Kikuchi Nakagawa 「Murakumo」について ~目を閉じてフォーマルな時計の理想形を思い浮かべる。その光景がそのまま形になったような時計 by k.hillfield
By : Guest Blog『目を閉じてフォーマルな時計の理想形を思い浮かべる。
その光景がそのまま形になったような時計。』
Kikuchi Nakagawa 「Murakumo」について) by k.hillfield
●Kikuchi Nakagawa「Murakumo」(2018年発表)
腕時計の歴史を考えた時、実用性はクオーツ時計の登場以降飛躍的に進歩しました。
ムーブメントに関しては、仕上げを美しく見せるブランドも増えました。
しかし、外装はどうでしょう。
20世紀中盤に作られたドレスウォッチのクオリティと匹敵する現行品のドレスウォッチはいくつあるでしょうか?
先日、独立時計ブランドKikuchi Nakagawaの「Murakumo」を見せていただきました。この時計は時代を越えて、過去の時計師の作品と肩を並べます。
ケースのバランス、針の力強さは腕時計の黄金期の1930年代から40年代のものに匹敵します。
●著者の1944年製のIWCの時計と「Murakumo」
しかし、「Murakumo」をアンティークの時計と言うには違和感もあります。美しいブラックダイヤルに、正確にプリントされたインデックス、そして、横から見た際にケースを薄く見せるラインは現代的な印象を与えます。
そして、この時計の目を奪うのは磨き抜かれたケースと針です。ケースと針はブラックポリッシュで仕上げられています。アンティークの懐中時計においても、針がブラックポリッシュで仕上げられていると、それだけで愛好家を満足させるものです。ブラックポリッシュは作業中の繊細さを要求されますが、本作は針だけでなく、ケースにおいてもブラックポリッシュで仕上げられています。
現代のデザイン感覚、腕時計の黄金期の丁寧な細部、そして懐中時計の仕上げ。この時計は、過去の腕時計や懐中時計と歴史を共有し、愛好家の人も満足するフォーマル時計の理想形を実現したと言えます。
当日はムーブメントが入っていなかったのですが、ムーブメントはヴォーシェの6振動が入るそうです。ゆるやかなロービートが、この時計の外観を一層引き立てることと思います。
MURAKUMOスペック
自動巻き (6振動、パワーリザーブ48時間)
機能: 時分秒表示
直径: 36.8mm
ケース素材: ステンレススチール(ブラックポリッシュ)
【More information】
KIKUCHI NAKAGAWA
http://kikuchi-nakagawa.com
COMMENTS
コメントを投稿する
※ 匿名(ニックネーム可)での投稿も可能となっております。
コメントありがとうございます。
理想形を追求した上での外注という選択肢なのかなぁと思います。自身の描く理想形に基づいて各部品を選定し、外装部品に関しては仕入れた後、過去の懐中時計にも見られないレベルで丁寧なブラックポリッシュを加えているので、時計としての完成度は高いです。
ムーブメントは議論が色々あるかと思います。将来的には自分で作りたいというのはブランドとしてもあると思います。ただ、私としては自社製というプロセス自体を評価してもらうことよりも、いかに実用的で美しいかという結果の部分に念頭を置いていただき、今後もブランドとして発展していってほしいと願っています。
情熱はそれだけでも伝わります。
ただ独立時計師(メーカー)としてはそれだけ?とも思います。
外注のクオリティーこだわりも素晴らしいとは思いますが、ケース・文字盤・針・特にムーブメントは自作でやって欲しかったです。
勝手な想像ですが、時計作りの理想に到達する前に今出来る範囲で頑張っているように見えます。
(妥協してるように感じてしまいます)
ステップアップを期待しています。
コメントありがとうございます。
デザイン的には96に似ているところもありますね。また、ムーブメントをアウトソースしている点も含め、力を入れている外装はウルバンヤーゲンセン(フレデリックピゲ搭載の頃)を見たときのような感覚がありました。
外装の仕上げという点ではセイコーのザラツ研磨も素晴らしいです。ザラツ研磨とブラックポリッシュの違いとしては、ザラツ研磨は回転する砥石にケースを押し当てる職人技であるのに対し、ブラックポリッシュはダイヤモンドペーストやアルミナなどを錫板の上で磨く職人技です。見え方の違いとしては、ザラツ研磨は角度によって黒く見えるのに対し、ブラックポリッシュは角度によって鏡面に見え、普段はガンメタルPVDのように黒く見えました。
ブラックポリッシュに関しては、懐中時計の時代の時計に針など面積の少ない部分に施されているものは見たことありますが、ケースにまで施されているものを個人的に見たことがなかったので、そこにロマンを感じています。
また、針一つとっても、先端が曲げられ、丁寧にポリッシュされているものは現行品でもなかなかないのではないでしょうか。
私も日本ブランドとして頑張ってほしいと思っていますが、それ以上に、スイスの時計作りを誠実に継承し、作りの良さを求めてアンティーク時計に辿り着いた世界の時計愛好家たちに、現行品の素晴らしさを再認識させるような時計を永きに渡り作り続けてほしいと願っています。