突発的スイス取材紀行 ライネ ストイックな時計作りを支えるワークショップ

 By : CC Fan

突発的スイス取材紀行
、私は4泊、同行したノーブルスタイリング葛西氏は2泊というタイトスケジュールで"行って帰ってくる"と言った感じではありましたが、素晴らしい方々にお会いすることができ、行って良かったな…と言うのがまず感想です。

葛西氏に同行し、氏が取り扱いを決定決定しているブランド、逆に私が"これやろうぜ!"とリコメンドしているブランドやら様々なワークショップを巡ることができました。

今回は私が書いたバーゼルの記事の中でも、一番の反響があったライネ 2014年度ウォルター・ランゲ・ウォッチメイキング・エクセレンス・アワード最優秀賞の実力派が制作するベーシックウォッチのライネ(Laine)の工房レポートをお送りします。

葛西氏とは工房前で"現地集合"、この時はすでにカンタロスを受け取ってウキウキ。



ル・ロックル(Le Locle)の駅から十分弱、もともと時計学校として使われていたという建物の一室を借りているそうです。
現在は英語学校や貸しオフィスとして使われています。



いかにも学校と言った趣の廊下を通り、工房へ向かいます。



懐かしい感じの紙の表札…
小さい教室か倉庫と言った感じの角部屋です。



なかなか全景を写し込むのは難しかったのですが、広さのイメージは伝わりますでしょうか?
基本的に、ライネ氏一人が時計作りの各段階の作業するために最適化した机が複数作られている感じで、ライネ氏の前の机は仕上げを行うための作業机。
時計工具ブランドの製品も使われていますが、IKEAのライトなど汎用的な日常品もうまく組み合わせて"やりやすい"環境を作っているようです。



窓際には実体顕微鏡付きの作業台や、レーザー彫刻機が置かれています。
バックルやケースバックの文字はここで入れているそうです。
ケースはブランクをサプライヤーから仕入れ、一つずつ仕上げているそうです。



その横には設計を行うパソコンが置かれ、設計には3D CADを活用しているとのこと。
手前は軸の部品を作るための時計旋盤、一人で作業しているため、すれ違う動線確保というより最短距離で移れるようなレイアウトのようです。



きちんと整理整頓されています。



手作り感があふれるこの木箱は…?



何と、電解メッキ設備!
ジャムの瓶と市販のDC電源を使って自作しています。

この設備では下地となるニッケルメッキをかけるそうです。



仕上げのロジウム・ローズゴールド・イエローゴールドは電気を使わない無電解メッキで、メッキ液につけて化学反応で金属表面にメッキ層が析出しますが、反応性が高いので厳重に保管しています。



仕上げ用の机とパーツストック。
机の高さもライネ氏の身長・作業方法に合わせてそれぞれ最適な高さを作り込んでいます。



壁際には使用頻度の低い工具、資料、プリンターなどが並べられた戸棚が。



サンドブラスト用の砂や、それで仕上げを行う機械?も…



メッキ設備の横が、いわゆる時計師机で、組み立て中のムーブメントや歩度を測定するためのタイムグラファーが置かれています。
入り口近くにあるのはCNCフライス盤、ケースやムーブメント・ブリッジの下処理に使用するとのこと。

特徴的なブリッジの仕上げはサンドブラストで全体を荒らした後、CNCフライスで面とエッジを出し、最後は手仕上げで仕上げるとのこと。



CNCフライスには工具を自動的に交換するATCはついていないけど、用途的に必要充分なんだと思います。
あくまで求める時計を作るために、"使えるものは使う"というスタンスと理解しました。



CNCはノートパソコンで制御。
環境構築も自分でやっているそうです。



ノーブルスタイリングさんがオーダーしたムーブメント違い3台のためのムーブメントが完成済みでした。
"これを完成させて送ったらバケーションに行く”…と言うのは半ば冗談かと思っていましたが、22日の月曜日に届いたそうです(後述)。



窓際には耐熱ガラスが置かれた机が…?



そう!なんと、焼成を行うグラン・フー・エナメル文字盤の内製に挑戦しているとのこと。
電気釜や研磨のためのグラインダー、エナメルパウダーをすりつぶす乳鉢…

文字盤のギロッシェも自分で行っており、様々な表現に挑戦したい…と言うモチベーションがあるそうです。
一部のガルバニック処理だけは外注ですが、文字盤の製造はほとんど内製化しているそうです。

ムーブメントも汎用ベースとはいえ、ブリッジはほとんど作り直し、ケースもブランクから磨くのは自前、文字盤も自前…まさに、ストラップ以外"全部俺”な時計作りです。

個人的にすごくひかれたサプライズがこれ。



この時点で結構いい感じのグリーンなのですが…

なんと、見る角度によって色が変わる!
実物は動画よりももっとはっきりと色が変わり、より鮮明な色合いです。

これは構造色という仕組みで、色(色素)があるわけではなく表面の薄膜による光の干渉で緑色の波長が増強されているために緑色に見えており、斜めから見ると光がとおる経路の長さが変わることで増強される波長が変化して色が変わる…と言う仕組みです。
時計で有名な"青焼き"と同じ仕組みで、あれも酸化鉄自体が青いわけではなく酸化鉄の薄膜が青色だけ増強しているので青く見えるわけです。
この処理はサプライヤーによる特別なPVD加工によってつくられるそうです。

浮つくことなく、ストイックに時計を作っているな…と言う工房で、本人も極めてまじめです。
同じフィンランド出身のヴティライネン先生を彷彿とさせる温厚な人柄ですが、時計作りに関してはかなり頑固で自分の理想を無心で追っている…と言う印象です。



さて、前述のとおり3本の時計が月曜日に入荷したとのことで、今週末に拝見させていただこうかと思っていますが、少なくともバーゼルで拝見した時でも充分なクオリティと感じ、この"全部俺"な時計作りを見た後だとその印象はさらに高まります。

バーゼルの記事、ツイッターでもお伝えしましたが、これだけやっていて、価格は78万円(税別・カスタムオーダーは相談)に決定したとのことで、数を作っているのか?と思いきや、ムーブメントを作り直す部品製造の手間がかかるため、年産は20~30程度とのことで、なんかもうすごいな…と言う印象以外ないです。

当面は、恵比寿のノーブルスタイリングギャラリー専売の予定だそうなので、気になる方は是非!
時計本体についてはバーゼルのレポートもあわせてご覧ください。

…と言うか、私も欲しいぐらいです。

関連 Web Site

Laine Watches - Independent watchmaker in Switzerland
https://www.lainewatches.com/

Noble Styling
http://noblestyling.com/