グルーベル フォルセイの"発明" 第4の発明から第7の発明

 By : CC Fan
イベントも大盛況だったグルーベル フォルセイ(Greubel Forsey)、以前の記事で基幹を成す"発明"について第1から第3のトゥールビヨン3部作について解説しました。
これらは、"発明"という意味の名前を持つ、インベンション ピース(Invantion Piece)として、その機構を最もよく見せる構造が与えられたデモンストレータが作られています。

対して、第4から第7の発明は独立したインベンション ピースは作られていませんが、それぞれの作品に応用されています。
こちらも公式ホームページにOur Inventions(私たちの発明)として記載されている順に見ていきましょう。

第4の発明 Balancier Spiral Binôme(二項式テンワとヒゲゼンマイ)

テンワとヒゲゼンマイの天敵は温度変化と磁気です。
温度変化によるパラメータ変化により、テンワの慣性モーメントとヒゲゼンマイの弾性が変化し誤差の要因となります。
また磁気を帯びてしまうと、磁力がテンワに働き、予期せぬ外力となって共振の妨げとなってしまいます。

これらの問題を解決するためには温度変化で物性が変化せず、非磁性の素材でテンワとヒゲゼンマイを作ればよいことになります。
また、同じ素材が使えれば素材のマッチングという点でもよいと言えます。

この分野で普及が進んでいるのはシリコンですが、グルーベル フォルセイでは合成ダイヤモンドを使うことを検討しました。
ダイヤモンドは純粋な炭素の結晶であり、極めて安定しています。
非磁性であり磁気帯びすることもありません。

詳細は不明ですが、シリコンと同様に通常の機械切削加工でインゴットから加工するのはおそらく不可能であり、科学・物理的な処理によって形状を作っているのではないかと思われます。

第1から第3までと第5から第7の"発明"はそれぞれ実機に搭載されていますが、これだけはまだ搭載したピースが出てきていません。
ダイヤモンド素材だけであれば、ナノ フドロワイヤント デモンストレータ2のピボット(軸受け)に使われていますが、実用ピースではありません。
イベントで伺ったステファン氏曰く、まだ、グルーベル フォルセイが求める基準には到達しておらず、作品としてはまだ発表できないそうです。
素材を考えるとテンワ周りが透明になり、非常に魅力的な見た目になりそうです。

第5の発明 Différentiel d'Egalité

今年の新作、ディファレンシャル イクアリティーに搭載されたコンスタントフォース機構です。
発表されるまでは第4の発明に並んで搭載機種がない"発明"でした。



上流からのトルクを一旦ヒゲゼンマイに蓄え、EWTのプロトタイプでは5秒ごと、ディファレンシャル イクアリティーでは1秒ごとのチャージ以外はヒゲゼンマイに蓄えられたエネルギーでテンワを動かすことで歩度を一定に保つ機構です。

特徴的なのはエネルギーの貯蔵と振り分けを行う部分にグルーベル フォルセイがよく使う球状差動機構(spherical differential)を使っていることで、古典的なコンスタントフォースより力の切り替えがスムースになっているそうです。
差動歯車を使っていることなどを含めるとグロネフェルド(Grönefeld)のものと比較してみたいです。

第6の発明 Double Balancier(ダブルテンプ)

トゥールビヨンが姿勢を変化させ続けることによって姿勢差を打ち消すという考え方だったのに対し、異なる姿勢の平均を取って姿勢差を打ち消すという考え方がダブルテンプです。



二つのテンワは異なった条件で取り付けられており、それぞれの誤差が同じ方向がに出ないようになっており、平均をとることで多くの姿勢で打ち消すような設定になっています。

コンスタントディファレンシャルによってトルクの偏りの問題も解決しているため、二つのテンワに対し均等な力を与えることができます。

第7の発明 Le Computeur Mécanique (メカニカルコンピュータ)

QPイクエーションに搭載された機械式コンピュータと呼ぶべき機構で、同軸構造の歯車が重なったような構造です。



この歯車はそれぞれが曜日、日付、月、大の月・小の月、うるう年の機能を持っており、全てが歯車のかみ合わせのみで動作します。
このことにより、月末に行う早送りの動作もかみ合わせだけで行われるため、レバー式で逆方向の動作を想定していない永久カレンダーと違い、逆戻しすることも可能です。
1年で1周する歯車を使い均時差も表示します。
さらに外部に4桁表示の年数カウンターを設けることで、曜日や月の個別調整を行わなくても順送りと逆戻しだけで"今"に合わせればよいという使いやすい機構になっています(逆戻しができて、利便性が向上した以外はIWCの永久カレンダーと同じ考え方)。
この考え方のおかげで、修正用のコレクターは一切なく、調整はリュウズ同軸のプッシャーで時分(HM)と永久カレンダー(QP)のモードを切り替え、リュウズを引いて調整するだけです。
ステファン氏自ら"こんなに早送りしても問題ない!"と結構なスピードで動かしていたのが印象的でした。

行っていることの複雑さとしてみるととしてシンプルな25部品で構成されていますが、開発に8年かかり、3つの特許が取得されています。

この記事を書いていて気が付きましたが、グランドソヌリは"発明"に入らないようです。
これは基本的にはセキュリティと周辺技術の改善であり、機構そのものも改良しているとはいえ古典の踏襲なので"発明"ではない…と理解しました。
個人的にはグランドソヌリよりもQPイクエーションの方が"グルーベル フォルセイらしい"と思いますし、永久カレンダーはあまり好みではないのですが、あれは欲しいと思いました(お値段は…)。
これは構造を可視化したインベンションピースを作ると映えそうですが、いかがでしょう?

イベントの質疑応答で、"スマホなどの進歩により正確な時刻がどこでも手に入るようになっているのに、精度にこだわる意味はあるのか?"という質問に対し、ステファン氏は"挑戦は山登りのようなものだと思っている、機械式の限界はまだまだ先にあり、私はそれを見るために挑戦していきたい"と答えていたのが印象的でした。
個人的には古典をそのまま作るのではなく、このような"発明"を次々に出してほしいと思います。

関連 Web Site

グルーベル フォルセイ
http://www.greubelforsey.com/en/

カミネ旧居留地店
http://kamine.co.jp/shop/maison/