グルーベル フォルセイ ディファレンシャル イクアリティー スフェリカル・ディファレンシャル・デガリテ コンスタントフォース機構を探る

 By : CC Fan

議論から発展し、理解に至ったグルーベル フォルセイのダブルテンプ
、掲載連絡を送った本国担当者からも「日本語は読めないが、図から我々の考えを理解しているという事は感じる」というありがたいお言葉を頂くことができました。
グルーベル フォルセイには同じくスフェリカル・ディファレンシャル(球状差動歯車機構)を使ってコンスタントフォース機構を実現した、第5の発明「ディファレンシャル・デガリテ」があり、議論の結果、ダブルテンプに続き、何とか全容が把握できたのでレポートします。



2018年のSIHHの新作として発表されたディファレンシャル イクアリティー、「ダブルテンプの片側を脱進システムにすればステップセコンドとルモントワールが実現できる」という割とふんわり説明で理解できるようなできないような…という説明でしたが、今回ステップバイステップで追いました。



一緒に拝見した、EWT(Experimental Watch Technology)開発プラットホームのディファレンシャル・デガリテ、てっきりこの構造ベースだと思い込んでいたのですが、これとは全く別の構造でした。
ちなみにこちらはルーローカムでレバーを振って脱進を行う古典ルモントワールに近い構造です。

ダブルテンプと同じく、ニュートラルな目で見ていきましょう。



まずは、全体のトルクの流れ(トルクデリバリー)を見ていきましょう。
香箱からの出力はオフセットした2番車で加速され、ディファレンシャル・デガリテを構成するデフ(3番相当)に入力され、2系統に分岐されます。

片方はルモントワール出力として定力化されR4(R:Remontoire:ルモントワール)番車からガンギに伝わり定トルクで脱進動作を行い、高精度を実現します。
もう片方はD4(Direct:直結)番車からD5番車、D6番車とさらに加速され、最終的にR4番車から駆動されるRE(Remontoire Escapement:ルモントワール脱進車)によって1秒に1回輪列が解放され回転、デフにセットされたスプリングにトルクをチャージする動作を行います。
ルモントワール脱進車と直結輪列の回転方向を合わせ、なおかつ直結側を加速させてトルクを弱くすることで「押し負けない」ような構成にしていることが分かります。

ルモントワール脱進の効果によってD4は1秒に1回動くステップ動作をしているため、ここに針を取り付けることでステップセコンドになります。



ケースバック側には後述するストップセコンドとゼロリセットを実現するためのブラックポリッシュされた大型レバーおよび「碑文」が記されたブリッジがありますが、穴石も見えるためトルクデリバリーを追うことができます。



ダブルテンプほど難解ではありませんが、時分針の構造も見てみましょう。
グルーベルが得意とするインダイレクト(間接)駆動で、計時輪列とは別に表示用の2番ピニオンが香箱に噛み合っていることが分かります。
これにより、2番車をムーブメント中心からずらすことができ、レイアウトを最適化することができます。



正面から見ると、計時用と表示用2番ピニオンが香箱に噛み合う様子が分かります。

ダブルテンプ同様、ここまでは「前座」です。
いよいよ、スフェリカル・ディファレンシャルによるコンスタントフォースを見ていきましょう。



スフェリカル・ディファレンシャルの構造を改めて確認します。
上下のクラウンギアをキャリアに取り付けられたピニオンギアによって連結した構造で、上部クラウンギア・ピニオン(サテライト)キャリア・下部クラウンギアの間で3つの回転を分配・合成することができる機構です。
ダブルテンプのスフェリカル・コンスタント・ディファレンシャルではピニオンキャリアを入力にし、上下のクラウンギアに回転を分配していました。

ディファレンシャル・デガリテではどうなっているでしょうか?



