デテント天文台クロノメーター(仮) 最小限の装飾と無銘の魅力

 By : CC Fan
デテント天文台クロノメーター(仮)、出会った時に最初に惹かれたのは言うまでもなく、最小限の装飾しか施していないレーシングマシンを彷彿とさせる"機能美"ともいえるムーブメントでした。



歯車の磨き上げなど機械的な抵抗を減らすために必要な加工はキッチリ行いながらも、ムーブメント全体としては最小限に見える一番の理由はコート・ド・ジュネーブやペルラージュなど全体に均一な装飾が施されていないためでしょう。

つまり、コート・ド・ジュネーブやペルラージュは"いかにも"過ぎて、"わざとらしい"と感じてしまい、嫌っているというめんどくさい個人的嗜好に合致したためということです。
ムーブメント素材は(おそらく)無垢の真鍮、加工後の寸法精度を最優先するためかメッキも行われていません。



ガンギ車周りの仕上げはわかりやすいです。
キッチリ面取りと磨きが行われており、決して仕上げを行っていないムーブメントではありません。
また、ブリッジや石が入っている穴の面取りもキッチリ行われています。

"いかにも"な高級ムーブメントよりも機械的な作りの正しさを優先したムーブメントの作りが魅力に感じました。
経年による曇りはありますが、洗浄によってピカピカになりました。



さて、ムーブメントに惹かれて契約しましたが、改めて文字盤側を見ているうちに、こちらにも惹かれていきました。



こちらの魅力はなんど書きましたが、ズバリ"無銘"であること。
時を示すローマンインデックス、分を示すレールウェイインデックス、スモールセコンドで秒を示すアラビアインデックス以外、余計な要素がなく、ロゴマークなどもありません。

当たり前すぎて気が付かなかったのですが、文字盤に入れられるブランド名・ロゴや機能を示すいくつものレターは時計の機能としてみると"邪魔"でしかない、ということを"無銘"のこの文字盤と比較することで初めて実感しました。
もちろん、懐中時計ではケース側に彫り込んでいたとか、水平分業でブランド名を入れるのは大変で汎用ラインナップから選んでいたとか、あくまで天文台クロノメーターに参加するための仮文字盤とか、様々な事情があり、無銘になったのは結果論かもしれません、しかし偶然だとしても完成した文字盤は抗いがたい魅力を持っていると感じます。

"あえての無銘"はH.モーザー(H. Moser Cie)が行っていますが、業界全体としてはマイナーな考えでしょう。
しかし、本当に良いものを作り、差別化できているのであれば、ブランド名のレターや60%しか保証していないSWISS MADEレターなどなくても魅力は伝わるというH. モーザーの主張は一考に値するのではないでしょうか?



さて、オーバーホールを行っている関口氏より、文字盤の素材はホーロー(琺瑯)らしいという情報をいただいています。
ホーローはエナメル(七宝)と同じくガラス質を含む釉薬を金属に振りかけ、高温で焼成させたもの、英語では両方ともエナメル(Enamel)で、慣習的に実用品に近いものを琺瑯、基台に貴金属を使ったり彫刻を施して工芸品に近いものを七宝と呼ぶようです。
これも"当時としては当たり前だった"ということだけで、現在のようにエナメルに付加価値をつけていたわけではなく、こちらも結果論でしょう。

ガラス質なので衝撃によって割れやすいというデメリットはあるものの、紫外線などに対する対候性は抜群、およそ1世紀たった今も褪せることのない美しい白色の文字盤です。

針も構造色を用いた青焼針(ブルースチール)、強固な酸化被膜によって光学的につくられる青色はやはり1世紀の時を経ても褪せていません。

無銘の魅力と書類が付属しない代償として正体がわからない問題はあります。
まあ、完品で予想されるように天文台クロノメーターだったとすれば私などが手が届くような値段ではなかっただろうと思いますので、その点は幸いともいえます。

このピースを通じて学んだ考え方は時計趣味を続けていくうえで、今後のコレクションの方向性にも影響を与えそうです。
つまりは、めんどくさい客が誕生したということで…

関連 Web Site

JUVAL HORLOGERIE
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H. Moser & Cie
http://www.h-moser.com/jp/

(参照)スイス時計協会FH WEBサイト
http://www.fhs.jp/jpn/strengthening.html