アントン・スハノフ ファロス 動画&詳細レポート

 By : CC Fan
「緊急開封会」をお伝えした気鋭のロシア人ウォッチメーカー、アントン・スハノフ(Anton Suhanov)。
3月24日の開封会は急でしたが、当初の予定通り「納品会」と撮影、「日本ラウンチのお祝い」を納品会の次の日(3月25日)に執り行うというファロスウィークともいえるスケジュールでした。

というわけで、より詳細なメカニズムを見ていきたいと思います。
まずは百聞は一見に如かずという事で動画を。



可能であれば、フルHD(1080p)かつ全画面でご覧いただくとより迫力が伝わるかと思います。
この動画で充分…とも思いますが、詳細を見ていきます。



今回は気合を入れてという事で、ノーブルスタイリングさん提供のライトボックスでの撮影。
動画で微妙に黒いのが映ったりはしましたが、いつもよりもすっきりとした写真になります。



改めて全容を。
アレクサンドリアの大灯台をモチーフとしたデザインで、最上部に灯台の投光器をイメージしたスーパールミノバ入りのテンワを持つ3Dトゥールビヨン、その周りには24時間表示+地域名のいわゆるルイ・コティエ式のワールドタイマーが配置さています。
その下には、時分表示があり、ワールドタイマーの24時間表示と時刻の12時間表示は常に同期しており、時差設定は地域名のリングを動かすことで行います。
さらに下には時刻設定用のカギ穴、そしてその下に巻き上げることで「帆」が飛び出てくるパワーリザーブインジケーターが備えられています。
これとは別に、180度反対の裏面に巻き上げ用の大きなカギ穴が設けられています。

筐体は磨き上げられたステンレススティール、メインはサテン仕上げ、1段飛び出た部分は鏡面仕上げになっています。
PHAROSという時計の名前や、地域名は独特のフォントで記され、全体が統一した世界観にまとめられています。



角度を変えて。
パワーリザーブインジケーターはフルではなく、半分ぐらい?の巻き上げ量。
インジケーターやカギ穴の工作精度も高く、日常的に使っていて埃を噛みこんでしまう心配はなさそうです。

ステンレススティールの素材は不明ながら、均一で磨き上げられ、ずっしりとした(5Kg)存在感、隙のない仕上がりと感じます。



何はともあれ3Dトゥールビヨンでしょう。
基本的にはヴィアネイ・ハルターのディープスペーストゥールビヨンと同様、「4番車を固定にし、その周りをケージに載せた脱進機構一式を回転させる」というトゥールビヨンの基本原理を素直に3軸に展開したものになります。

最外はベース部分が回転し180秒で1回転、この回転によってクラウンギア状の固定歯車と中間ケージの駆動歯車が噛みあい、中間ケージが60秒で1回転します。
この中間ケージが60秒で1回転するという性質を活かし、歯車は両方向から見える60秒計(ペリフェラル・セコンド)として秒表示も行います。



中間ケージが回転すると固定歯車に噛み合った2枚の中間車を経てトゥールビヨンの駆動歯車に到達し、最内トゥールビヨンが駆動されます。
最内の脱進機が脱進制御を行い、1秒かに5振動で振動し、トゥールビヨン周期を33.75秒に制御することで全体が設計された速度で回転するという仕組みです。



ペリフェラル・セコンドの歯車は同じ方向に回転するため、そのままではロックしてしまい、トゥールビヨンは回転できません。
よく見ると現在こちらに向いている方の内側にはボールベアリングが仕込んであり、この歯車はトゥールビヨンを駆動せず、ただ単に秒の表示だけを行っています。
支える軸自体はトゥールビヨンと共通にし、回転だけをボールベアリングで伝えなくする設計です。
上側の矢印状のパーツが指す秒数はもちろん2つの歯車で同期しています。



中間ケージの構造がわかり易い角度。
下から、動力を伝える中間車とトゥールビヨン駆動歯車、固定歯車、最内ケージ下部、テンワ、最内ケージ上部、と言う構造が中間ケージに挟まれています。
中間ケージの上側に見える二つの突起はスタティックバランスを調整するためのカウンターウェイトだと思われます。
無対策だと、中間車がある側が重くなるので、これで調整しているのでしょう。
もちろんずれないように止めネジで固定されています。