左がスフェリカル・ディファレンシャル・デガリテ、右がスフェリカル・コンスタント・ディファレンシャルで、同じノーマルなスフェリカル・ディファレンシャルの各部がどの部分に対応するかを線で示しました。

もっとも引っかかったポイントとして、コンスタント・ディファレンシャルの方は3要素に平歯車が取り付けられて1入力2出力に使われているのに対し、ディファレンシャル・デガリテの上部クラウンギアはルモントワールスプリングの巻き上げだけに使われ、外部には出力されないという事です。

カタログから読み取った部品数によると、ディファレンシャル・デガリテは24部品で、4石と3つのサテライトを含み、コンスタント・ディファレンシャルは30部品で構成されます。
コンスタント・ディファレンシャルもサテライト(ピニオン)は3つなので、6つの部品の差は上部クラウンギアに平歯車が取り付けられていないこと、スプリングが1つのみという事の差でしょう。



2番車からの入力はそのまま直結出力になり、ルモントワールの制御に使われます。
デフによってスプリング巻き上げとスプリング経由の出力に力が分配され、上部クラウンギアで巻き上げ、サテライトキャリアからスプリング経由の出力が取り出されます。



概念的な断面図で、色は他の図と合わせてあります。

2番車からピニオンに入力されたトルクはそのまま直結出力でルモ制御側に加わっています。
直結出力(ルモ制御側)の末端がルモ脱進機によって解放され、一定量回転するとピニオン経由で上部キャリアが回転、回転数の差が生まれ、ルモントワールスプリングにエネルギーがチャージされます。
直結出力(ルモ制御側)の末端がルモ脱進機によって停止されているときは、直結出力は回転しませんが、ルモントワールスプリングのテンションが上部とサテライトキャリアの回転数の差を減らすように動かし、定力出力(ルモ出力側)に定トルクを出力します。
定トルク出力によって脱式機が動き、4番車が一定量回転すると再びルモ脱進機が解放、エネルギーを再びルモントワールスプリングにチャージし、同じことを繰り返します。
ルモ脱進機はテンワの6振動ごとに解放されるように調整されており、すなわち1秒に1回エネルギーが再チャージされることになります。

悩んだのは、この構造であればわざわざディファレンシャルを使わなくても、下部クラウンギアとキャリアを直接ヒゲゼンマイで繋げば、ほぼ同じことができ、上部キャリアは要らないのではないか?という事です。
眺めていて思ったことは、単純な同軸構造よりも、サテライトピニオンがクラウンギアを支えてくれるデフの方が精度が良いことや、歯車の間にルモントワールスプリングを配置することはできないので、より構造が複雑になってしまい、それよりも作りやすいなどの説が考えられます。
ルモントワールで問題になる、「トルクが抜けきるとデッドロック状態になり再起動できなくなる」を解決することもできる…?

この構造から1秒ごとに動くステップ回転と1/6秒ステップでスイープ状に動く二つの回転が得られます。



ルモントワール出力のスイープと直結出力の1秒ステップの二つのスモールセコンドがあります。
大きさ的にも、「メイン」は1秒ステップの方であり、スイープはあくまで動作インジケーター的な役割と考えられます。
ステップの方はリュウズを引くことでゼロにリセットされます。



高さにも差が付けられており、ステップの方はメインのダイヤル上、スイープの方は機構内に配されています。



スモセコ同様、4番車も二つあるのは既に述べた通り。
直結4番車から直結5番・6番を経て定力4番車付近でルモ脱進を行うはずですが、その機構は可視化されていません。



定力出力に噛み合う定力4番車は傾斜ガンギに噛み合うために斜めに歯が切られたテーパーギアと、ルモ制御を行うルモ脱進用星型歯車に噛み合う平歯車の二重構造になっています。



直結出力に噛み合う直結4番車は文字盤側からわずかに見えます。
リュウズを引いたときにストップセコンドで動作を停止させるためのブレーキ及び、ゼロリセット用のハートカムが重ねられています。


ムーブメントの裏面全体に配されたレバーメカニズムによって、リュウズを引き出すとストップセコンドでテンプが停止、ステップセコンドのハートカムをハンマーが叩いてステップ秒針をゼロにリセットします。

今回、ルモの構造も含め改めて向き合ってみたディファレンシャル イクアリティー、精度への追及という点で個人的にはグルーベルの中でかなり上位にランクインする名作だと思います。



じっと眺めればわかるものですね…

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