内歯歯車と噛みあう位置を限定する)事で、内歯歯車を通常の歯車に変形しています。

動作シーケンスを順を追ってみていきましょう。
まず、入力された連続回転は太陽歯車を連続的に時計回りに回転させます、ステップセコンド車は遊星キャリアに連動されたストップ爪で止められているため、回転しません。
太陽歯車の回転は遊星歯車の自転と公転(遊星キャリアの移動)に割り振られて伝わり、遊星キャリアを引っ張っているバネ力にエネルギーが蓄えられます。
遊星キャリアが移動するとストップ爪が徐々にステップセコンド車の歯から外れていき、完全に外れるとステップセコンド車が一瞬フリーになります。
すると、バネに蓄えられたエネルギーで遊星キャリアが今までと逆向きに移動、ステップセコンド車を回転させると同時にストップ爪がステップセコンド車の次の歯に引っかかり停止させます。
この状態で、初期状態に戻り再び同じ動作を繰り返します。

ストップ爪が外れると同時にかかるバネ力の方向がステップセコンド車に爪を押し付ける方向であり、ステップセコンド車が回転しないと爪が動かないことから確実に外れた後は次の歯に引っかかる動作をし、ストップ爪が一つしかなくても複数歯一気に進むことは無いと考えられます。

ストップ爪の引っ掛かり方、遊星キャリアの可動範囲などを適切に設計することでこの停止解除が5振動(1秒)に1回起きるようにすることでこの機構はガンギからタイミングを受け取らなくてもステップ秒針を実現できます。
差動歯車の「差」としてエネルギーをチャージ、爪が解放されたタイミングでその「差」を転送して秒針を動かす、というイメージです。
内歯歯車を通常の歯車に変換したことで、軸間距離が微妙に変化しますが、可動範囲を最小にすることで影響を押さえているのでしょう。

聞き忘れましたが、遊星歯車の向かって左にある軸石はおそらく下側にある連続駆動の4番車(トゥールビヨン伝え車)から太陽歯車に回転を伝える伝え車…じゃないかと推測します。



「初代」ベルトゥーの筆記体で記されたレターにならった文字盤デザイン。
いくつかのレギュラー仕様のほか、オーナーが要望を伝えて製作するユニークピースの制作も可能だそうです。
ただし、それぞれの仕様は最終的にオーナーのショイフレ氏によって「フェルディナント・ベルトゥーという名前に相応しいか」の判断が成され、相応しくないものは作られないそうです。



文字盤のメタリックさが伝わりますでしょうか?
インデックス部は視認性最優先でホワイト仕上げです。



大きなケージを持つトゥールビヨン。
設計上はケースバック側から見る前提の作り(固定4番車が文字盤側にある)ので、個人的には文字盤の開口はない方が好ましい、と考えています。
パワーリザーブインジケーターも備え付けられています。



マリンクロノメーターのデザインから取り入れられた「窓」。
ピラー(柱)とプレート(板)構造で構成されたムーブメントの造りと、チェーンが香箱に巻き取られていく様子を堪能することができます。



「高精度」を証明するように、フェルディナント・ベルトゥーはコンプリケーションにもかかわらずきちんとCOSC規格を通しています。
この点も非常に好ましいポイントです。



素晴らしい!

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