A.ランゲ&ゾーネ「オデュッセウス」の新設計アウトサイズデイトを探る

 By : CC Fan


満を持して発表された
A.ランゲ&ゾーネの新ラインナップ「オデュッセウス」。

この時計ができるまでの歴史的な変遷や意義は、まず編集長のブログをご覧いただくこととして、
https://watch-media-online.com/blogs/2670/

私は機構的な所をレポートしたいと思います。

外部からの振動や衝撃が加えられたとしても安定した歩度を確保するため、8振動/秒(28,800振動/時)の高振動が与えられたことはすでに述べられていますが、ブランドのアイコンとなっているアウトサイズデイトも衝撃に対する新しい構造が与えられている…と理解しました。
アウトサイズデイトは、スポーツ・ウォッチとしてのタフな使い方には構造上の不安がぬぐえなかったのではないかと推測されます。

では、まず既存のアウトサイズデイトの仕組みを見てみましょう。
ランゲ公式で非常にわかりやすい動画があるため引用します。



31歯(31日=1か月=従来のカレンダー表示に相当)の歯車に10の桁と1の桁のプログラム歯車が重なっています。
プログラム歯車は、数字を進める箇所にのみ歯が立っており、10の桁は09→10、19→20、30→31、31→01の時のみ10の位クロスを進めます、逆に1の桁は基本的に毎日進めますが、31→01の時だけ進めないことで01を表示します。
歯の形状、特に10の桁は必要な時だけ噛みあう設計で、噛みあっていないときの固定は図示されていない規制バネの張力によっています。

言い換えれば、規制バネの張力以上の衝撃が加わるとズレる可能性があり、ドレスウォッチであまり強い衝撃が加わらないランゲ1では問題にならなかったかもしれませんが、より強い衝撃が加わった場合には耐えられない可能性があります。

これに対し、オデュッセウスのアウトサイズデイトはより衝撃に対する安全機構を加えています。



先程の動画とはずいぶん異なる設計です。
1の桁ディスクが大きなリング状になり、0-9の組み合わせが2組あることがわかります。
肝心の輪列は筒カナを覆うプレートの下に隠されています。

全体の分解図を見てみましょう。



ベースの自動巻きムーブメントの文字盤側に、日付・曜日表示プレートが追加されて組み立てられている様子がわかります。

面白いのは曜日ディスクがムーブメントからはみ出しており、それに対し、ケース側が凹んで逃がしを作っていることです。
このような難しい構造にしても、アウトサイズデイトと曜日の文字を同じサイズにした対称デザインにしたかったのだろうと思われます。

先程のアウトサイズデイトと比べても機構が増えているのがわかりますでしょうか?
日付・曜日表示全体で99個の部品、ということで複雑な機構のようです。



キャプションと補助線を入れました。
プログラム歯車の基本的な作りは同じですが、ディスクとの間に”ゼネバ機構(Geneva drive、Maltese cross)”状の歯車が追加されています。

かみ合っていれば両方向からの力を伝えることができる通常の歯車と異なり、ゼネバ機構の歯車は適切に設計すれば、”片方向からは回せるけど、もう片方からは回せない
”(バックドライバビリティがない)という性質を持たせることができます。
この性質により、ディスクに衝撃が加わっても、力の逆流をゼネバ機構部分で止め、ディスクを動かないようにしたうえで、衝撃を比較的脆弱なプログラム歯車まで伝えないようにしています。



上からみた図です。
10の桁のゼネバ機構で左から右への回転は伝達できるけど、右から左へは伝わらない…と言うのがイメージできますでしょうか?
左から右では左側の歯が90度回転すると、右側に適切に引っかかって90度ずつ歯を送りますが、右から左では引っかかる歯がないため力が伝わりません。
左側の歯はプログラム歯車によって90度ずつ回転するため、日付が進んでいる瞬間以外はかみ合いが存在せず、右から左へは力が逆流することはありませんし、日付が進んでいるときは24時間車から駆動されているときなので逆流したとしても打ち消すことができます。

1の桁も似たような構造で、回転しているとき以外は力が伝わりにくい形状、さらに4つあるスロット(溝)の一つに規制バネで押さえを入れて安全性を増しています。

1の桁リングは外周部の3点で支え、衝撃による曲がり対策をしています。
また、10の桁と1の桁の重なりも最小にして、ディスク同士が擦れるリスクを低減しています。
逆に、曜日ディスクは筒カナギリギリまでの大径サイズと、ケースに食い込む構造とかなり攻めた設計になっています。

細かい点として、24時間車とプログラム歯車は時計回り・反時計回りのどちらでもかみ合う構造になっているため、時間を戻せば日付と曜日も戻すことができ、タイムゾーンの移動時に便利です。



上記の設計により、衝撃が逆流せず、タフに使えるアウトサイズデイト、それと対称の位置に配された曜日表示が実現されました。
間違いなくブランドを象徴するアイコンであるアウトサイズデイトに対する、ランゲの並々ならぬ情熱の表れでしょう。

また、非常に大きいスモールセコンドは秒単位の精度を追求したマリンクロノメーターや天文台クロノメーターからの意匠でしょう。
英雄の名前を冠した”冒険”にふさわしいディテールではないでしょうか。

賛否両論、いろいろな意見が出るでしょうが、機構に関しては”ありもの”の流用ではなく、要件を満たすためにしっかりと新規開発をして作ってきたと感じました。
まだまだ推測ベースのところも多いので、続報あり次第追加します。

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