よりボールベアリングがわかり易い角度を。
最外の180秒は中間の60秒の3倍なので、常に最外と中間は同じ位相関係で回り、ペリフェラル・セコンドは同じ方向から見ていれば常に同じ表示になります。



トゥールビヨン機構を見渡せる角度から。
3Dトゥールビヨンは「死角」がないため、全ての面を美しく仕上げないといけないという意味で非常に困難な機構ではありますがもちろんしっかりと作られています。

また、細かい点として先程のカウンターウェイトの固定も止めネジでしたが、各軸の固定も止めネジによる固定が採用され、圧入のように何回か抜き差しするとダメになってしまうことを防いでいます。
地味な点ですが、長く使えるという事を志向している構造に感じました。



こちらは中間ケージを駆動している側。
反対側と違い軸にボールベアリングがなく、直接軸に繋がっています。



カッコいい角度も。
オーナー氏曰く、「メカメカしくて気に入っている」と言うデザイン。
もちろん歯車に至るまでしっかりと面取りが成されており、仕上げには一切の手抜きはありませんが、過度に装飾的でもなく武骨さも感じます。



逆サイドも。
動いているところを見ていて破綻が無いのはもちろんですが、こうやって写真に収めたもの200枚以上を眺めてもどれも破綻していない素晴らしい仕上がり。



最内ケージにはANTON SUHANOVの名前が誇らしく刻まれています。
最外と中間の周期が60の倍数の関係なのに対し、内周は33.75秒で1周と少し余りが出ます、中間が60秒で1周する間に内周は60/33.75=6000/3375=16/9周の関係なので、中間が9周回って最内が16周回るまで、同じ位置には戻りません。
割り切れない数にして誤差の分散能力をあげていると考えられます。

スペック上の石数が27石ですが、見えている部分を数えてみるとテンワの軸(2)、アンクル爪石(2)、アンクルの軸(2)、ガンギの軸(2)、最内トゥールビヨンの軸(2)、中間車1の軸(2)、中間車2の軸(2)、中間トゥールビヨンの軸(2)で、16個をトゥールビヨンで使っています。
逆にスペック上のボールベアリング数は11個ですが、見えているのは1個のみです。



カギ巻きですが、3Dトゥールビヨンを駆動するためと8日間パワーリザーブのためか、巻き上げは非常に重く、この高トルクを支えるために内部の駆動用の輪列はほとんどボールベアリングが使われていて、ルビーが使われているのはそこから分岐した文字盤表示やワールドタイムではないか?という予想です。



巻き上げはこのように手を添えて行う必要がありますが、「重いけど硬くない」と言う感触で純粋なバネ力が手にかえってくるのでしっかりと巻き上げる…と言った形になります。

これはノーブルスタイリング葛西さんにモデルをやってもらったの図。
私も巻き上げさせてもらいましたが、これを1週間に1回の楽しみと捉えられればよさそうです。



夜光の撮影は非常に難しく、オフィシャルムービーの様にはいかず…
肉眼で見るともっとはっきりと光っているように見えます。



ISO感度をあげすぎ…?



展示ケース内でライトアップの図。

素晴らしい作品で、これにインスピレーションを感じてオーダーしたというオーナー氏の慧眼には感服するばかりで、オーナー氏も交えて話は尽きず、こんなご時世ではありますが、閉店時間後「日本ラウンチのお祝い」が、隠れ家的ロシア料理店で行われました。



ロシアはマヨネーズの消費量が世界一とのこと。
アレンジはされているのかもしれませんが、非常に美味しくいただけました。



ロシアワインとソ連邦の手作りコースター。



もちろんウォッカ(Vodka)も。



こういうものがかけてあるので許可をもらい…



オチ担当。



さて、これが実質的な1作目という事を考慮しなくても、すさまじい完成度を実現していると感じるファロス。
納期も守り、ちゃんと動く、ノーブルスタイリング山口氏曰く、「ロシア、ちゃんとしてるでしょ」というロシアの底力を見せつけられた印象です。
動画でもスゴ味はある程度伝わりますが、とにかくこれについてはぜひ実機を見てほしい!です。

関連 Web Site

Workshop ≪ANTON SUHANOV≫
http://www.anton-suhanov.com/

Noble Styling
http://noblestyling.com/