MB&F 「レガシー・マシン シーケンシャル エヴォ」のツインバーターシステムと独創的なクロノ輪列を「理解」する

 By : CC Fan


ニュースを掲載
した、MB&F初のクロノグラフ作品レガシーマシン シーケンシャル エヴォ(Legacy Machine Sequential EVO)。
ユニークな「ツインバーター」バイナリ・スイッチシステムを使い、2つのクロノグラフを連結する「だけ」で複数の使用方法を提案し、様々な時間計測に便利に使えるより実用機としてのクロノグラフを提案しています。



設計はユニークなパーペチュアルカレンダーを製作したステファン・マクドネル、WMOでは過去に彼が作り上げた「メカニカルプロセッサー」を用いたパーペチュアルカレンダーの仕組みを徹底解説しています。



レガシーマシン サンダードームの時のように「追加情報」を提供いただくことで「ツインバーター」の仕組みだけではなく、ユニークなクロノ輪列の構造も分かりましたので、「いつもの」レポートです。

まず、「ツインバーター」から見ていきましょう。
これは、Twin(2つの)とInverter(反転機)を組み合わせた言葉で、この機能の性質を如実に表しています。



左右に分かれた線対称の2つのクロノグラフ輪列は、互いに独立にスタート・ストップ(発停)とリセット(帰零)ができる独立したクロノグラフです。
それぞれの状態はコラムホイールで管理され、発停レバー、上の図には写っていませんがリセットレバーも独立にあります。
MB&Fが提案する4つのモードのうち、「独立計測モード」はそれぞれのクロノグラフを独立に発停・帰零させて単なるクロノグラフ×2として使うモードです。

ツインバーターは2つのクロノグラフコラムホイールの中間に配置され、「2つのコラムホイールを同時に1ステップ進める」という動作を行います、すると何が起こるのでしょうか?

2ボタンクロノグラフにおいて、コラムホイールは2つの状態、すなわちクラッチが繋がっている(クロノグラフが動作している)と切り離されている(クロノグラフが停止している)を管理しており、1ステップ進むごとに状態が反転します。
この「1ステップ進むごとに状態が反転する」を2つのクロノに対して同時に行うのが「ツインバーター」で、動いていた計測は停止し、逆に停止していた計測はスタート(または再開)します。

この仕組みを使って、MB&Fが提案する4つのモードのうち残りの3つが実現されます。

2つの計測を同時に始めるのが「同時計測モード」、両方を停止した状態でツインバーターによって停止→動作を同じタイミングで行う事で同じ時間にスタートした独立した測定を行うことができます。
例として、2台の車が同時スタートし、それぞれがゴールしたタイミングで停止させてそれぞれのゴール時間を記録する、が挙げられています。
これは従来のスプリットセコンドと同じことを計測できるモードですが、独立した分積算計があるため1分以上の差も記録することができます。

互いに独立した積算時間を測るのが、「積算時間モード」、片方が動いている状態でツインバーターを動作させると動いていた方は停止し、停止していた方がスタート(または再開)するため、押すたびに「動いている方が切り替わる」という動作をし、たがいに重ならない2つのタスクの積算時間を求めることができます。
例として互いに持ち時間があり交互に思考するチェスの待ち時間が挙げられています。

積算時間モードにそれぞれのリセットを組み合わせると「連続計測モード(ラップモード)」、片方が測定している間にもう片方の記録とリセットを行う事で、連続した測定を切れ目な行うことができ、その名前の通りサーキットを何週もするレースのラップタイムを計算を使わなくても記録できる、というモードです。

より具体的な仕様イメージはニュースにも掲載した動画を見るのが分かりやすそうです。



SEQUENTIAL MODE=連続計測モード
SIMULTANEOUS MODE=同時計測モード
INDEPENDENT MODE=独立計測モード

この動画では積算計測モードは説明されていませんが、なんとなくのイメージは伝わったでしょうか?
2つのクロノグラフ輪列があるので複雑ではあるのですが、スプリットセコンドのように「建て増し」ではなく、2つの機構を最小限の連結によって便利に使えるようにした、というツインバーターの発想は、「同じこと」が実現できるならシンプルな方がより良い、という考え方に繋がっていると思います。

さて、ツインバーターの理解のために提供してもらったCAD図を見ていると、「まさか…」という点がありました。



それがこれです。
実際には写真の時点で違和感がありましたが、CAD図で確信に変わったと言っても良いでしょう。
クラッチ同軸の4番車(1分で1回転)から伝え車を伝わってガンギに至る輪列終端は9時から3時の横向きに並んでいますが、2つの香箱は12時から6時の縦向きに並んでいます。

計時輪列を追ってみましょう?



なんと、ガンギ車で合流する並列ツインバレルです!
2つの香箱から出た輪列は点対称に配置され、それぞれの加速輪列、クロノの4番車兼クラッチ軸を通り、最終的にガンギ車で合流して1つの脱進機を動かす輪列となります。
この構造により、全ての輪列の歯車にトルクがかかり、2つのクロノのために伝え車を用意しなくていいため、自然に2つのクロノを搭載することができます。



4番車にダイレクトに配置された垂直クラッチがクロノ輪列と計時輪列の接続・切断を行います。
この4番車は香箱からのトルクが一定方向にかかっているため、針飛びの要因となる歯車のバックラッシによる遊びは無くなっており、針飛びを押さえる為に摩擦で抵抗(疑似トルク)をかけるフリクションスプリングを省くことが可能となりました。



垂直クラッチはクラッチ本体に中空の4番車が重なった構造になっています。
コラムホイールから制御される「ペンチ」がクラッチスプリングを押さえると切断、解放すると4番車とクラッチディスクが接続されクロノグラフが動作します。


同軸構造となる4番車とクラッチ軸の間はルビー受けが設けられ、摩擦を低減しています。



クラッチで接続された出力はそのまま秒積算計の出力になるとともに、伝え車で30分積算計に伝わります。
計時輪列が点対称の構造だったのに対し、こちらは線対称の構造となっており、線対称と点対称をうまくミックスするような設計が行われていることが分かります。
これが、ステファン・マクドネルの「俺のやり方」と理解しました。

パーペチュアルカレンダーもそうでしたが、一見するとシンプルなものに根本的なユニークな改良を加えているレガシーマシンのコンプリケーション、実物が見てみたい!



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シャリス・ヤディガログルー cy@mbandf.com/アルノー・レジュレ arl@mbandf.com
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